- 著者
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上田 恭一郎
- 出版者
- 一般社団法人 日本昆虫学会
- 雑誌
- 昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
- 巻号頁・発行日
- vol.21, no.1, pp.59-69, 2018-03-05 (Released:2019-10-08)
- 参考文献数
- 8
- 被引用文献数
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明治以降の日本の博物館の歴史を振り返ると,教育・展示部門に主力を置いた教育博物館としての役割が顕著であり,資料収集,保存・整理,研究,教育・展示といったバランスのとれた博物館活動を18世紀末には確立した欧米の博物館の歴史とは異なることが指摘される.欧米の博物館が昆虫学の発展へ貢献してきたことは,1)歴史的標本の保存機関,2)分類学を支える保存機関,3)研究された資料の保存機関,4)収集資料の研究機関,5)展示・教育機関といった形でまとめられるが,日本の博物館ではこれまで不十分であった.その原因は主に資料が十分に収集されてこなかったことにあるが,高度経済成長の時代を経て,国内外での資料収集活動が活発化し,国内に多くの実物資料・文献が保存されるに至った.組織的にも博物館の活性化は進み,国立科学博物館の充実,地方での大型館の建設,大学博物館の新設が相次いだが,現場スタッフ数の少なさ,依然として展示に重きを置くことに主因がある狭隘な収蔵庫の問題は残っている.他方ネット環境の充実は,国内外での研究協力体制を刷新し,博物館においても研究に関する多くの情報が入手しやすくなった.上述した昆虫学の発展への貢献が日本の博物館においても期待される時代を迎えたと思われる.