著者
若倉 雅登 山上 明子 岩佐 真弓
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.421-428, 2017-12-25 (Released:2018-01-29)
参考文献数
10

眼球や第一次視覚野までの経路が正常だとしても,例えば何らかの原因で開瞼が不能であればその機能を利用できない.我々はこうした症例を,医学的分類というより,当該患者が何に不都合を感じているかという観点から「眼球使用困難症候群」と名づけた.この症候群は,そうした不都合を有する病態に広く用いたいと考えるが,同症候群の命名のきっかけになった最重症の8症例を提示し,それらの臨床的特徴を明らかにする.8例に共通するのは,微細な光に過敏に反応し,眼球の激痛や高度の羞明に常時悩まされている点である.8例はいずれも,暗い部屋でも閉瞼するだけでなく,アイマスクや遮光眼鏡の使用は日々の生活で常に必需であった.大半の症例はジストニアのような動的異常よりも感覚異常のほうが目立った.一部の症例は,線維筋痛症を含む身体痛,舌痛症,顎関節症や抑鬱を合併していた.また,向精神薬の連用や離脱,頭頸部外傷や何らかの脳症などが契機となって発症していた.このように,全例眼瞼痙攣の最重症例と類似点があるが,完全に一致するかは今後の問題である.眼瞼痙攣は神経科学では局所ジストニアとして理解されているが,本質は,眼球使用ができないことにある.それゆえ,眼球使用困難症候群の一部を成すものとして扱い,特に高度なものは視覚障害者として扱うのが妥当であることを主張する.今回提示した8例以外にも,眼球使用困難症候群はさまざまな場合があると考えられ,症候発現に関する因子も種々であろう.日常生活において高度の不都合があるにもかかわらず,日本の現今の障害者福祉法では,視力のみ及び視野でしか評価しないために,視覚障害として認定されない.このように,眼球使用困難症候群では福祉的救済が必要であるにもかかわらず,法的にこのような障害が想定されていないことが問題点であることを,臨床医学の立場から指摘した.
著者
渡辺 敏樹 気賀沢 一輝 宮崎 泰 平形 明人
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.385-391, 2016-12-25 (Released:2017-01-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

眼以外の神経症状が見られない視神経萎縮で発見された神経梅毒の一例を報告する.症例は59歳男性,数年前より両眼の進行性視力低下,視神経萎縮を認めるも,数か所の病院にて原因が判明せず当院へ紹介となった.視力右(手動弁),左(0.1),視野は,右は下耳側周辺のみ残存,左は中心および下方に暗点を呈し,両眼視神経乳頭の萎縮がみられた.対光反射近見反応解離を認めたが,縮瞳傾向はなかった.画像検査では視神経萎縮を呈したが,圧迫などの異常所見はなかった.血液および髄液の梅毒抗体の高値,髄液細胞数の上昇を認め,HIV抗体は陰性だった.神経梅毒と診断,ペニシリン大量点滴治療を2週間施行した.治療後,髄液細胞数の低下,血液と髄液の梅毒抗体の低下を認めたが,視力,視野に著変はなかった.経過中に脊髄癆などの神経学的異常はなかった.神経梅毒による視神経萎縮は,日常診療にて遭遇する事は稀だが,視機能予後は不良である.視神経萎縮の原因として梅毒を念頭に置く必要がある.
著者
若倉 雅登 曽我部 由香 原 直人 山上 明子 加茂 純子 福村 美帆 奥 英弘 仲泊 聡 三村 治
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.7-13, 2021-03-25 (Released:2021-04-03)
参考文献数
20

