著者
上田 香織 中村 誠
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.1666-1670, 2017-11-15

はじめに レーベル遺伝性視神経症(Leber hereditary optic neuropathy:LHON/OMIM#535000)はミトコンドリアの点変異による急性ないし亜急性の視神経症である。典型的には片眼の急激な視力低下と中心視野欠損で発症し,数週から数か月の間隔をおいて対側眼に同様の症状をきたす。光覚を失うことは稀で,多くは手動弁から(0.01)程度の視力で経過するが,ごく少数の症例で自然回復がみられる1)。 LHONはミトコンドリア疾患のため母系遺伝し,これまで10〜20歳代の若年男性に好発するとされてきたが,近年は高齢者での発症報告例が増加してきている。本邦でのこれまでの疫学調査では,1995年にHottaら2)が11778変異の患者の発症年齢の平均値を23.4歳と報告していたが,2014年の新規発症患者を調査したところ,発症時の平均年齢は33.5歳とこの20年で10歳上がっており,40歳代以上の中高年の患者は全体の40%以上を占めていた(図1)3)。本邦ではこれまで正確な患者数も把握されておらず,統計的に予測値を算出するにとどまっていたが,2016年に指定難病となり,今後は疫学調査も進むことが期待される。 LHONでは95%以上の症例でmtG3460A,mtG11778A,mtT14484Cのいずれかの一塩基置換が検出される。これらはprimary mutationと呼ばれるが,すべて呼吸鎖複合体Ⅰを構成する蛋白をコードしている。遺伝子変異によって複合体Ⅰの機能不全をきたし,網膜神経節細胞のアポトーシスに至ると考えられているが,なぜ網膜神経節細胞のみにこのような変化が起きるのかはわかっていない。また,発症には何らかの環境因子が酸化ストレスとして関与していると予想されており,疫学調査では喫煙や大量のアルコールの摂取がリスクファクターであることが示唆されている4)。 現在有効な治療法は確立されていないが,眼血流を改善する目的で点眼薬やビタミンBなどのサプリメントが用いられることがある。また近年,LHONをはじめとするミトコンドリア病に対しコエンザイムQ10誘導体である,イデベノンの内服が有効であるというデータが蓄積されつつある。変異遺伝子を正常のものと置き換える,または正常遺伝子を導入して呼吸鎖の機能を回復あるいは補塡する,といった遺伝子治療も試みられている。 本稿では,主にイデベノンと遺伝子治療に関する最近の臨床試験の成績について述べる。
著者
上田 香織 浅見 真帆 山田 詩織 佐伯 香織 小田 民美 丸山 夏輝 生野 佐織 秋山 蘭 早川 典之 森 昭博 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.122-127, 2017-10-10 (Released:2017-12-25)
参考文献数
20

糖尿病猫の食事には血糖値を緩やかに上昇させる炭水化物の使用が好ましいが、炭水化物の違いが血糖変動に与える影響を検討した報告は少ない。そこで本研究では、異なる炭水化物(グルコース:Glc、マルトース:Mal、トレハロース:Tre、コーンデンプン:Corn)を健常猫4頭に給与し、血中グルコース、インスリンおよびNEFA濃度に与える影響を検討した。グルコース曲線下面積(Glucose-AUC0-10h)は、Tre食、Corn食と比較してGlc食、Mal食で有意に高値を示した。Insulin-AUC0-10hは全ての群間で有意差は認められなかった。また、NEFA-AUC0-10hは、Glc食、Mal食と比較してTre食で有意に高値を示したが、Corn食では有意差は認められなかった。コーンデンプンは血糖上昇およびインスリン分泌が緩やかであり、また、血中NEFA濃度の上昇が認められなかったことから、炭水化物代謝の不得手な猫にとっても利用率が高い有用な炭水化物源となることが示唆された。
著者
小田 民美 秋山 蘭 生野 佐織 上田 香織 丸山 夏輝 佐伯 香織 森 昭博 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.16, no.Suppl, pp.Suppl_30-Suppl_31, 2013-07-03 (Released:2013-09-27)

朝7時から夜7時までと夜7時から朝7時までの12時間、各種ホルモンと糖代謝、脂質代謝に関連する項目の変動を検討した。朝試験は夜試験に比べて、食後1時間のインスリン濃度が有意に低値を示し、遊離脂肪酸 (NEFA) は食後12時間で有意に高値を示した。またGLP-1曲線化下面積 (GLP-1 AUC) は夜試験において有意に高値であった。夜試験の血糖値、インスリン濃度変動から、夜間は犬においてもインスリン抵抗性が若干上昇していて、インスリンによる血糖低下が昼間に比べると低いことが考えられた。
著者
中村 誠 上田 香織
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.293, 2017-09-25 (Released:2017-10-06)
参考文献数
22

日本神経眼科学会は,厚生労働省網脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班と合同で,レーベル遺伝性視神経症(Leber hereditary optic neuropathy:LHON)の指定難病認定を目的に,認定基準策定ならびに全国疫学調査を行った.認定基準は,特徴的な主徴候と検査所見を基にLHONを確定例,確実例,疑い例,保因者に区分した.日本眼科学会専門医制度認定施設ならびに日本神経眼科学会会員在籍施設の合計1,397施設に対して,2014年1年間に新規で発症し,ミトコンドリアDNA 3460, 11778, 14484変異のいずれかを有するLHON確定例と確実例の症例数ならびに男女の内訳をアンケート調査した.その結果,新規発症患者数は117人(95%信頼区間:81~153人)と推計された.11778変異例が86.4%,男性が90%以上を占め,ともに海外に比較し,高い割合であった.発症年齢の中央値は30歳を超えており,既報よりも高齢であった.認定基準の策定と患者数の特定は,当初の目的達成に加えて,一般眼科医の啓蒙ならびに研究者や企業の治療開発意欲の促進に資するであろう.
著者
佐伯 香織 小田 民美 生野 佐織 上田 香織 丸山 夏輝 秋山 蘭 小野沢 栄里 森 昭博 左向 敏紀
出版者
日本ペット栄養学会
雑誌
ペット栄養学会誌 (ISSN:13443763)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.19-25, 2014-04-10 (Released:2015-04-15)
参考文献数
26

運動療法は、インスリン感受性を改善し、骨格筋へのブドウ糖取り込みを増加させることから、糖尿病患者において有用な治療法である。本研究では、糖尿病犬に対する運動療法が血液生化学パラメーターおよび骨格筋遺伝子発現にどのような影響を及ぼすかを検討した。空腹時血糖値は運動前後で有意な変動は認められなかった。しかし、糖化アルブミン(GA)および遊離脂肪酸は運動後有意に低下した。インスリンシグナリングおよび糖代謝に関連する遺伝子(インスリンレセプター基質1および2、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ、aktキナーゼ2、グルコーストランスポーター4、AMP活性化プロテインキナーゼ、脱共益蛋白3およびアセチルCoAカルボキシラーゼ)の発現には運動前後で有意な変化は認められなかった。本実験結果より、運動療法を行うことでGAの低下をもたらし、糖尿病犬において血糖コントロールが改善された。