- 著者
-
津田 浩昌
- 出版者
- 日本神経眼科学会
- 雑誌
- 神経眼科 (ISSN:02897024)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.4, pp.366-370, 2015 (Released:2016-01-20)
- 参考文献数
- 31
- 被引用文献数
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Body lateropulsion(BL)とは,中枢神経系の障害により,筋力が保たれているにも関わらず体幹が不随意に一側に傾いてしまう症候である.BLの責任病巣には,延髄外側,橋,中脳,小脳,上小脳脚・下小脳脚が報告されている.延髄外側病変では,前庭神経核,外側前庭脊髄路,背側脊髄小脳路がBLの責任病巣になりうる.前庭神経核の病変では,通常はBLの他に眼振,回転性眩暈,ocular tilt reaction,ocular lateropulsionなどの症状がみられる.また,BLにhemiataxiaを伴えば背側脊髄小脳路,伴わなければ外側前庭脊髄路が責任病巣と推定されるという仮説がある.しかし,この仮説に合致しない,BLを呈した延髄外側病変の症例も報告されている.橋病変では,ascending graviceptive pathway(GP)がBLの責任病巣と考えられている.GPは延髄の前庭神経核を起点とし,対側のカハール間質核に至るが,その正確な走行は未解明である.既報告からは,GPは橋下部の前庭神経核レベルで正中交叉した後に,橋下部・中部では内側毛帯の背側を走行し,橋上部においては腹側三叉神経視床路と内側縦束の間を走行すると推定される.中脳病変によるBLの責任病巣としては,赤核,ascending vestibulothalamic pathway,cerebellothalamic pathway,GPが挙げられている.小脳病変では,小脳虫部がBLに関与している可能性が高い.一側の小脳虫部nodulus病変では対側へのBL,一側culmenの病変では回転性眩暈を伴わない同側へのBLが起きるという既報告がある.また,一側の上小脳脚と下小脳脚に限局した病変により,同側へのisolated BLを呈した症例が報告されている.急性発症のBLでは,随伴症状が責任病巣の推定に役立つ.しかし,isolated BLが延髄外側,橋,中脳,小脳,上小脳脚・下小脳脚のいずれの病変でも起こりうることに注意を要する.