【目的】眼球や視路に原因を求められないが,日常的に保有視覚を阻害されてしまう場合がある.この実態をさぐるために,全国的に臨床的特徴を検討すること. 【方法】日常的に保有視覚が常時阻害されている症例を,神経眼科およびロービジョンの専門家の有志でワーキンググループ(WG)にて収集した.2018年11月から2019年4月までの6か月間に眼瞼痙攣,心因性視力障害,詐病を除く上記に見合う症例をWGのメーリングリスト上で報告し内容を検討した.最終的に以下の二次的除外基準を設けて症例を絞り込み,その臨床的特徴を考察した.1)頭部MRIなどで病変が同定できる症例,2)視覚に影響を及ぼす精神疾患が確定している症例,3)眼位,眼球運動障害による視覚障害が出現している症例である. 【結果】最終的に対象となった症例は33例(16歳から80歳,男女比(9:24))が収集された.これらの臨床的特徴を解析すると,非眼球性羞明26例,眼痛5例と視覚性感覚過敏が目立った.両者とも有する例が21例,両者ともないものが1例であった.これらの多くは注視努力(企図または遂行)によって症状が悪化する傾向にあった.33症例の報告の内容から,3例以上に共通して随伴していた臨床的特徴としては脳脊髄液減少症,片頭痛,ベンゾジアゼピン系薬物の連用,線維筋痛症があった. 【結論】眼球や視路に原因がないのに,日常視を妨げる恒常性の羞明や眼痛を有する症例が少なからず存在することがわかった.これらは,視覚関連高次脳機能障害のうち,感覚過敏が前面に出たものと考察できるが,詳細なメカニズム解明は今後の問題である.
著者
杉原 瑶子 三田 覚 岩佐 真弓 山上 明子 若倉 雅登 井上 賢治
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.64-70, 2018-03-25 (Released:2018-03-31)
参考文献数
11

網膜硝子体手術後の合併症の一つに斜視がある.その原因として局所麻酔薬による筋毒性,外眼筋の損傷,機械的因子などが挙げられる.今回硝子体手術後に斜視を呈した3症例を経験した.3例とも術眼の下斜視と上転制限を呈していた.手術時の麻酔はbupivacaineによる球後麻酔であった.2例ではMRIで下直筋の球後での肥大を認めた.硝子体手術後の斜視はbupivacaine筋毒性による下直筋障害が原因と考えられた.2例は斜視手術により良好な眼位を得られた.
著者
大越 教夫 石井 亜紀子
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.446-456, 2014

ミトコンドリア病は,ミトコンドリアDNAあるいは核DNA異常によって生じるミトコンドリアの呼吸鎖電子伝達系障害により多彩な臨床症状を来す疾患の総称である.障害されやすい臓器は,骨格筋,中枢神経系,心臓であり,特にミオパチーでは,外眼筋と四肢・体幹の骨格筋が障害されやすい.外眼筋症状はミトコンドリア病診断の重要症状の一つで,極めてゆっくり進行する眼瞼下垂と外眼筋麻痺を特徴とする.四肢の筋力低下は通常は近位筋優位であるが,遠位筋優位となることもある.また,特徴的な筋症状の一つに軽度の活動で早期から疲労をきたす運動不耐症があり,筋力低下の程度に比して強い症状として出現しやすい.進行例では嚥下障害や構音障害もみられる.早期診断のスクリーニング検査として血液・髄液の乳酸/ピルビン酸比が重要である.筋生検では,赤色ぼろ線維(ragged-red fibers)やcytochrome c oxidase欠損線維がみられる.MRI検査も重要で,脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症(MELAS)では脳梗塞様病変,ragged-red fiberを伴うミオクローヌスてんかん(MERRF)では大脳,小脳の萎縮が特徴的である.ミトコンドリアDNAや核DNA原因遺伝子の異常を検出することが確定診断には重要となる.
著者
岡 真一郎 池田 拓郎 吉田 誠也 近藤 遥奈 筒井 友美 田中 晴菜 後藤 和彦 光武 翼 後藤 純信
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.36-43, 2019-03-25 (Released:2019-04-23)
参考文献数
20

