著者
齋藤 梨央 井所 和康 三上 紘史 仲島 佑紀
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.G-109_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】当院では、転倒予防の観点から運動器疾患を有する通院患者を対象とした歩行年齢測定会を実施している。転倒関連自己効力感は、高齢者において身体機能やADL能力の低下、QOLにも影響を与えるとされており、我々は先行研究で運動器疾患を有する患者の転倒歴は転倒関連自己効力感を低下させると報告した。しかし、転倒関連自己効力感の向上に関して有意性のある評価項目は明らかになっていない。本研究の目的は、転倒関連自己効力感に影響を及ぼす評価項目を調査し、その評価項目における具体的な目標値を算出することである。【方法】対象は2017年の歩行年齢測定会に参加した計58名(男性5例、女性53例、平均年齢74±7.6歳、平均身長153.6±6.6cm、平均体重54.8±9.9kg)とした。先行報告より、国際版転倒関連自己効力感尺度(FES-I)は64点満点中24点以上で転倒との関連性が報告されている。歩行年齢測定会にてアンケート調査より日本語版FES-I 24点以上と24点未満の2群に群分けした。調査項目は体組成3項目(身長、体重、骨格筋量)、身体機能10項目(握力、片脚立位予測値・計測値、立ち上がりテスト予測値・計測値、2ステップテスト、Timed Up & Go Test (TUG)、ファンクショナルリーチテスト(FRT)、5m歩行、5mタンデム歩行テスト)の計13項目とした。予測値は、片脚立位5秒保持が可能か、両脚または片脚で何cmの台から立ち上がれるかをテスト実施前に聴取した。統計学的解析は日本語版FES-Iの2群間比較において各調査項目の差をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した。さらに、有意差が認められた因子を説明変数としROC曲線分析を用いてカットオフ値を算出した(R2.8.1)。有意水準は5%とした。【結果】日本語版FES-I 24点以上群で有意差が認められた項目は、片脚立位計測値(p=0.02)、立ち上がりテスト予測値(p=0.00)、立ち上がりテスト計測値(p=0.00)の3項目であった。有意差が認められた3項目のROC曲線から得られたカットオフ値、感度、特異度は、片脚立位計測値では26.5秒、62%、76%、立ち上がりテスト予測値では両脚10cm、76%、68%、立ち上がりテスト計測値では両脚10cm、90%、59%であった。【結論】本研究より転倒関連自己効力感の低下した高齢者は、自己効力感低下の原因とされる筋力やバランス能力を反映する片脚立位と立ち上がりテスト予測値・計測値ともに有意に低値を示した。また、予測値は自身の身体機能に対する自信を示し、予測値の低下に伴う転倒関連自己効力感の低下は不必要な活動制限やそれに伴う生活機能低下を招く可能性があることから、実際の身体機能とともに介入が必要である。転倒関連自己効力感に対して運動介入が効果を示すとされ、本研究で算出されたカットオフ値を目標とした評価・運動療法の実施は、身体機能向上による転倒関連自己効力感向上に有用であると考える。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき対象者へ研究の目的・内容を十分に説明し同意を得たうえで行った。