著者
田篭 慶一 中川 法一 生友 尚志 三浦 なみ香 住谷 精洋 都留 貴志 西川 明子 阪本 良太 堀江 淳 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1131, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 変形性股関節症患者の多くはDuchenne跛行のような前額面上での体幹の姿勢異常を呈する.この原因については,外転筋力や可動性の低下など股関節機能の問題によるものと考えられてきた.しかし,長期にわたり同じ跛行を繰り返すことにより,股関節のみならず体幹にも問題が生じている可能性がある.本研究では,末期股関節症患者における体幹機能障害を明らかにするため,端坐位での側方傾斜刺激に対する体幹の姿勢制御反応がどのように生じるか,側屈角度の計測により検討したので報告する.【方法】 対象は,末期股関節症患者25名とした(平均年齢59.0±9.5歳).患側と健側を比較するためすべて片側症例とし,健側股関節は正常または臼蓋形成不全で疼痛や運動機能制限のない者とした.また,Cobb角10°以上の側弯がある者,神経疾患等の合併症がある者,測定中に疼痛を訴えた者は対象から除外した. 方法は,まず側方に最大15°傾斜する測定ボード上に端坐位をとり,測定ボードを他動的に約1秒で最大傾斜させた時の体幹側屈角度を計測した.次に水平座面上に端坐位をとり,反対側臀部を高く引き上げて骨盤を側方傾斜させる運動を行い保持した際の体幹側屈角度を計測した.測定は閉眼で行い,足部は接地せず,骨盤は前後傾中間位となるようにした.運動は,まずどのような運動か確認させた後各1回ずつ実施した. 体幹側屈角度を計測するために第7頸椎(C7),第12胸椎(Th12),第5腰椎(L5)の棘突起および左右上後腸骨棘,肩峰にマーカーを貼付し,測定時に被験者の後方より動画撮影した.得られた動画から安静時および動作完了時のフレームを抽出し,画像解析ソフト(ImageJ1.39u,NIH)にて側屈角度を計測した.なお,側屈角度はマーカーC7,Th12,L5がなす角を胸部側屈角度とし,左右上後腸骨棘を結んだ線分に対するTh12とL5を結んだ線分のなす角を腰部側屈角度とした.さらに,左右上後腸骨棘を結んだ線分の傾きを骨盤傾斜角度,左右の肩峰を結んだ線分の傾きを肩峰傾斜角度とした.体幹側屈の方向については運動方向への側屈を+,反対側への側屈を-と定義し,それぞれ安静時からの変化量で表した. 統計処理は,各運動における胸部および腰部の側屈角度,骨盤および肩峰の傾斜角度の平均値を患側と健側で比較した.また胸部と腰部の側屈角度についても比較した.差の検定には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理規定に則り実施した.対象一人ひとりに対し,本研究の趣旨および内容を書面にて十分に説明し,署名をもって同意を得た.【結果】 測定ボードで側方傾斜させた際の体幹側屈角度は,患側が胸部-10.3±5.7°,腰部-6.6±3.3°となり骨盤傾斜は12.4±4.3°,肩峰傾斜は-3.8±6.5°となった.健側では胸部-9.6±4.5°,腰部-7.2±4.1°となり骨盤傾斜は13.6±4.1°,肩峰傾斜は-2.0±5.7°となった.各項目において患側と健側で有意差はみられなかった.また,患側では腰部より胸部の側屈角度が有意に大きく(p<0.05),健側では有意差はみられなかった. 反対側臀部挙上による体幹側屈角度は,患側が胸部-8.4±6.5°,腰部5.1±5.0°となり骨盤傾斜は19.8±5.3°,肩峰傾斜は14.7±7.8°となった.健側は胸部-12.3±5.6°,腰部1.4±4.9°となり骨盤傾斜は23.0±4.9°,肩峰傾斜は12.0±8.3°となった.胸部および腰部の側屈角度,骨盤傾斜角度において患側と健側の間に有意差がみられた(p<0.05).また患側,健側ともに胸部と腰部で差がみられた(p<0.01).【考察】 今回,測定ボードにて他動的に座面を側方に傾斜させた場合の反応として,患側は胸部の側屈が腰部に比べ大きくなった.これは,腰部での立ち直りの不十分さを胸部の側屈で補う様式となっていることを示していると考えられる.この原因としては腰部の可動性低下や筋群の協調性低下などが考えられるが,腰部の側屈角度は健側と差がなかったことから,両側性に腰部側屈可動域制限が生じており,それが今回の結果に影響していると思われた.一方,自動運動として反対側臀部挙上を行った場合の反応については,患側は健側に比べ骨盤傾斜が少なく,腰部の同側への側屈が大きくなった.これは,患側では健側と比べ十分なcounter activityが生じていないことを示していると考えられる.すなわち,可動性のみならず体幹筋群の協調性にも問題がある可能性が示唆された.今回の結果から,片側股関節症患者においては体幹の姿勢制御に関する運動戦略の変容を来していることが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】 変形性股関節症患者の姿勢異常には様々な要因があると考えられるが,股関節機能のみでなく総合的アプローチが必要であり,体幹機能について評価・研究することは重要である.