バーチャルリアリティ(VR)を用いたニューロリハビリテーションの基盤研究として,2つの実験を行った.実験1では,右頭頂葉と視運動性眼振(OKN)および立位姿勢制御の関連機構について検討した.右頭頂葉の一過性機能抑制には,経頭蓋直流電流刺激の陰極刺激を使用し,OKNと身体動揺を計測した.その結果,右頭頂葉の感覚情報処理は視運動性眼振および開眼時立位姿勢制御と関連していることが示された.実験2として,完全没入型のスマートフォン用ヘッドマウントディスプレイ(S-HMD)を使用し,視運動刺激(OKS)がバランス能力に与える影響について検討した.その結果,OKS後は静止立位および左右片脚立位の開閉眼条件での姿勢制御機能が向上した.運動先行型の脳機能を賦活するニューロリハビリテーションは,リハビリテーションの効果を高める可能性を有することが示された.民生用HMDは,VRによるニューロリハビリテーションを臨床現場へ広く普及させるためのデバイスとしてのポテンシャルを秘めている.今後,HMDを用いたニューロリハビリテーションの推進を期待する.
著者
毛塚 剛司
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.5-12, 2014-03-25 (Released:2014-07-11)
参考文献数
13
被引用文献数
5

視神経脊髄炎は特発性視神経炎に比べると頻度が少なく,難治性となりやすい.近年,抗aquapolin 4(AQP4)抗体と視神経脊髄炎との関係性が明らかにされ,治療への道筋が徐々に解明されつつある.抗AQP4抗体陽性視神経炎は,急激な発症であり,一般的にステロイド抵抗性で,多彩な視野変化をきたす.また,抗AQP4抗体陽性視神経炎ではグリア細胞の1種であるアストロサイトが標的細胞となり,男女比が1:9で女性に多い.一方,抗Myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体陽性視神経炎はオリゴデンドロサイトが標的細胞となり,抗AQP4抗体陽性視神経炎と同様,視神経から視交叉,視索にかけて障害が起きやすい.このため,抗MOG抗体陽性視神経炎は抗AQP4抗体陽性視神経炎とよく似た視野変化を示す.抗MOG抗体陽性視神経炎の予後は比較的良好だが,ステロイド大量療法に対して反応が悪いことがあり,再発しやすい.抗AQP4抗体陽性,もしくは抗MOG 抗体陽性視神経炎の両者とも,治療法はまずステロイドパルス療法を始めに行うが,抵抗性の場合は血漿交換療法や免疫吸着療法,免疫グロブリン大量療法などを行う.
著者
山崎 美香 岩佐 真弓 山上 明子 塩川 美菜子 井上 賢治 若倉 雅登
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.137-147, 2023-06-25 (Released:2023-07-11)
参考文献数
15

我々は,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種後,2か月以内に発症した視神経炎を5例経験した.2例(症例1,2)は典型的な抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体陽性視神経炎で1例目は片眼,2例目は両眼発症であった.3例目は,非典型的な両側抗MOG抗体陽性視神経炎にぶどう膜炎を併発していた.4例目は,非典型的な両側視神経炎であり,視神経周囲炎様の所見と著明なくも膜下腔の拡大を伴っていた.5例目は,非典型的な片眼抗MOG抗体陽性視神経炎であり,ワクチン接種から活動的な進行がみられるまで,約2か月を要していたが,ワクチン接種時期と視神経炎の発症の時期から,SARS-CoV-2ワクチンの副反応の可能性を十分考慮すべきと考えた.今回経験した5症例は,それぞれ,全く異なる臨床所見を示しており,SARS-CoV-2ワクチン接種後の視神経炎は,典型的な視神経炎を呈する症例から,一見視神経炎以外の疾患を疑うような非典型的な視神経炎まで,多様な臨床像を呈する可能性がある.また最も注目すべきことは,5例中4例で抗MOG抗体陽性であったことであり,ワクチン接種と抗MOG抗体陽性視神経炎がどのように関連しているのか,その真偽と機序の解明を待ちたい.
著者
山上 明子 岩佐 真弓 井上 賢治 若倉 雅登 龍井 苑子 石川 均 高橋 浩一
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.162-171, 2021-06-25 (Released:2021-06-22)
参考文献数
23
被引用文献数
2

