著者
河野 将光 佐藤 亮 三宮 克彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】熊本地震発災後の平成28年6月14日,震源地である益城町で応急仮設団地入居が開始された。JRATは益城町役場隊を配置。役場の各関係課と協力して仮設住宅初期改修対応を進めてきた活動内容を報告する。</p><p></p><p>【方法】5月21日仮設住宅950世帯の1次募集開始。5月23日益城町役場内に役場隊配置。保健師と共に高齢者,障がい者等に対し,抽選時にスロープ付仮設住宅への入居マッチングを提案(却下)。そこでJRATが避難所で個別対応した237名と仮設住宅当選者との突合を相談(交渉難航)。6月9日仮設住宅抽選発表。6月14日初の仮設団地鍵渡し実施。役場隊は関係課より仮設住宅平面図を入手,住環境確認。6月18日別の仮設団地鍵渡しに役場隊が参加し初期改修の説明実施。6月22日保健師情報よりJRAT個別対応者のうち仮設住宅当選者が47名と判明。6月21日役場隊が関係課と協議し仮設住宅2次募集の申込書には「移動が車椅子」の選択肢が入る。初期改修の流れを関係課で統一。6月25日初期改修対応開始。JRAT活動中の初期改修依頼は40件,7月30日迄でJRATが受けた訪問調査は終了した。</p><p></p><p>【結果】初期改修対応は各関係課が混乱多忙状態,個人情報提供が困難等により初期改修希望申請に対応する,とした。仮設住宅は1DK,2DK,3DKの3タイプ,基本設計はどの仮設団地も概ね同じ。玄関外に2~3段の段差,トイレ浴室前,浴室入口に約10cmの段差。玄関内部,トイレ内部,浴室扉部には手すりがあった。初期改修受付は復興課が窓口となり役場隊へ情報提供。役場隊は日程調整し活動隊が現場で評価し必要最小限の改修案をまとめ役場隊へ報告。役場隊は復興課へ報告書を提出した。初期改修の状況について,対象者は高齢者38名,未成年2名であった。また1名を除き被介護保険者または身障手帳,療育手帳を持っていた。対応内容は,段差対応が31件。内訳は玄関への対応が26件中段差昇降用手すり設置17件,スロープ設置8件であった。またトイレ前・浴室前の段差の手すり設置は14件であった。</p><p></p><p>【結論】仮設住宅は構造上段差が生じるため,段差昇降が困難な高齢者や車いす生活者は不自由が生じる。初期改修は段差対応が多く,構造上段差部改修対応は予め予測できた。活動隊は,復興費用を使った改修対応を意識し必要最小限の改修を心掛けてもらった。また仮設住宅に対しては,我が国が超高齢社会であるため段差部へはあらかじめ手すりの設置,さらには段差がない仮設住宅の開発を望みたい。また,JRAT活動期間中に初期改修対応手順が構築できた要因としては,震災後の混乱の中役場隊が益城町の各関係課の状況を理解し,日々変化する状況への対応し,錯そうする情報を整理しながら信頼関係を構築したことによりJART活動を啓発できたことがあげられた。今回の経験から有事に際し,発災直後から自治体にJRATが組み込まれた枠組みの構築が望まれる。</p>
著者
岩下 功平 三宮 克彦 徳永 誠 渡邊 進 野口 大助 中薗 寿人 當利 賢一 當利 綾 大迫 健次 松本 彬 田中 昭成 中井 友里亜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1192, 2012

