著者
上島 正光 上倉 將太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0993, 2007

【研究の背景と目的】<BR> 入谷式足底板を作製する際、テーピングを用いて後足部誘導(回外誘導・回内誘導)や果部誘導(内果挙上・外果挙上)など足部肢位を変化させ、それが動作や疼痛に与える影響を評価する。その結果、後足部回外誘導で良好な結果が得られる症例において、果部誘導は内果挙上誘導ではなく外果挙上誘導を選択することが多いと感じる。すなわち、外果挙上誘導は後足部回内誘導を補助・後足部回外誘導を相殺するものではなく、外果挙上誘導独自の作用を持つと推測される。そこで本研究は足関節外果挙上誘導が、荷重位における足関節の最大背屈角度、および歩行時における骨盤帯の外方加速度にどのような影響を与えるか検証することを目的とした。<BR>【対象と方法】<BR> 本研究に同意の得られた、脊柱や下肢に既往のない健常者10名(男性8名、女性2名、平均年齢19.7±1.57歳)の左下肢10足を対象とした。測定は三次元動作解析装置UM-CAT2(ユニメック社)を用い、1)測定下肢を前にした半歩前進位より、膝関節を屈曲した際の足関節最大背屈角度 2)10m自由歩行における左上前腸骨棘の外側方向加速度ピーク値の2点を計測した。外果挙上誘導を行う場合と行わない場合で各課題を3回ずつ行い、その平均値をもって2条件間に差があるか検討した。外果挙上誘導は、被検者端座位にて外果直下にパッドをあて、外果挙上を促しながら25mm幅の伸縮性テープで保持した。各課題は公正を期すため無作為に施行した。統計学的処理には対応のあるt検定を用い、有意水準は1%未満とした。<BR>【結果】<BR> 荷重位での足関節最大背屈運動において、外果挙上誘導時に背屈角度が有意に増加した(p<0.01)。全例において足関節背屈角度が増加し、背屈角度が減少する例はみられなかった。<BR> また、歩行時の外方加速度においても、外果挙上誘導時に外方加速度が有意に減少した(p<0.01)。なかでも、10例中8例において外方加速度に大きな減少がみられた。残り2例においては2条件間で外方加速度に顕著な変化はなく、外方加速度が大きく増加する例はみられなかった。<BR>【考察】<BR> 足関節背屈運動において広い距骨滑車前方部が果部を引き離し、骨間膜線維の走行を真直ぐにする。これに伴い外果は挙上・開排する。今回、外果挙上誘導により全例にて背屈角度が増加した結果は、外果挙上誘導が足関節の運動学を忠実に再現した為と考える。<BR> 近位脛腓関節は脛骨外側顆を腓骨頭が外下方より支えるような形状をとる。その形状ゆえ、外果挙上誘導による腓骨の上昇は、近位脛腓関節を介して脛骨を内上方へ押しあげる。その力の水平成分が脛骨の外方移動を抑制し、結果として外果挙上誘導時に外方加速度が減少したものと考える。<BR> 以上より外果挙上誘導は、足関節背屈制限および歩行時外方動揺性がみられる症例に対する評価・治療の一手段となりえる事が示唆された。<BR>
著者
上島 正光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1400, 2012

【はじめに】 歩行は足部からの影響を強く受ける。しかしながら、理学療法士が足部そのものにアプローチすることはあっても、靴にアプローチすることは少ない。靴の中敷きを硬くすることは、歩行における蹴りだし動作時の足趾MP関節伸展および足関節底屈角度を減少させ、結果的にtoe clearanceを減少させることを第46回本学会で報告した。靴の中敷きの硬さに操作を加えることは、蹴りだし動作における下肢関節角度に影響を及ぼすだけでなく、蹴りだし動作の強さや身体の側方移動にも影響を及ぼすことが予想される。そこで今回、靴の中敷きを硬くすることが、歩行における蹴りだし動作や身体の側方移動にどのような影響を及ぼすかを検証し、簡便に足部からの治療に利用できないか検討することを目的に本研究を行った。【方法】 対象は下肢に既往が無く、足の実測長が23.0cmから24.0cmの健常人女性20名(年齢20.1±1.8歳、体重51.9±3.5kg)とした。運動課題は、指定した運動靴(内寸25.0cm)を履いて行う、至適速度での10メートル歩行である。右足が蹴りだし、左足が踏み出しとなる中間の1歩行周期において以下の項目を測定した。測定項目は右足蹴りだし動作における床反力の前後・左右成分最大値と、左足踏み出し動作における床反力の前後・左右成分最大値であり、床反力計BP400600(AMTI社製)を用いて測定を行った。