著者
松本 春信 山本 瑛介 神谷 千明 三浦 恵美 北岡 斎 山本 晃太 出口 順夫 佐藤 紀
出版者
日本静脈学会
雑誌
静脈学 (ISSN:09157395)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.261-265, 2012-08-25 (Released:2012-08-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1

●要 約:ベーカー嚢腫の破裂は,下肢深部静脈血栓症の鑑別のひとつで,偽性血栓性静脈炎(pseudothrombophlebitis)と称される.日常の臨床において,実際にベーカー嚢腫の破裂に遭遇する機会は稀である.今回,当科におけるベーカー嚢腫破裂症例を検討したので報告する.過去5年間に,下肢腫脹を主訴に当科を受診された症例は424例で,深部静脈血栓症163例(38.1%),リンパ浮腫26例(6.1%),ベーカー嚢腫破裂5例(1.2%),その他230例であった.ベーカー嚢腫破裂は,男性2例,女性3例,平均年齢66.4歳(51~80歳)で,発症数日前に膝関節痛を自覚したものが2例,残り3例は以前から変形性膝関節症を指摘されていた.浮腫を2例,腓腹部把握痛を2例に認め,1例で足関節部の皮下出血を認めた.診断は,全例超音波検査で行った.静脈血栓症の合併は認めなかった.治療は,全例消炎鎮痛剤投与による保存的治療により症状は改善した.下肢深部静脈血栓症とベーカー嚢腫破裂の鑑別は臨床症状のみでは困難なことが多く,注意深い問診とエコー所見が診断上重要である.