著者
新保 輝幸 三浦 大介 交告 尚史 深見 公雄 山岡 耕作 友野 哲彦 婁 小波 新保 輝幸
出版者
高知大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

自然科学的アプローチ深見は、柏島周辺に設けた測点において、周年に渡って水質や微生物群集に関する調査を行った。その結果、同海域では基本的に貧栄養な環境であるものの、冬季には栄養塩濃度が、また夏季の底層付近では有機物濃度がそれぞれ増加する傾向が見られた。水質の変動は月齢や潮汐でも観察され、小潮の下げ潮時に栄養塩濃度や微生物の生物量が上昇することがわかった。以上の結果から、柏島周辺海域では基本的には貧栄養な黒潮の影響を受けているものの、短期的には貧栄養な内湾水が流入することもあり、これらが同海域の豊かな生物群集を支えている可能性があることが示唆された。山岡らは、後浜西部にラインセンサス区を設定し、底質によってゴロタ区、サンゴ区、死サンゴ区の3区に分け、2002年9月と3月に魚類生態について調査を行った。その結果、9月の調査では137種2,266個体が観察された。この種数は、以布利の同時期の出現数約70種のおよそ2倍に達し、柏島の魚類相の豊かさを証明する結果になった。3区の内では、サンゴ区で最多の種数が観察された。また以上のような調査を通じて調査海域の生物多様性に関する基礎データを蓄積中である。社会科学的アプローチ現地において、地域住民、漁協、ダイビング業者・ダイビング組合、町役場などの地域の利害プレイヤーに対するヒアリング調査と、関係諸機関からのデータ収集を行い、地域の実態の把握を行った上で、次のような研究を行った。交告らは、漁業とダイビング等の海洋レクリエーションの間でどのような利用秩序を構築するのが望ましいかを分析し、主体間で海面の利用調整を行うルールについて検討した。そして、そのルールにどのように法的な効力を持たせるかという点を追究した。新保らは、アンケートを用いた仮想状況評価法(CVM)および仮想旅行費用法によって、それらの自然資源の経済価値を評価するとともに、付け根方程式を推定してデータの信頼性を検証した。アンケートは、近隣で柏島への訪問客が多い岡山市、高松市、高知市の住民に対する郵送調査で行った。また友野は、オンサイトのアンケート調査を行い、これらの自然資源をダイビング等の海洋性レクリエーションで利用する場合の利用価値について、ゾーン・トラベルコスト法により評価した。婁は、柏島にとどまらず、沖縄や三浦半島など漁業とダイビング業の関係が問題となっているその他の地域についても調査を重ね、地域の自然資源を地域住民が多面的かつ持続的に利用して暮らしを立てていく「海業」という概念を提示し、従来の漁業・ダイビングサービス業の枠組みを超えた新たな形に産業構造を転換し、地域振興をはかっていくべきであるとして、その具体案を検討した。