著者
生友 尚志 永井 宏達 西本 智一 田篭 慶一 大畑 光司 山本 昌樹 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0851, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】広背筋は上半身の中で最も大きい筋であり、その働きは多岐にわたる。この広背筋の筋電図学的研究は多くなされているが、その中でもPatonらは広背筋を6つに分けて筋活動の測定を行い、機能的な分化があることを報告している。また、前田らも同様の方法により行っているが、両者とも肩関節運動時の筋活動を測定しており体幹運動時の筋活動は測定していない。さらに広背筋の体幹伸展、回旋動作の研究は多く行われているが、体幹側屈動作時の筋活動の研究は少ない。本研究の目的は、体幹側屈動作を先行研究に加えて測定し、広背筋の体幹側屈時の筋活動とその機能的分化について筋電図学的特徴を明らかにすることである。【対象と方法】対象は上下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢24.9±3.0歳)とした。なお、被験者には本研究の趣旨を説明し同意を得た上で測定を行った。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導法にて行った。測定筋は右広背筋とし、Patonらの方法をもとに広背筋をC7棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で等間隔に4つ(広背筋上部、中上部、中下部、下外側部)に分け、筋線維に平行に表面電極を貼付した。また、体側のTh9の高さの筋腹(広背筋上外側部)にも貼付した。測定動作は腹臥位での右肩関節伸展・内転・水平伸展・内旋・下方突き押し、端座位での体幹右側屈・プッシュアップ、側臥位での体幹右側屈・右股関節外転・左股関節内転、背臥位での右骨盤引き上げ運動の計11項目とした。プッシュアップは端座位で臀部を床から持ち上げた状態で3秒間保持した時の積分筋電図値(以下IEMG)を、それ以外は3秒間最大等尺性収縮した時のIEMGを求め、それらを徒手筋力検査に準じた肢位にて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各部位ごとに%IEMGを求めた。統計処理は反復測定分散分析を行った。【結果と考察】各動作において部位ごとの%IEMGを比較すると、全ての動作において有意な差がみられた。肩関節水平伸展、内旋においては広背筋上部が他の部位に比べて高値を示し、肩関節内転やプッシュアップは広背筋下外側部が高値を示した。肩関節下方突き押しについては広背筋上外側部、下外側部が高値となった。これに対して、体幹側屈動作では側臥位体幹右側屈において広背筋上外側部、中下部、下外側部が高値を示し、座位体幹右側屈、側臥位右股関節外転・左股関節内転、背臥位右骨盤引き上げ運動においては広背筋下外側部が高値となった。本研究の結果より、広背筋は筋線維により機能的に分化していることが確認できた。また、広背筋の上部線維は肩関節運動時に大きく働き、外側線維については体幹の側屈を伴うような運動時に大きく働くということが示唆された。
著者
生友 尚志 永井 宏達 西本 智一 田篭 慶一 大畑 光司 山本 昌樹 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0851, 2006

【目的】広背筋は上半身の中で最も大きい筋であり、その働きは多岐にわたる。この広背筋の筋電図学的研究は多くなされているが、その中でもPatonらは広背筋を6つに分けて筋活動の測定を行い、機能的な分化があることを報告している。また、前田らも同様の方法により行っているが、両者とも肩関節運動時の筋活動を測定しており体幹運動時の筋活動は測定していない。さらに広背筋の体幹伸展、回旋動作の研究は多く行われているが、体幹側屈動作時の筋活動の研究は少ない。本研究の目的は、体幹側屈動作を先行研究に加えて測定し、広背筋の体幹側屈時の筋活動とその機能的分化について筋電図学的特徴を明らかにすることである。<BR>【対象と方法】対象は上下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢24.9±3.0歳)とした。なお、被験者には本研究の趣旨を説明し同意を得た上で測定を行った。