著者
三宅 範明 宮本 忠幸
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第56回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.114, 2007 (Released:2007-12-01)

<緒言> 慢性血液透析を実施するにはバスキュラーアクセス(VA)が不可欠である。標準的内シャント(橈骨動脈-橈側 皮静脈間の皮下動静脈瘻)作製が自己血管の荒廃のため困難な症例が増加している。そのような症例では人工血管の使用、動脈表在化などによりVAを確保するという方法もある。しかし、いずれの方法でもVAを作製し得ない場合には血流量の多い静脈を毎回、直接穿刺する方法が選択される症例が出て来る。大腿静脈を直接穿刺する報告は散見されるが内頚静脈の直接穿刺の報告は少ない。今回我々は内頚静脈を直接穿刺し長期間血液透析を実施した症例を経験したので報告する。 <症例提示>: 症例: 80歳、女性 現病歴; 2000年3月、多発生嚢胞腎に起因する腎機能低下のため近医より紹介となる。同年11月21日、左手関節近傍で内シャント作製するもシャント血管の成長は不良であった。2001年4月10日、血液透析開始(BUN109,Cr 8.02)したが数日で内シャント閉塞のため4月18日に右手関節近傍で内シャント再建術を実施した。この内シャントは同年8月まで使用可能であったがシャント血管の狭窄、血流低下を生じ閉塞に至った。この時期より右内頚静脈の直接穿刺を開始した。以後、両側肘関節部、上腕部での自己血管による内シャント再建術、人工血管植え込み術、動脈表在化など(合計6回の手術)行ったがいずれも長期間はVAとして機能しなかった。2004年6月より左肘関節部での上腕動脈直接穿刺法と内頚静脈直接穿刺法を併用したが2006年10月からは内頚静脈直接穿刺法のみで血液透析を行っている。返血には外頚静脈を主に用いている。 <考察> 慢性腎不全の維持血液透析患者にとってVAは文字通り命の綱であり、必須のものである。近年、慢性血液透析の新規導入症例に占める糖尿病性症例の頻度は増加している。そのような症例では動静脈ともに標準的内シャント作製に不適である場合が多い。すなわち動脈硬化や長期間、採血のために穿刺を繰り返したことに起因する静脈の荒廃などによって内シャント作製そのものが困難であったり、作製し得てもシャント血管の発育が不良である症例が少なくない。 自己血管による内シャント作製が困難である場合、1)人工血管植え込み術、2)動脈表在化、3)長期留置型カテーテルの中心静脈への挿入留置、などが対応策として考慮される。 1)、2)は動静脈に問題を有する症例が多いため必ずしもVA確保に成功するとは言い難い。3)には血栓によるカテーテルの閉塞、カテーテル先端部が血管壁に密着することに起因する脱血不良、カテーテル感染などの危険性がある。 大腿静脈の直接穿刺により血液透析を長期間続行しえたとの報告は散見されるが、我々の調べ得た範囲では長期間、内頚静脈を使用したとの報告は無い。内頚静脈穿刺は大腿静脈穿刺に比し患者さんの羞恥心が軽減されるという利点がある。内頚静脈穿刺の合併症として大腿静脈穿刺と同様、動脈の誤穿刺があるが適切な圧迫止血で対応可能である。VAが自己血管や人工血管を用いても作製しえない症例にとって本法は選択肢の一つとなりうると思われる。 <結論> 諸般の事情により自己血管あるいは人工血管によるVAが作製できない場合には内頚静脈直接穿刺により血液透析を続行するという方法は1つの選択肢になりうると思われる。
著者
三宅 範明 宮本 忠幸
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第59回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.299, 2010 (Released:2010-12-01)

<緒言> 高度な医原的尿道下裂(iatrogenic hypospadia)を2例を経験したので報告する。 <症例提示> 症例1: 78歳、男性 既往症:脳梗塞、認知症。現病歴:某介護老人保健施設に入所中。2008年7月より排尿障害のためバルーンカテーテルが留置されていた。2009年11月30日カテーテルによる”尿道損傷”のため当院紹介となり受診。尿道腹側は陰茎根部近傍まで“切開”され尿道粘膜が露出しており医原的尿道下裂と判断。12月10日に膀胱瘻を作成し、バルーンカテーテルは抜去した。膀胱瘻の交換は紹介医に依頼。 症例2:83歳、男性 既往症:脳梗塞(1996年、2007年)、認知症、高血圧。現病歴:某介護老人保健施設に2007年4月より入所中。バルーンカテーテル挿入時期は不明。2010年1月13日、誤嚥性肺炎の疑いで当院内科に紹介となり同日入院。1月14日、“尿道口の位置異常”のため当科紹介となる。外尿道口は陰茎根部まで“後退”し、尿道粘膜が露出していた。医原的尿道下裂と診断するも全身状態を考慮し積極的処置は実施せず経過観察とした。 <考察> 定義:尿道に(長期間)留置されたカテーテルにより尿道、陰茎皮膚が裂け、尿道口が後退した状況。発生機序:カテーテルの不適切な固定、牽引による尿道腹側の持続的な圧迫。報告例:Inoueらの報告によれば、彼らの経験例を含め23例が現在までに報告されている。対応策:膀胱瘻への変更が最も高頻度になされており以下、カテーテル留置続行、尿道再建術実施の順である。予防方法:カテーテル留置が必要な場合でも可及的に短期間とし固定方法に留意する。カテーテル留置が長期となる場合には膀胱瘻への変更を考慮する。 <結論> 尿道カテーテル留置の際には本疾患の発生の危険性を念頭に置くべきである。