- 著者
-
三森 国敏
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本毒性学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- vol.39, pp.S8-3, 2012
新しい医薬品のがん原性試験ガイドラインがICHで1997年に策定され、ラットの2年間がん原性試験に加えて遺伝子改変(Tg)マウスを用いた短期がん原性試験からもがん原性が評価できるようになった。一方、そのガイドラインの策定から約15年が経過し、Tgマウスの欠点も明らかとなり、また、2年間のがん原性試験においても種々の問題が派生してきている。例えば、rasH2マウスやp53 ヘテロ欠損マウスは遺伝毒性発がん物質に感受性が高いが、一部のin vitro遺伝毒性試験で陽性で、Tgマウスでの短期がん原性試験で陰性の場合、長期がん原性試験が必ずしも陰性となる保証はないとの指摘がなされている。また、従来の遺伝毒性試験が陰性で、長期がん原性試験が陽性であった医薬品の場合は、ビッグブルーマウスの遺伝子突然変異試験のように、in vivo遺伝毒性試験を追加してその作用が遺伝毒性によって生じたものかを明確にせざるを得ない場合もある。一方、追加in vivo遺伝毒性試験で陰性であった場合は、その発癌促進作用の機序解明が必要となるが、必ずしもその機序を解明するための動物モデルが開発されておらず、さらなる機序解明ができない場合もある。最近gptデルタラットが開発され、一つの試験系で同一臓器での遺伝子変異と発がんとの関連性を明確にすることができる。この試験系では、従来のような遺伝毒性とがん原性試験を別々に実施することはなくなり、今後の遺伝毒性発がん物質を検出できる試験系として有用であると思われる。 反復投与毒性試験から発がんの懸念がない場合は、ラットの長期がん原性試験を省略できるとの新しいガイドラインがICHから提案されているが、上記のように、がん原性を評価する試験系においても種々の問題点が派生してきており、医薬品開発の迅速化を求めるために本来のリスク評価が疎かになるようなことは絶対に避けるべきである。