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導法にて行った。測定筋は右広背筋とし、Patonらの方法をもとに広背筋をC7棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で等間隔に4つ(広背筋上部、中上部、中下部、下外側部)に分け、筋線維に平行に表面電極を貼付した。また、体側のTh9の高さの筋腹(広背筋上外側部)にも貼付した。測定動作は腹臥位での右肩関節伸展・内転・水平伸展・内旋・下方突き押し、端座位での体幹右側屈・プッシュアップ、側臥位での体幹右側屈・右股関節外転・左股関節内転、背臥位での右骨盤引き上げ運動の計11項目とした。プッシュアップは端座位で臀部を床から持ち上げた状態で3秒間保持した時の積分筋電図値(以下IEMG)を、それ以外は3秒間最大等尺性収縮した時のIEMGを求め、それらを徒手筋力検査に準じた肢位にて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各部位ごとに%IEMGを求めた。統計処理は反復測定分散分析を行った。<BR>【結果と考察】各動作において部位ごとの%IEMGを比較すると、全ての動作において有意な差がみられた。肩関節水平伸展、内旋においては広背筋上部が他の部位に比べて高値を示し、肩関節内転やプッシュアップは広背筋下外側部が高値を示した。肩関節下方突き押しについては広背筋上外側部、下外側部が高値となった。これに対して、体幹側屈動作では側臥位体幹右側屈において広背筋上外側部、中下部、下外側部が高値を示し、座位体幹右側屈、側臥位右股関節外転・左股関節内転、背臥位右骨盤引き上げ運動においては広背筋下外側部が高値となった。本研究の結果より、広背筋は筋線維により機能的に分化していることが確認できた。また、広背筋の上部線維は肩関節運動時に大きく働き、外側線維については体幹の側屈を伴うような運動時に大きく働くということが示唆された。<BR>
著者
田篭 慶一 中川 法一 生友 尚志 三浦 なみ香 住谷 精洋 都留 貴志 西川 明子 阪本 良太 堀江 淳 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1131, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 変形性股関節症患者の多くはDuchenne跛行のような前額面上での体幹の姿勢異常を呈する.この原因については,外転筋力や可動性の低下など股関節機能の問題によるものと考えられてきた.しかし,長期にわたり同じ跛行を繰り返すことにより,股関節のみならず体幹にも問題が生じている可能性がある.本研究では,末期股関節症患者における体幹機能障害を明らかにするため,端坐位での側方傾斜刺激に対する体幹の姿勢制御反応がどのように生じるか,側屈角度の計測により検討したので報告する.【方法】 対象は,末期股関節症患者25名とした(平均年齢59.0±9.5歳).患側と健側を比較するためすべて片側症例とし,健側股関節は正常または臼蓋形成不全で疼痛や運動機能制限のない者とした.また,Cobb角10°以上の側弯がある者,神経疾患等の合併症がある者,測定中に疼痛を訴えた者は対象から除外した. 方法は,まず側方に最大15°傾斜する測定ボード上に端坐位をとり,測定ボードを他動的に約1秒で最大傾斜させた時の体幹側屈角度を計測した.次に水平座面上に端坐位をとり,反対側臀部を高く引き上げて骨盤を側方傾斜させる運動を行い保持した際の体幹側屈角度を計測した.測定は閉眼で行い,足部は接地せず,骨盤は前後傾中間位となるようにした.運動は,まずどのような運動か確認させた後各1回ずつ実施した. 体幹側屈角度を計測するために第7頸椎(C7),第12胸椎(Th12),第5腰椎(L5)の棘突起および左右上後腸骨棘,肩峰にマーカーを貼付し,測定時に被験者の後方より動画撮影した.得られた動画から安静時および動作完了時のフレームを抽出し,画像解析ソフト(ImageJ1.39u,NIH)にて側屈角度を計測した.なお,側屈角度はマーカーC7,Th12,L5がなす角を胸部側屈角度とし,左右上後腸骨棘を結んだ線分に対するTh12とL5を結んだ線分のなす角を腰部側屈角度とした.さらに,左右上後腸骨棘を結んだ線分の傾きを骨盤傾斜角度,左右の肩峰を結んだ線分の傾きを肩峰傾斜角度とした.体幹側屈の方向については運動方向への側屈を+,反対側への側屈を-と定義し,それぞれ安静時からの変化量で表した. 