全例において右足の靴にのみ、硬さの大きく異なる中敷きを2種類入れ分け、2条件にてそれぞれ運動課題を行った。各条件を、1)柔らかい中敷きを入れて歩く場合をsoft群、2)硬い中敷きを入れて歩く場合をhard群と名付けた。なお左足の靴には既製の中敷き入れたままとした。各条件での測定を3回ずつ施行し、測定した3回の平均値を解析データとして用いた。解析項目は、(a)蹴りだし動作時の床反力前後成分最大値、(b)蹴りだし動作時の床反力左右成分最大値、(c)踏み出し動作時の床反力前後成分最大値、(d)踏み出し動作時の床反力左右成分最大値とし、2群間の平均値の差を対応のあるt検定を用いて検討した。なお有意水準は5%未満とした(p<0.05)。【説明と同意】 全被験者に実験概要、データの取り扱い、データの使用目的を示す書面を提示し、口頭にて説明したのち、同意書に署名をいただいた上で本研究を行った。【結果】 (a)蹴りだし動作時の床反力前後成分は、soft群108.6N、hard群120.2Nであり、soft群に対しhard群にて床反力前後成分は有意に大きかった(p<0.01)。(b)蹴りだし動作時の床反力左右成分は、soft群20.3N、hard群29.1Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。(c)踏み出し動作時の床反力前後成分は、soft群89.6N、hard群96.9Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。(d)踏み出し動作時の床反力左右成分は、soft群17.7N、hard群28.8Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。【考察】 soft群に比べhard群において、蹴りだし動作時の床反力は前後成分・左右成分とも有意に大きい結果となった。これは靴の中敷きを硬くすることが、歩行における蹴りだし動作を強めていることを示唆する。第46回本学会にて、靴の中敷きを硬くすることは蹴りだし動作における足関節底屈角度を減少、膝関節伸展角度を増加させ、股関節の伸展角度が増加することを報告した。股関節伸展角度の増加は歩行における蹴りだし動作を延長させ、足部の床反力作用点と身体重心点の距離を伸ばすことになり、結果的に蹴りだし動作における床反力成分の増大につながったと考えられる。また対側下肢の踏み出し動作における床反力も、soft群に比べhard群において前後成分・左右成分ともに有意に大きくなった。これは蹴りだし動作における運動エネルギーの増加を対側下肢で受け継いだ結果であると考える。床反力の左右成分に着目すると、靴の中敷きを硬くすることで蹴りだし動作、踏み出し動作ともに床反力左右成分が大きくなった。つまり、靴の中敷きを硬くすることで蹴りだし動作による対側への身体の側方移動も強くなることが伺える。以上より、靴の中敷きの硬さに操作を加えることは、歩行における蹴りだし動作の強さと、身体の側方移動に介入できる可能性があるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 靴の中敷きの硬さを変えることは、歩行における蹴りだし動作の強さと、身体の側方移動に介入できる可能性がある。歩行において蹴りだし動作の強さと身体の側方移動を意図的に操作することは、変形性膝関節症における膝の外側動揺や一側性の筋膜性腰痛など、姿勢や歩容に根本的な原因をもつ疾患の治療の一助になるのではないだろうか。また靴の中敷きの硬さを変える方法はとても簡便で、誰にでもできる足部からのアプローチとして利用しやすいのではないだろうか。
著者
上島 正光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1513, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】健常者における正常歩行はエネルギー効率がとても良いといわれる。それをもとに考えれば,歩行を的確に評価するためには,エネルギー効率の良い歩行を見分ける能力が必要となる。エネルギー効率の良い歩行では歩行時の酸素摂取量が少なく二酸化炭素排出量が少ないことが報告されている。またその一要因として後足部肢位の変化(回外・回内)は,姿勢や歩行に大きな影響を与えることも報告されている。入谷式足底板では,歩行能力評価の一助として立位体前屈評価を利用することがある。