著者
上島 正光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb1400, 2012

【はじめに】 歩行は足部からの影響を強く受ける。しかしながら、理学療法士が足部そのものにアプローチすることはあっても、靴にアプローチすることは少ない。靴の中敷きを硬くすることは、歩行における蹴りだし動作時の足趾MP関節伸展および足関節底屈角度を減少させ、結果的にtoe clearanceを減少させることを第46回本学会で報告した。靴の中敷きの硬さに操作を加えることは、蹴りだし動作における下肢関節角度に影響を及ぼすだけでなく、蹴りだし動作の強さや身体の側方移動にも影響を及ぼすことが予想される。そこで今回、靴の中敷きを硬くすることが、歩行における蹴りだし動作や身体の側方移動にどのような影響を及ぼすかを検証し、簡便に足部からの治療に利用できないか検討することを目的に本研究を行った。【方法】 対象は下肢に既往が無く、足の実測長が23.0cmから24.0cmの健常人女性20名(年齢20.1±1.8歳、体重51.9±3.5kg)とした。運動課題は、指定した運動靴(内寸25.0cm)を履いて行う、至適速度での10メートル歩行である。右足が蹴りだし、左足が踏み出しとなる中間の1歩行周期において以下の項目を測定した。測定項目は右足蹴りだし動作における床反力の前後・左右成分最大値と、左足踏み出し動作における床反力の前後・左右成分最大値であり、床反力計BP400600(AMTI社製)を用いて測定を行った。全例において右足の靴にのみ、硬さの大きく異なる中敷きを2種類入れ分け、2条件にてそれぞれ運動課題を行った。各条件を、1)柔らかい中敷きを入れて歩く場合をsoft群、2)硬い中敷きを入れて歩く場合をhard群と名付けた。なお左足の靴には既製の中敷き入れたままとした。各条件での測定を3回ずつ施行し、測定した3回の平均値を解析データとして用いた。解析項目は、(a)蹴りだし動作時の床反力前後成分最大値、(b)蹴りだし動作時の床反力左右成分最大値、(c)踏み出し動作時の床反力前後成分最大値、(d)踏み出し動作時の床反力左右成分最大値とし、2群間の平均値の差を対応のあるt検定を用いて検討した。なお有意水準は5%未満とした(p<0.05)。【説明と同意】 全被験者に実験概要、データの取り扱い、データの使用目的を示す書面を提示し、口頭にて説明したのち、同意書に署名をいただいた上で本研究を行った。【結果】 (a)蹴りだし動作時の床反力前後成分は、soft群108.6N、hard群120.2Nであり、soft群に対しhard群にて床反力前後成分は有意に大きかった(p<0.01)。(b)蹴りだし動作時の床反力左右成分は、soft群20.3N、hard群29.1Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。(c)踏み出し動作時の床反力前後成分は、soft群89.6N、hard群96.9Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。(d)踏み出し動作時の床反力左右成分は、soft群17.7N、hard群28.8Nであり、soft群に対しhard群にて床反力左右成分は有意に大きかった(p<0.01)。【考察】 soft群に比べhard群において、蹴りだし動作時の床反力は前後成分・左右成分とも有意に大きい結果となった。これは靴の中敷きを硬くすることが、歩行における蹴りだし動作を強めていることを示唆する。第46回本学会にて、靴の中敷きを硬くすることは蹴りだし動作における足関節底屈角度を減少、膝関節伸展角度を増加させ、股関節の伸展角度が増加することを報告した。股関節伸展角度の増加は歩行における蹴りだし動作を延長させ、足部の床反力作用点と身体重心点の距離を伸ばすことになり、結果的に蹴りだし動作における床反力成分の増大につながったと考えられる。また対側下肢の踏み出し動作における床反力も、soft群に比べhard群において前後成分・左右成分ともに有意に大きくなった。これは蹴りだし動作における運動エネルギーの増加を対側下肢で受け継いだ結果であると考える。床反力の左右成分に着目すると、靴の中敷きを硬くすることで蹴りだし動作、踏み出し動作ともに床反力左右成分が大きくなった。つまり、靴の中敷きを硬くすることで蹴りだし動作による対側への身体の側方移動も強くなることが伺える。以上より、靴の中敷きの硬さに操作を加えることは、歩行における蹴りだし動作の強さと、身体の側方移動に介入できる可能性があるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 靴の中敷きの硬さを変えることは、歩行における蹴りだし動作の強さと、身体の側方移動に介入できる可能性がある。歩行において蹴りだし動作の強さと身体の側方移動を意図的に操作することは、変形性膝関節症における膝の外側動揺や一側性の筋膜性腰痛など、姿勢や歩容に根本的な原因をもつ疾患の治療の一助になるのではないだろうか。また靴の中敷きの硬さを変える方法はとても簡便で、誰にでもできる足部からのアプローチとして利用しやすいのではないだろうか。

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (2 users, 2 posts, 4 favorites)

骨を支える所は硬めで、 負荷を受ける所は柔らかい複合型が最も良いですね! 全体が硬いと踵が抜けやすそう。 CiNii 論文 -  靴の中敷きの硬さが歩行に及ぼす影響 (第2報):─簡便にできる靴からのアプローチの展開─ https://t.co/hs8QjeKtYh #CiNii

収集済み URL リスト