統計処理は,各運動における胸部および腰部の側屈角度,骨盤および肩峰の傾斜角度の平均値を患側と健側で比較した.また胸部と腰部の側屈角度についても比較した.差の検定には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理規定に則り実施した.対象一人ひとりに対し,本研究の趣旨および内容を書面にて十分に説明し,署名をもって同意を得た.【結果】 測定ボードで側方傾斜させた際の体幹側屈角度は,患側が胸部-10.3±5.7°,腰部-6.6±3.3°となり骨盤傾斜は12.4±4.3°,肩峰傾斜は-3.8±6.5°となった.健側では胸部-9.6±4.5°,腰部-7.2±4.1°となり骨盤傾斜は13.6±4.1°,肩峰傾斜は-2.0±5.7°となった.各項目において患側と健側で有意差はみられなかった.また,患側では腰部より胸部の側屈角度が有意に大きく(p<0.05),健側では有意差はみられなかった. 反対側臀部挙上による体幹側屈角度は,患側が胸部-8.4±6.5°,腰部5.1±5.0°となり骨盤傾斜は19.8±5.3°,肩峰傾斜は14.7±7.8°となった.健側は胸部-12.3±5.6°,腰部1.4±4.9°となり骨盤傾斜は23.0±4.9°,肩峰傾斜は12.0±8.3°となった.胸部および腰部の側屈角度,骨盤傾斜角度において患側と健側の間に有意差がみられた(p<0.05).また患側,健側ともに胸部と腰部で差がみられた(p<0.01).【考察】 今回,測定ボードにて他動的に座面を側方に傾斜させた場合の反応として,患側は胸部の側屈が腰部に比べ大きくなった.これは,腰部での立ち直りの不十分さを胸部の側屈で補う様式となっていることを示していると考えられる.この原因としては腰部の可動性低下や筋群の協調性低下などが考えられるが,腰部の側屈角度は健側と差がなかったことから,両側性に腰部側屈可動域制限が生じており,それが今回の結果に影響していると思われた.一方,自動運動として反対側臀部挙上を行った場合の反応については,患側は健側に比べ骨盤傾斜が少なく,腰部の同側への側屈が大きくなった.これは,患側では健側と比べ十分なcounter activityが生じていないことを示していると考えられる.すなわち,可動性のみならず体幹筋群の協調性にも問題がある可能性が示唆された.今回の結果から,片側股関節症患者においては体幹の姿勢制御に関する運動戦略の変容を来していることが明らかとなった.【理学療法学研究としての意義】 変形性股関節症患者の姿勢異常には様々な要因があると考えられるが,股関節機能のみでなく総合的アプローチが必要であり,体幹機能について評価・研究することは重要である.
著者
生友 尚志 永井 宏達 大畑 光司 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0604, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】広背筋は背部の複数の部位から起始し、停止部で上下の筋線維が反転して付着する。このような広背筋の筋線維による解剖学的な違いはよく知られているが、運動学的な違いについては知られていない。Patonらは広背筋を6つの部位に分けて肩関節運動時の筋活動を測定し、部位別の差異があることを報告している。我々は第41回日本理学療法学術大会において、広背筋を5つの部位に分け、肩関節運動に加え体幹側屈運動時の筋活動を調べ、運動学的に上部線維と下部線維の2つに分けられることを報告した。今回の研究の目的は、前回の測定項目に体幹伸展、体幹回旋運動を加え、広背筋を上部線維(ULD)と下部線維(LLD)に分けて筋活動を測定することで、ULDとLLDの作用について明らかにすることである。【対象と方法】本研究に同意を得た健常成人男性14名(平均年齢20.9±2.4歳)を対象とした。筋電図の測定はNoraxon社製MyoSystem1400を使用し、右側のULDとLLDの2ヶ所にて行った。第7頚椎棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で、ULDは第7胸椎レベル、LLDは第12胸椎レベルの位置にそれぞれ筋線維に平行に表面電極を貼付した。測定項目は肩関節運動として腹臥位にて右肩関節内旋・水平伸展・内転・下方突き押しの4項目、体幹運動として腹臥位体幹伸展、側臥位体幹右側屈、端座位体幹右回旋・左回旋の4項目の計8項目とした。