脳脊髄液減少症と診断された28例(男性13例,女性15例)の自覚症状,眼所見,調節力を検討した.また視力・視野障害のない症例に輸液治療施行前後で近見時瞳孔反応と調節をTriIRISとARK-1を用い測定し比較検討した. 眼科的な自覚症状は眼痛71.4%,ピントが合わない60.7%,単眼複視42.9%,両眼複視35.7%,視力低下 28.5%,羞明25.0%,視野異常7.1%であった. 視力低下例では眼内に異常所見がなく,視野異常例では半数で求心性視野狭窄を呈した.調節力は75.0%で年齢に比し低下傾向を示した.輸液治療施行前のTriIRISを用いた検査では輻湊時の視標への追従が悪い,瞬目が多いなど近見視に伴う輻湊や縮瞳にノイズが多かったが,輸液治療後は全例見え方の改善を自覚し,一部の症例でTriIRISでの輻湊時視標への追従の改善,瞬目の減少がみられたが,ARK-1の結果では調節微動および瞳孔径に差がなかった.脳脊髄液減少症に対する輸液治療後の見え方の改善は輻湊系の機能の改善を示唆している可能性がある.
著者
津田 浩昌
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.366-370, 2015 (Released:2016-01-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2

Body lateropulsion(BL)とは,中枢神経系の障害により,筋力が保たれているにも関わらず体幹が不随意に一側に傾いてしまう症候である.BLの責任病巣には,延髄外側,橋,中脳,小脳,上小脳脚・下小脳脚が報告されている.延髄外側病変では,前庭神経核,外側前庭脊髄路,背側脊髄小脳路がBLの責任病巣になりうる.前庭神経核の病変では,通常はBLの他に眼振,回転性眩暈,ocular tilt reaction,ocular lateropulsionなどの症状がみられる.また,BLにhemiataxiaを伴えば背側脊髄小脳路,伴わなければ外側前庭脊髄路が責任病巣と推定されるという仮説がある.しかし,この仮説に合致しない,BLを呈した延髄外側病変の症例も報告されている.橋病変では,ascending graviceptive pathway(GP)がBLの責任病巣と考えられている.GPは延髄の前庭神経核を起点とし,対側のカハール間質核に至るが,その正確な走行は未解明である.既報告からは,GPは橋下部の前庭神経核レベルで正中交叉した後に,橋下部・中部では内側毛帯の背側を走行し,橋上部においては腹側三叉神経視床路と内側縦束の間を走行すると推定される.中脳病変によるBLの責任病巣としては,赤核,ascending vestibulothalamic pathway,cerebellothalamic pathway,GPが挙げられている.小脳病変では,小脳虫部がBLに関与している可能性が高い.一側の小脳虫部nodulus病変では対側へのBL,一側culmenの病変では回転性眩暈を伴わない同側へのBLが起きるという既報告がある.また,一側の上小脳脚と下小脳脚に限局した病変により,同側へのisolated BLを呈した症例が報告されている.急性発症のBLでは,随伴症状が責任病巣の推定に役立つ.しかし,isolated BLが延髄外側,橋,中脳,小脳,上小脳脚・下小脳脚のいずれの病変でも起こりうることに注意を要する.
著者
高橋 浩一 山上 明子 石川 均 美馬 達夫
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.283-286, 2016-09-25 (Released:2016-09-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1
著者
飯島 綾 石川 均 後関 利明 清水 公也 金井 昭文
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.331-335, 2014-09-25 (Released:2014-12-17)
参考文献数
14