著者
生友 尚志 田篭 慶一 三浦 なみ香 中川 法一 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0527, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】人工股関節全置換術(THA)後1年間の筋力の推移を報告した研究はほとんどない。本研究の目的は,THA術前から術後1年間の股関節外転(股外転)筋力と膝関節伸展(膝伸展)筋力の推移を明らかにすることである。【方法】対象は当クリニックにて初回片側THAを施行した女性64名とした。対象者は全例が片側の変形性股関節症であり,平均年齢は63.6±9.4歳,罹病期間は7.7±6.6年,Harris Hip Scoreは61.7±11.3点であった。手術は全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術前後のリハビリテーションは同一の理学療法士が主に担当し,1日2回計2~3時間程度週6日実施した。術後2日目より歩行開始し,筋力トレーニングは対象者の回復状況に応じて実施した。股外転筋力トレーニングは,術後3か月までは創部への過負荷を避けるため高負荷な股外転運動は実施せず,ゴムバンドを用いた運動を中心に実施した。術後3か月以降は側臥位や荷重位での股外転運動などの積極的な股外転筋力トレーニングを追加して実施した。膝伸展筋力トレーニングは術後早期より積極的に術側下肢への荷重練習を実施し,段差昇降運動や自転車エルゴメーターなどを実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月,1年時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,両側の股外転と膝伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は,術前,術後3週,3か月,6か月,1年時とした。測定方法は,股外転は背臥位にて股外転0度で大腿遠位外側部にて測定,膝伸展は端座位にて膝関節屈曲約80度で下腿遠位前面にて測定した。測定には固定バンドを使用し全て同一検者にて行い,約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し,その最大値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また各筋力の患健差の推移を検討するために患健比(患側トルク体重比/健側トルク体重比×100)を算出した。統計解析は,各筋力の測定時期におけるトルク体重比の比較には,Friedman検定と多重比較検定を用いた。患健比の推移の比較には,測定時期,筋力間を要因とした二元配置分散分析を用いた。全て有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭ならびに書面にて本研究の趣旨を説明し,研究参加の同意書に署名を得た。【結果】股外転筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は0.70±0.26Nm/kg,0.93±0.27Nm/kg,術後3週は0.67±0.23Nm/kg,0.89±0.22Nm/kg,術後3か月は0.87±0.26Nm/kg,1.01±0.24Nm/kg,術後6か月は0.95±0.25Nm/kg,1.06±0.24Nm/kg,術後1年は1.04±0.28Nm/kg,1.10±0.29Nm/kgであった。股外転筋力の患健比は,術前は75±17%,術後3週は75±15%,術後3か月は86±16%,術後6か月は90±13%,術後1年は95±12%であった。膝伸展筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は1.07±0.39Nm/kg,1.42±0.44Nm/kg,術後3週は1.00±0.28Nm/kg,1.44±0.40Nm/kg,術後3か月は1.30±0.36Nm/kg,1.56±0.40Nm/kg,術後6か月は1.39±0.39Nm/kg,1.57±0.41Nm/kg,術後1年は1.48±0.40Nm/kg,1.62±0.41Nm/kgであった。膝伸展筋力の患健比は,術前は76±18%,術後3週は70±13%,術後3か月は84±15%,術後6か月は90±16%,術後1年は92±16%であった。Friedman検定の結果,両筋力ともにトルク体重比は測定時期によって有意な差がみられた(p<0.01)。多重比較検定の結果,患側のトルク体重比は術前と術後3週では有意な差は無く,術後3か月,6か月,1年では術前と比較して有意に高かった(p<0.05)。分散分析の結果,患健比の測定時期,筋力間の要因による交互作用はみられなかった。両筋力ともに測定時期間では患健比の有意な差がみられたが(p<0.01),両筋力間では患健比の有意な差はみられなかった。【考察】本研究の結果より,患側の股外転筋力と膝伸展筋力ともにTHA術後3週時には概ね術前の水準まで回復しており,術後3か月以降は術前と比べて有意に改善を示し,その後術後1年まで改善し続けることがわかった。また,患健比は両筋力ともに測定時期間での有意な改善はみられるが,術後1年間の推移については両筋力間に有意な差はみられなかった。先行研究では,THA術後早期において他の股関節周囲筋の筋力に比べて膝伸展筋力の回復が遅延することが報告されている。しかし,本研究により術後1年間においては股外転筋力と膝伸展筋力の回復には差がないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,THA後1年間の股外転筋力と膝伸展筋力の推移の参考値の1つとなり,THA術前後のリハビリテーションにおいて意義があると考える。