著者
三谷 英範 望月 俊明 大谷 典生 三上 哲 田中 裕之 今野 健一郎 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.11, pp.833-838, 2014-11-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

はじめに:尿素サイクル異常症であるornithine transcarbamylase(OTC)欠損症の頻度は日本で14,000人に1人とされ,18歳以降での発症例は稀であるが,発症すると重症化しうる疾患である。我々は,19歳発症のOTC欠損症により高アンモニア血症・痙攣重積発作を来し,救命し得なかった1例を経験した。症例:19歳の男性。来院前日,嘔吐・下痢・全身倦怠感を主訴に救急要請した。前医に搬送され,血液検査や頭部CTでは異常を認めないものの,全身倦怠感が強く入院加療を行うこととなった。入院後,不穏状態に続いて強直性痙攣が出現した。ジアゼパム静注で痙攣は消失したが,その後意識レベル改善なく当院へ紹介転院となった。当院来院時,頭部CTで全般性に浮腫性変化認め,血中アンモニア濃度は500µg/dL以上であった。当院入院後,痙攣再燃したため鎮静薬・抗てんかん薬を増量しつつ管理するも,痙攣は出現と消失を繰り返した。血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析の導入は見送った。第2病日に瞳孔散大,第4病日に脳波はほぼ平坦となり,脳幹反射は消失した。その後も高アンモニア血症は持続し,代謝異常による痙攣も疑われたため,各種検査を施行しつつ全身管理に努めたが,第11病日に血圧維持困難となり死亡した。後日,血中・尿中アミノ酸分画やオロト酸の結果からOTC欠損症と診断された。考察:尿素サイクル異常症は稀であるが,高アンモニア血症を来している場合には迅速に対応しなければ不可逆的な神経障害を来す。治療には透析が考慮されるが,本症例では痙攣が軽減した後血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析は施行しなかった。結語:血糖正常,アニオンギャップ正常の高アンモニア血症では尿素サイクル異常症を鑑別に挙げ,透析を早期に検討する必要がある。