実施が簡便である立位体前屈評価によってエネルギー効率の良い歩行を見分けることが可能であれば,難しいとされる歩行評価のハードルが下がる。しかしながら立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分ける手段として有用であるかは明らかになっていない。そこで立位体前屈評価がエネルギー効率の良い歩行を見分けることの一助として有用であるか検証することを目的に,本研究を行った。【方法】対象は,整形外科的および内科的疾患の既往がなく,足の実測長が23.0~24.0cmの健常人女性20名(年齢19.3±0.8歳,身長156.8±2.7cm,体重52.1±5.8kg)である。研究に先立ち,対象の後足部足底面にパッドを貼付することで後足部を回外・回内誘導し,どちらの誘導で立位体前屈動作がより向上するかを調査した。立位体前屈は,台の上に自然立位で立ち,膝関節を伸展したままで最大限に前屈動作を行った際の指床間距離(以下FFD)をメジャーにて計測した。足底部に貼布するパッドは50mm×25mm,厚さ3mm(材質:ポロン)の長方形のパッドを使用し,後足部足底面の内側および外側にパッドを貼付することで後足部の回外・回内を誘導した。本研究の測定項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス測定(酸素摂取量VO2/kg,二酸化炭素排出量VCO2/kg)である。測定には呼気ガス分析装置AE-300S(ミナト社製)を使用した。裸足で至適速度での10分間の準備歩行を行った後,歩行時の呼気ガスを1分間測定した。呼気ガス測定は,1)足底部にFFDが向上する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD向上群),2)足底部にFFDが低下する後足部誘導パッドを貼付した状態でトレッドミル歩行を行う(以下FFD低下群)の2条件にて行った。2条件の測定順序は循環法を用い,各測定の間隔は5分間の休憩を挟むこととした。呼気ガス測定は各条件で1回ずつ行い,その測定値を解析データとして用いた。解析項目は,トレッドミル歩行時の呼気ガス分析値(酸素摂取量,二酸化炭素排出量)であり,t検定を用いて2群間で比較検討した。統計解析にはSPSS Ver12.0を使用し,有意水準は5%とした。【説明と同意】全被験者に実験概要,データの取り扱い,データの使用目的を示す書面を提示し,口頭にて説明したのち,同意書に署名いただいた上で本研究を行った。【結果】酸素摂取量は,FFD向上群5.93±2.28 l/min/kg,FFD低下群7.46±1.25 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量は有意に少なかった(p<0.05)。二酸化炭素排出量は,FFD向上群5.12±1.82 l/min/kg,FFD低下群7.73±2.98 l/min/kgであり,FFD低下群に比べFFD向上群において二酸化炭素排出量は有意に少なかった(p<0.05)。【考察】本研究は,FFDが向上する後足部誘導を行った群と,FFDが低下する後足部誘導を行った群の2群間における歩行時の呼気ガス値を比較検討したものである。後足部肢位に回外・回内の変化を加えることは,立位姿勢や歩行に影響を与えることが数多く報告されている。本研究においても,後足部誘導によりFFDに変化がみられた。他研究同様,後足部肢位が変化することで立位アライメントにも変化が加わり,結果的に全身の筋緊張が変化したことが要因と考えられる。呼気ガス分析の結果は,FFD低下群に比べFFD向上群において酸素摂取量および二酸化炭素排出量ともに有意に少なかった。このことはFFD向上群において歩行時の筋活動が少なかったことを示唆し,FFD向上群では歩行のエネルギー効率が良いと言える。2群間の測定条件は後足部肢位に差異があるのみであり,後足部肢位の変化が歩行時の筋活動に影響を与えていたものと推測される。結果的にFFD向上群では姿勢保持に必要な筋活動が少なく,歩行時のエネルギー効率も良くなったと考えられる。歩行時の呼気ガス値は歩行のエネルギー効率を表す一要素でしかないが,立位体前屈評価はエネルギー効率の良い歩行を見分ける一助となる可能性があるのはないだろうか。【理学療法学研究としての意義】歩行評価が苦手な理学療法士は多いが,エネルギー効率の良い歩行を見分けるための補助手段として,立位体前屈評価を利用できるのではないだろうか。