【はじめに】 当院における脳卒中片麻痺患者のクリティカルパスは、入院時のFunctional independence measure(以下FIM)を基に、A~Eの5コースに分類している。各コースはそれぞれアウトカム設定が異なり、A、B、Cコースでは退院時移動手段を歩行獲得に設定している。今回、その中でも歩行獲得困難なCコース(入院時FIM70~89点)に関して、退院時の身体機能から歩行獲得に影響を及ぼしている要因を分析したので報告する。【方法】 対象は、当院の回復期リハビリテーション病棟に入棟した初発の脳卒中片麻痺患者でCコースに該当する79例とした。退院時の実用移動手段が歩行であったものを歩行群、歩行以外であったものを非歩行群に分類した。調査項目は、年齢、性別、退院時Fugl-Meyer Physical Performance Scale(以下FM)とした。FMにおいては、股・膝・足関節の随意運動、下肢の協調性・スピード、バランス、感覚、関節可動域、疼痛の6項目のそれぞれの合計点を用いた。FMの評価尺度は、各小項目が3段階で点数化されており、点数が高いほど正常に近いことを意味する。各項目を歩行群と非歩行群の2群間でMann-WhitneyのU検定及びカイ二乗検定を用いて検討した(P<0.05)。次に歩行群と非歩行群の間で有意差のあった項目を独立変数とし、退院時実用歩行の可否を目的変数としてロジスティック回帰分析(Stepwise)を行った。【説明と同意】 当院の倫理委員会の規定に従って承認を得て実施した。【結果】 年齢、性別において、歩行群は、平均年齢66.5±14.2歳、男性45名女性14名、非歩行群は、平均年齢69.4±12.6歳、男性11名女性9名であり、2群間で有意差は認めなかった。FMは、股・膝・足関節の随意運動(歩行群中央27点最大32点最小11点、非歩行群中央17点最大28点最小8点)、下肢の協調性・スピード(歩行群中央6点最大6点最小2点、非歩行群中央4.5点最大6点最小2点)、バランス(歩行群中央12点最大14点最小6点、非歩行群中央8.5点最大11点最小4点)、感覚(歩行群中央20点最大24点最小8点、非歩行群中央13.5点最大24点最小2点)、関節可動域(歩行群中央44点最大44点最小20点、非歩行群中央41点最大44点最小30点)、疼痛(歩行群中央44点最大44点最小20点、非歩行群中央41.5点最大44点最小38点)の全ての項目で歩行群が有意に高かった(P<0.05)。ロジスティック回帰分析においては、FMバランス(p=0.0051、95%信頼区間1.31-3.82、オッズ比2.10)、感覚(p=0.0071、95%信頼区間1.10-1.63オッズ比1.30)が歩行獲得に有意な関連性があった。【考察】 脳卒中片麻痺患者の歩行獲得の要因は、年齢、性別、発症部位、発症から入院までの期間、麻痺側、在院日数、随意運動、感覚障害、高次脳機能障害、認知機能、バランス機能など多様な報告がある。しかし、歩行獲得に関連する諸因子を抽出することは、その病態の多様性から容易でない。本研究においては、入院時FIMが70~89点の脳卒中片麻痺患者に限定しており、歩行群と非歩行群の年齢、性別において有意差を認めず、影響はない。FMは、股・膝・足関節の随意運動、下肢の協調性・スピード、バランス、感覚、関節可動域、疼痛の全項目で有意に点数が高く、身体機能全般において歩行群の能力が高いことがわかった。また、ロジスティック回帰分析により、歩行獲得にはFMのバランス、感覚との関連が高く、歩行獲得に重要な要因であることが示唆された。望月やBohannonらは、脳卒中片麻痺患者の立位バランスが歩行能力に深く関与していると述べており、本研究においてもバランスが歩行獲得に関連する結果となった。しかし、バランス項目の詳細な内容やその他のバランス評価との関連性については言及できず、今後さらに検討していく必要があると考える。歩行獲得と感覚の関連性においては、諸家の意見は様々であった。臨床の現場においても重度の感覚障害患者は歩行獲得に難渋する印象にあるが、推測の域のため今後、詳細に検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】 FMは標準化された脳卒中患者の身体機能評価として世界的に使用されており、その評価を用いて歩行獲得に関与する要因を検討することは重要と考える。また、今回の研究においては、入院時FIM70~89点で歩行予後が判断しにくい症例が、歩行獲得を目指す上でFMのバランスと感覚が1つの指標となる可能性がある。