各運動項目を5秒間最大等尺性収縮させた時の安定した3秒間の積分筋電図値(IEMG)を求め、それらを徒手筋力検査に準じて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各筋線維ごとに%IEMGを求めた。また、各運動項目のULDとLLDの筋活動比(LLDの%IEMG/ULDの%IEMG)を求め、Friedman検定を用い比較検討した。【結果と考察】ULDの%IEMGは水平伸展で61.6±20.8%と最も大きく、以下内転41.3±15.6%、体幹右回旋35.4±29.8%、下方突き押し34.7±26.1%、体幹側屈30.5±20.6%、内旋29.5±17.1%、体幹伸展28.1±9.3%、体幹左回旋4.9±3.1%であった。LLDの%IEMGは体幹側屈で100.7±28.4%と最も大きく、以下下方突き押し83.2±28.9%、体幹右回旋66.3±27.5%、内転54.6±21.9%、体幹伸展42.2±11.7%、水平伸展36.8±16.5%、内旋19.8±10.7%、体幹左回旋8.0±5.0%であった。筋活動比は運動項目間において有意な差がみられ(p<0.01)、体幹側屈で最も大きな値を示し、反対に肩関節内旋や水平伸展で最も小さな値を示した。今回の研究により、ULDは肩関節内旋や水平伸展時に選択的に作用し、LLDは体幹側屈時に選択的に作用することが明らかになった。
著者
永井 宏達 生友 尚志 大畑 光司 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0605, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】我々は第41回日本理学療法学術大会にて広背筋を5つの部位に分けて筋活動を調査し、運動学的に上部線維と下部線維に分けられることを報告した。さらに広背筋下部線維においては体幹側屈作用があることを示唆した。体幹側屈運動については、通常、腹斜筋、脊柱起立筋が主動作筋に挙げられるが、これらと広背筋下部線維との関係については明確ではない。本研究の目的は、さまざまな体幹側屈動作における腹斜筋、脊柱起立筋と広背筋下部線維の筋活動比を調べ、体幹側屈動作時における側屈筋群の動員の特徴を明らかにすることである。【対象と方法】対象は上肢、下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢25.9±4.0歳)とした。被験者には本研究の趣旨を説明し研究参加への同意を得た。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導を行った。測定筋は、右広背筋下部線維(以下LLD)、右外腹斜筋(以下EO)、および右腰部脊柱起立筋(以下LES)とした。LLDは第7頸椎棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で第12胸椎レベルの位置、EOは臍より右へ15cm外側、LESは第3腰椎棘突起の3cm外側に電極を貼付した。測定動作は各肢位における側屈運動(側臥位体幹右側屈、端座位体幹右側屈、仰臥位右骨盤引き上げ)、および体幹側屈モーメントを生じる上下肢の動作(側臥位同側股関節外転、端座位対側肩関節外転)の計5項目とした。測定は3秒間最大等尺性収縮した時の積分筋電図値(以下IEMG)を求め、各筋の徒手筋力検査の肢位での最大等尺性収縮時のIEMGを100%として、各筋ごとに%IEMGを求めた。その上でLLDとEO、LESの関係を明らかにするため、LLDの%IEMGをEO、LESそれぞれの%IEMGで除した値(LLD/EO、LLD/LES)を筋活動比として求めた。統計処理には、動作ごとの筋活動比を比較するためにFriedman検定を用いた。なお、有意水準は5%未満とした。【結果と考察】統計より、LLD/EO、LLD/LESのそれぞれにおいて、運動項目間で有意な差が見られた(p<0.01)。LLDとEOの筋活動比は、対側肩外転1.52±0.99、側臥位側屈1.33±0.48、座位側屈0.99±0.62、同側股関節外転0.50±0.29、骨盤引き上げ0.48±0.43であった。LLDとLESの筋活動比は、側臥位側屈1.48±0.54、対側肩外転1.16±0.42、座位側屈0.74±0.38、同側股関節外転0.40±0.21、骨盤引き上げ0.37±0.27となった。本研究では、側臥位側屈と端座位対側肩関節外転においてEO、LESに対してLLDの筋活動が他の動作よりも相対的に大きくなることが示唆された。一方、同側股関節外転や骨盤引き上げといった、骨盤の固定や動きが生じる動作ではLLDの関与が小さくなることが示唆された。
