著者
米田 重玄 上木 泰男
出版者
Yamashina Institute for Ornitology
雑誌
山階鳥類研究所研究報告 (ISSN:00440183)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.96-111, 2002
被引用文献数
1

福井県丹生郡織田町笈松にある環境庁織田山1級鳥類観測ステーションでは,山地性の小鳥類の渡り状況を把握するために標識調査を1973年から,毎年10月中旬から11月上旬までの期間に継続的な調査を行なってきた。調査は,毎年ほぼ一定の枚数のカスミ網を場所を定めて設置し,状況に応じて最大の捕獲効果が得られるように,テープレコーダーで鳥を誘引し,捕獲される鳥の捕獲数•捕獲時期や種構成の年毎の変化を調査してきた。1973年から1996年までの24年間の秋の標識調査では,総放鳥数は合計75種71,416羽であった。もっとも多いのはカシラダカとアオジの2種で総放鳥数の約53%になった。上位10種は,上記の種の他,メジロ,シロハラ,メボソムシクイ,マミチャジナイ,ウグイス,シジュウカラ,ツグミ,アトリであり,合計放鳥数は総放鳥数の90%を占めた。75種のうち毎年放鳥記録があったのは,16種あった。年毎の標識放鳥種数は,21~54種で平均40.0種であった。各年の調査期間が異なるため,ほぼ毎年調査を行なった17日間について,1日の平均捕獲数を年毎に比較した。この期間の放鳥数の多かった上位25種について,種ごとに1日の平均捕獲数を年度別に増減を見て,1970年代から1980年までと,伐採によって環境の変わった後の1983年から1996年との間で比較した。その結果,種による個体数の増減は,(1)有意に減少傾向が見られる種(カシラダカ,メジロ,アトリ等9種),(2)有意に増加傾向が見られる種(アオジ,クロツグミ),(3)放鳥数に有意差がない種(メボソムシクイ,エナガ,ムギマキ等14種),(4)(3)の種のうち年変動が激しい種(ウソ,ルリビタキ,キビタキ等4種),に分けられた。増減の変化が特に大きかったカシラダカとアオジの放鳥数の変動は,他の調査地との比較によって,大規模伐採の影響が示唆された。1970年代と1990年代とを比較すると,1970年代に比べて1990年代では種数で9種減少し,放鳥数では約半分となった。特に,カシラダカ,アトリ,ツグミについては,1990年代には1970年代に比べて100分の1から10分の1の放鳥数であった。いっぽう,アオジ,シロハラについては1970年代よりも1990年代の方が多かった。1970年代に織田山1級観測ステーション周辺で行われた大規模な伐採が,環境を大きく変化させ,標識鳥の種構成や,個体数を変化させたと考えられるが,鳥種によって変化の仕方が様々であった。しかし,全体的に言って種の多様性が少なくなったと考えられた。