うっ血乳頭を合併した脳脊髄液減少症の1例を経験した.症例は60歳男性.自転車で転倒した後より,頭痛・めまい・吐気・耳鳴りが出現した.脳神経外科で画像上,慢性硬膜下血腫を認め,臨床症状からは脳脊髄液減少症の診断となり,硬膜外自家血注入を施行した.頭痛・めまい・吐気などの症状は改善したが,治療後1か月後に「焦点が合わない,歪む」との主訴で眼科を受診した.初診時両眼のうっ血乳頭を認めた.経過観察のみで徐々に乳頭腫脹および網膜出血は改善したが,硬膜外自家血注入は脳圧を上昇させる可能性も指摘されているため,今後,硬膜外自家血注入療法の際には,前後での眼科の診察が必要であると考えられた.
著者
東 範行
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.216-222, 2022-09-25 (Released:2022-09-30)
参考文献数
8

我々はヒトiPS細胞,ES細胞から長い軸索をもつ網膜神経節細胞(RGC)を自己的に分化させることに初めて成功した.これによってヒト細胞を用いて視神経の研究をin vitroで行うことが可能となった.疾患の細胞モデルを作製すれば,その発生や病態の分子メカニズムを検討することができる.遺伝性疾患では,患者細胞からiPS細胞を作製してRGCに分化させ,非遺伝性疾患(虚血性視神経症,緑内障,外傷)ではiPS細胞/ES細胞由来のRGCにストレス(低酸素,加圧,伸展)を加えてモデルとする.ヒト細胞を用いた薬物評価系は神経保護薬や神経再生薬の創薬に大きく役立つ.また,発生学や神経学の基礎研究にも寄与すると思われる.RGCの移植は難しいが,マウスでは網膜内に生着して軸索伸長することも確認されている.ヒトRGCのin vitro研究は,さまざまな分野で研究や臨床に応用できることが期待される.
著者
河野 玲華
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.291-295, 2015-09-25 (Released:2015-10-16)
参考文献数
9
被引用文献数
3

眼球赤道部をリング状に取り囲むコラーゲンを主体とする眼窩結合組織(これを眼窩プリーと称す,以下プリーと略)は,外眼筋の走行を安定させ,かつ外眼筋の起始部として機能的な役割を担う.とくに密なコラーゲンを主体とする厚みが2~2.5 mmの外直筋と上直筋との間のプリー組織(LR-SRバンドと略)の形態と眼位との関係が注目されている.LR-SRバンドに加えて外直筋のプリー組織も加齢の影響を受けやすく,LR-SRバンドの菲薄化,伸展,断裂,さらに外直筋プリーの下垂が眼位異常を生じさせる可能性が指摘されている.なかでも,sagging eye syndromeと称されるタイプの眼位異常ではbaggy eyelid,superior sulcus deformity,腱膜性眼瞼下垂などの外眼部異常も随伴するのが特徴である.
著者
廣川 貴久 西川 優子 戸成 匡宏 奥 英弘 池田 恒彦
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-52, 2021

<p> 貧血が主要な原因と考えられた頭蓋内圧亢進の一例を経験した.症例は16歳,女性,霧視を主訴に近医を受診し,うっ血乳頭の疑いで本学紹介受診した.頭蓋内病変は認められなかったが,血液検査で強い貧血を認め,標準体重から150%以上の肥満があった.特発性頭蓋内圧亢進症を疑い,アセタゾラミド内服,高浸透圧利尿剤点滴で治療を開始したが,うっ血乳頭は改善を認めなかった.貧血精査の過程で婦人科受診し,過多月経に対して女性ホルモン薬が投与され,貧血の改善とともに,うっ血乳頭,視力,視野所見の改善を認めた.貧血は頭蓋内圧亢進の原因となるため,頭蓋内圧亢進症が疑われた場合,貧血の有無を確認し,貧血の治療を行う必要があると考えられた.</p>
著者
若倉 雅登
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.304-308, 2019-09-25 (Released:2019-10-02)
参考文献数
23

