著者
杉橋 陽一 石光 泰夫 川名子 義勝 長木 誠司 田中 純 一條 麻美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究においては次のような成果を得た。1.中世の伝説・説話が伝承されてゆく過程における語り手と聞き手の相互作用、および文字による記録がそこに与えた変化の考察、および、中世からルネサンスにいたるポリフォニックな教会音楽における聴取経験と歌唱法の分析をおこなった。そのうえで、宗教による社会統合との協同ないし葛藤のプロセスを明らかにした。2.ルネサンスからバロック時代にかけての、ページェントや祝祭における観衆の役割と「見せ物」の社会的効果の考察、および、オーケストラによるコンサートという聴取形態の成立過程と、そこにおける作曲者、演奏者、聴衆の関係性の変化をめぐる歴史的分析をおこなった。3.ヨーロッパ18世紀の市民文化成立期において、異なる書き手による手紙や日記、文学作品が相互に引用し関係しあってかたちづくっていた、異種混淆した言説空間の双方向的様態を究明した。また、19世紀後半以降のインテリア(私的空間)のデザインをめぐる住文化における建築家と居住者との対立・協調プロセスを、とくにウィーンの動向を中心に分析した。このような西洋の芸術の動向と比較しながら、日本における集団的な競技としての文芸の伝統(連歌、俳句)や茶の湯を、インタラクティヴィティの観点から考察した。4.マルセル・デュシャンやジョン・ケージをはじめとする芸術家たちによる営為が、いかに「芸術」概念の再検討をうながし、鑑賞者の位置にどのような変容をもたらしたかを、その後の現在にいたるインタラクティヴ・アートの動向との関係を視野に収めながら分析した。
著者
杉橋 陽一 長木 誠司 川中子 義勝 石光 泰夫 一條 麻美子 田中 純 中村 健之介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究からは芸術のメディア的戦略をめぐり、次のような成果が得られた。1.中世から近世への歴史的展開のなかで、文学や神学が印刷術などによるコミュニケーション上の組織化を通じて社会層や価値共同体の形成に寄与した実態が、実証的に究明された。2.身体表現を中心に複数の芸術が総合されて実現されたマルチ・メディア的な芸術の新しい情報伝達手法が、オペラやバレエ作品の実例に即し、歴史的に分析された。3.文学や文字メディアにおける俗語革命や出版の資本主義とその他のメディアによる情報流通のシステムの相互作用が、市民社会的共同体形成途上にあった近代のドイツにおける事例、および明治以降の近代日本における事例を相互比較しながら分析された。4.建築や音楽の言語性と象徴性が20世紀にかけて生じた機能性の増大と形態の抽象化等々の変動のなかで獲得した新たな意味論を、シェーンベルク以降の音楽および現代建築を対象として考究した。5.近代的な「イメージ」の成立機制を、19世紀に発明された写真というメディアをめぐる言説分析を通じて考察し、写真的<メディア戦略>のパラダイムの所在を追跡した。6.マクルーハン以降、現在のドゥブレによるメディオロジーやキットラーのメディア理論の批判的検討を行い、その理論的可能性を現代の舞踊・音楽などの芸術的実践の分析を通じて探究した。7.メディア・アートの領域において、芸術家同士、あるいは技術メディア自体のインタラクティヴな活動がはらむ新たな芸術形態の可能性を、現在の多様な創作状況に即して検証した。