著者
三部 光太郎
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.466-481, 2020 (Released:2021-12-31)
参考文献数
16

本稿は,「ひきこもり」(および「ニート」)支援を掲げるNPO において,スタッフと地域のボランティア,支援の利用者たちが共在する空間が,どのように相互行為を通じて編成されているのかを分析する.分析の焦点は,調査対象たる支援組織の活動への参加に対する「入口」として位置づけられている,軽作業(自動車用ワイヤーハーネスの組み立て)の空間編成の実践である.分析を通じて,参加者,とりわけ利用者の共同作業への参加可能性が,どのような方法によってもたらされるのかを検討することが,本稿の目的である. 分析による知見は,以下の3 点である.1)作業の進行において,参加者はテーブルに積み上げられたハーネスの身分の区別(すでに集計された「束」/まだ集計されていない「山」)を,他の参加者に可視化する.2)製品の身分の可視化を通じて,参加者各自の作業の進行状況の区別(集計作業/組み立て作業)も周囲に可視化され,互いに重複しうる各自の作業空間の境界が管理される.以上1)と2)は,まずは製品の集計における間違いを避ける実践である.しかし3)作業の進行状況の可視性は,ひるがえって,他の参加者が共同で集計作業に従事することを可能にする仕掛けにもなっている.最後に分析の知見を踏まえ,複数の参加者が1 つのテーブルを囲む形式で作業が行われることが,利用者の支援空間への参加にあたってどのような意義を持ちうるのかを考察する.