ベンゾジアゼン系薬物(BZD)は,化学構造上本来のBZDだけでなく,臨床的にはしばしばチエノジアゼピンも含めて扱うことがある.また非BZDとされる薬物でもBZDと同様に γ-アミノ酪酸(GABA)A受容体に結合して,抗けいれん,催眠鎮静,筋弛緩などの作用を持つ,薬理学的BZD類似薬がある.これらの薬剤による視覚系,神経眼科的副作用は意外と知られていないので,本稿では3項に分けてレビューした.すなわち1)視覚系副作用,2)薬剤性眼瞼けいれん,3)離脱症候群である. 眼科臨床においては,急性狭隅角緑内障における抗コリン作用は常に問題にされるが,重要度も頻度も高いと思われる神経眼科的副作用には関心が低く,服薬歴を聴取する機会は少なかったと思われる.これらの薬剤は非常に種類が多く,特に日本では世界の中でも飛びぬけて多用,乱用されているので,こうした副作用に留意することが重要である.
著者
吉田 正樹 井田 正博 政岡 ゆり 小岩 信義 Jean Louis Stievenart 吉川 輝
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.334-343, 2016

中枢機能を非侵襲的に研究するために,課題や刺激による局所脳活動解析がおこなわれてきた.一方で,このようなアプローチでは中枢機能の統合過程を研究するには限界があった.近年,安静時の脳活動という概念がデフォルトモードネットワークとして紹介され,これが内的思考などに関与し,従来の目標指向型の課題遂行で脱賦活する特徴があることがわかってきた.このような脳の自発的な活動は,従来の課題による脳局所活動と密接に相関することもわかってきた.この流れより,中枢機能の統合過程を解析する手段として,MR信号や拡散テンソル画像をベースにしたグラフ理論による解析法が提唱された.これらの,脳機能の局所解析からネットワーク全体の解析に至る過程を解説する.
著者
高比良 雅之
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.110-117, 2016

IgG4関連眼疾患(IgG4-related ophthalmic disease)の概念は,2004年のIgG4関連Mikulicz病の報告に始まった.その病変は涙腺の他に三叉神経周囲,外眼筋にも好発する.IgG4関連眼疾患の最も重要な鑑別疾患はMALTリンパ腫であり,両者はときに併発するので注意すべきである.IgG4関連眼疾患の病変において最も重視すべきは視神経症の併発である.過去の報告や自験例などからは,IgG4関連眼疾患のおよそ1割で視神経症を来すと考えられる.罹患側の光覚消失までに至った重症例も経験した.ステロイド全身投与を導入しない症例でも,血清IgG4が高値の症例では視神経症の発症に留意すべきである.またIgG4関連視神経症の初期では緑内障として加療される可能性もあり,注意を喚起したい.視神経症の視機能はある程度はステロイド治療に反応するが,その回復には限界があるので,早期の治療導入が望ましい.
著者
岩佐 真弓 塩川 美菜子 山上 明子 井上 賢治 若倉 雅登
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科 (ISSN:02897024)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.55-58, 2018

Leber遺伝性視神経症(LHON)は10~20代の若年男性に好発するとされるが,比較的高齢発症する症例の臨床的特徴を検討した.2002年から2015年に受診したLHON92例のうち,発症年齢が50歳以上であった14例に対し,その年齢・性別・ミトコンドリアDNA変異の種別,臨床経過をレトロスペクティブに検討した.50歳以上で発症した14例(男性11例,女性3例)のDNA変異はm.11778G>Aを有し,そのうち8例で家族内発症が明らかであった.最低視力の平均は0.01,最終視力の平均は0.02であり,視野はゴールドマン視野計で5~30度の中心暗点を呈した.また,アルコール依存症,網膜静脈閉塞症,胃全摘などの既往歴がみられた.当院で経験したLHONのうち,50歳以上の症例は10%を超えており,稀ではなかった.いくつかの既往歴は,誘因としての役割という観点から今後注意していくべきものと考えられる.