著者
生友 尚志 田篭 慶一 三浦 なみ香 中川 法一 増原 建作
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0527, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】人工股関節全置換術(THA)後1年間の筋力の推移を報告した研究はほとんどない。本研究の目的は,THA術前から術後1年間の股関節外転(股外転)筋力と膝関節伸展(膝伸展)筋力の推移を明らかにすることである。【方法】対象は当クリニックにて初回片側THAを施行した女性64名とした。対象者は全例が片側の変形性股関節症であり,平均年齢は63.6±9.4歳,罹病期間は7.7±6.6年,Harris Hip Scoreは61.7±11.3点であった。手術は全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術前後のリハビリテーションは同一の理学療法士が主に担当し,1日2回計2~3時間程度週6日実施した。術後2日目より歩行開始し,筋力トレーニングは対象者の回復状況に応じて実施した。股外転筋力トレーニングは,術後3か月までは創部への過負荷を避けるため高負荷な股外転運動は実施せず,ゴムバンドを用いた運動を中心に実施した。術後3か月以降は側臥位や荷重位での股外転運動などの積極的な股外転筋力トレーニングを追加して実施した。膝伸展筋力トレーニングは術後早期より積極的に術側下肢への荷重練習を実施し,段差昇降運動や自転車エルゴメーターなどを実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月,1年時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,両側の股外転と膝伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は,術前,術後3週,3か月,6か月,1年時とした。測定方法は,股外転は背臥位にて股外転0度で大腿遠位外側部にて測定,膝伸展は端座位にて膝関節屈曲約80度で下腿遠位前面にて測定した。測定には固定バンドを使用し全て同一検者にて行い,約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し,その最大値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また各筋力の患健差の推移を検討するために患健比(患側トルク体重比/健側トルク体重比×100)を算出した。統計解析は,各筋力の測定時期におけるトルク体重比の比較には,Friedman検定と多重比較検定を用いた。患健比の推移の比較には,測定時期,筋力間を要因とした二元配置分散分析を用いた。全て有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭ならびに書面にて本研究の趣旨を説明し,研究参加の同意書に署名を得た。【結果】股外転筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は0.70±0.26Nm/kg,0.93±0.27Nm/kg,術後3週は0.67±0.23Nm/kg,0.89±0.22Nm/kg,術後3か月は0.87±0.26Nm/kg,1.01±0.24Nm/kg,術後6か月は0.95±0.25Nm/kg,1.06±0.24Nm/kg,術後1年は1.04±0.28Nm/kg,1.10±0.29Nm/kgであった。股外転筋力の患健比は,術前は75±17%,術後3週は75±15%,術後3か月は86±16%,術後6か月は90±13%,術後1年は95±12%であった。膝伸展筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は1.07±0.39Nm/kg,1.42±0.44Nm/kg,術後3週は1.00±0.28Nm/kg,1.44±0.40Nm/kg,術後3か月は1.30±0.36Nm/kg,1.56±0.40Nm/kg,術後6か月は1.39±0.39Nm/kg,1.57±0.41Nm/kg,術後1年は1.48±0.40Nm/kg,1.62±0.41Nm/kgであった。膝伸展筋力の患健比は,術前は76±18%,術後3週は70±13%,術後3か月は84±15%,術後6か月は90±16%,術後1年は92±16%であった。Friedman検定の結果,両筋力ともにトルク体重比は測定時期によって有意な差がみられた(p<0.01)。多重比較検定の結果,患側のトルク体重比は術前と術後3週では有意な差は無く,術後3か月,6か月,1年では術前と比較して有意に高かった(p<0.05)。分散分析の結果,患健比の測定時期,筋力間の要因による交互作用はみられなかった。両筋力ともに測定時期間では患健比の有意な差がみられたが(p<0.01),両筋力間では患健比の有意な差はみられなかった。【考察】本研究の結果より,患側の股外転筋力と膝伸展筋力ともにTHA術後3週時には概ね術前の水準まで回復しており,術後3か月以降は術前と比べて有意に改善を示し,その後術後1年まで改善し続けることがわかった。また,患健比は両筋力ともに測定時期間での有意な改善はみられるが,術後1年間の推移については両筋力間に有意な差はみられなかった。先行研究では,THA術後早期において他の股関節周囲筋の筋力に比べて膝伸展筋力の回復が遅延することが報告されている。しかし,本研究により術後1年間においては股外転筋力と膝伸展筋力の回復には差がないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,THA後1年間の股外転筋力と膝伸展筋力の推移の参考値の1つとなり,THA術前後のリハビリテーションにおいて意義があると考える。
著者
生友 尚志 永井 宏達 大畑 光司 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A0604, 2007

【目的】広背筋は背部の複数の部位から起始し、停止部で上下の筋線維が反転して付着する。このような広背筋の筋線維による解剖学的な違いはよく知られているが、運動学的な違いについては知られていない。Patonらは広背筋を6つの部位に分けて肩関節運動時の筋活動を測定し、部位別の差異があることを報告している。我々は第41回日本理学療法学術大会において、広背筋を5つの部位に分け、肩関節運動に加え体幹側屈運動時の筋活動を調べ、運動学的に上部線維と下部線維の2つに分けられることを報告した。今回の研究の目的は、前回の測定項目に体幹伸展、体幹回旋運動を加え、広背筋を上部線維(ULD)と下部線維(LLD)に分けて筋活動を測定することで、ULDとLLDの作用について明らかにすることである。<BR>【対象と方法】本研究に同意を得た健常成人男性14名(平均年齢20.9±2.4歳)を対象とした。筋電図の測定はNoraxon社製MyoSystem1400を使用し、右側のULDとLLDの2ヶ所にて行った。第7頚椎棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で、ULDは第7胸椎レベル、LLDは第12胸椎レベルの位置にそれぞれ筋線維に平行に表面電極を貼付した。測定項目は肩関節運動として腹臥位にて右肩関節内旋・水平伸展・内転・下方突き押しの4項目、体幹運動として腹臥位体幹伸展、側臥位体幹右側屈、端座位体幹右回旋・左回旋の4項目の計8項目とした。各運動項目を5秒間最大等尺性収縮させた時の安定した3秒間の積分筋電図値(IEMG)を求め、それらを徒手筋力検査に準じて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各筋線維ごとに%IEMGを求めた。また、各運動項目のULDとLLDの筋活動比(LLDの%IEMG/ULDの%IEMG)を求め、Friedman検定を用い比較検討した。<BR>【結果と考察】ULDの%IEMGは水平伸展で61.6±20.8%と最も大きく、以下内転41.3±15.6%、体幹右回旋35.4±29.8%、下方突き押し34.7±26.1%、体幹側屈30.5±20.6%、内旋29.5±17.1%、体幹伸展28.1±9.3%、体幹左回旋4.9±3.1%であった。LLDの%IEMGは体幹側屈で100.7±28.4%と最も大きく、以下下方突き押し83.2±28.9%、体幹右回旋66.3±27.5%、内転54.6±21.9%、体幹伸展42.2±11.7%、水平伸展36.8±16.5%、内旋19.8±10.7%、体幹左回旋8.0±5.0%であった。筋活動比は運動項目間において有意な差がみられ(p<0.01)、体幹側屈で最も大きな値を示し、反対に肩関節内旋や水平伸展で最も小さな値を示した。今回の研究により、ULDは肩関節内旋や水平伸展時に選択的に作用し、LLDは体幹側屈時に選択的に作用することが明らかになった。<BR><BR>