著者
北條 昌芳 阿部 俊明 鹿野 哲也 玉井 信
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1253-1255, 2003-07-15

要約 55歳女性が左眼の上下瞼結膜に黒い塊があるのに気づいて受診した。8年前にアレルギー性結膜炎と診断され,デキサメタゾンの点眼を続けていた。結膜結石があり,数回の結石除去術を受けていた。視力は良好で,眼底その他に異常はなかった。左眼の瞼結膜に偽膜形成があり,上の瞼結膜に1個,下の瞼結膜に9個の黒色塊があった。生検で黒色塊はクリプトコッカス症と診断した。残りの黒色塊を除去し,ステロイド薬点眼を中止させた。以後の再発はない。瞼結膜のクリプトコッカス症は稀であるが,長期の副腎皮質ステロイド薬の点眼による眼局所の免疫力低下が引き金になったと推定した。
著者
井川 美智子 中山 奈々美 前田 史篤 田淵 昭雄
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1251-1255, 2006-07-15

要約 目的:縦書きと横書きの文章を読むときの眼球運動の比較。対象と方法:19~23歳の健康人19名を対象とした。読書時の眼球運動は赤外線眼鏡型眼球運動記録装置で記録し,自覚的な読みやすさを聴取した。読書材料として,1辺が3.5mmの明朝体の文字を,A4用紙に1行45文字,15行で縦または横に印刷したものを使った。結果:眼球運動波形は,縦書きと横書きともに視線移動(saccade)と固視からなる階段状波形を示した。視線移動の速度は横書きのほうが速く,固視回数は縦書きのほうが有意に多かった。自覚的には横書きのほうが読みやすいという回答が多かった。結論:縦読みでは固視回数が多くなり,視線移動速度が遅くなることが読みやすさに影響していると解釈される。
著者
上田 香織 中村 誠
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.1666-1670, 2017-11-15

はじめに レーベル遺伝性視神経症(Leber hereditary optic neuropathy:LHON/OMIM#535000)はミトコンドリアの点変異による急性ないし亜急性の視神経症である。典型的には片眼の急激な視力低下と中心視野欠損で発症し,数週から数か月の間隔をおいて対側眼に同様の症状をきたす。光覚を失うことは稀で,多くは手動弁から(0.01)程度の視力で経過するが,ごく少数の症例で自然回復がみられる1)。 LHONはミトコンドリア疾患のため母系遺伝し,これまで10〜20歳代の若年男性に好発するとされてきたが,近年は高齢者での発症報告例が増加してきている。本邦でのこれまでの疫学調査では,1995年にHottaら2)が11778変異の患者の発症年齢の平均値を23.4歳と報告していたが,2014年の新規発症患者を調査したところ,発症時の平均年齢は33.5歳とこの20年で10歳上がっており,40歳代以上の中高年の患者は全体の40%以上を占めていた(図1)3)。本邦ではこれまで正確な患者数も把握されておらず,統計的に予測値を算出するにとどまっていたが,2016年に指定難病となり,今後は疫学調査も進むことが期待される。 LHONでは95%以上の症例でmtG3460A,mtG11778A,mtT14484Cのいずれかの一塩基置換が検出される。これらはprimary mutationと呼ばれるが,すべて呼吸鎖複合体Ⅰを構成する蛋白をコードしている。遺伝子変異によって複合体Ⅰの機能不全をきたし,網膜神経節細胞のアポトーシスに至ると考えられているが,なぜ網膜神経節細胞のみにこのような変化が起きるのかはわかっていない。また,発症には何らかの環境因子が酸化ストレスとして関与していると予想されており,疫学調査では喫煙や大量のアルコールの摂取がリスクファクターであることが示唆されている4)。 現在有効な治療法は確立されていないが,眼血流を改善する目的で点眼薬やビタミンBなどのサプリメントが用いられることがある。また近年,LHONをはじめとするミトコンドリア病に対しコエンザイムQ10誘導体である,イデベノンの内服が有効であるというデータが蓄積されつつある。変異遺伝子を正常のものと置き換える,または正常遺伝子を導入して呼吸鎖の機能を回復あるいは補塡する,といった遺伝子治療も試みられている。 本稿では,主にイデベノンと遺伝子治療に関する最近の臨床試験の成績について述べる。
著者
松浦 一貴 寺坂 祐樹 今岡 慎弥
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.491-495, 2019-04-15

要約 目的:雪視症(visual snow)では,視野全体に雪が降っているような感覚が視野全体に持続する。片頭痛や耳鳴に加え,不安やうつ状態も本症に併発する。Visual snowの診断には,内視現象の強化,反復視,羞明,夜間視の障害が3か月以上持続する必要がある。心因性ストレスが先行するvisual snowの1例を報告する。 症例:25歳男性が受診した。大学卒業後2年間就職が決まらず,3か月前から視界に砂嵐が見え,眼内に残像が出る感覚と羞明が持続している。耳鳴が最近強くなった。片頭痛はない。 症状と経過:眼科と神経学的に異常はない。Wide-range assessment of vision-related essential skillsでは,視覚情報が手を介して出力される目と手の協力は正常であり,図形を認知する視知覚に著しい低下があった。羞明と夜間視の障害の併発があった。無治療で12か月経過を観察し,症状は残っているが,生活には支障がない。 結論:本症例では,ストレスに伴う視覚的認知障害が生じ,その結果としてvisual snowが発症したと考えられる。
著者
石田 文雄 内山 紀子 土生 英彦 矢野 喜正 内山 勉 中村 かおる
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1799-1803, 2006-10-15

要約 目的:色覚異常対応とされるチョークで黒板に書いた文字の先天色覚異常者による視認性と色名認知性の報告。対象と方法:1型2色覚4名,2型2色覚5名,正常色覚5名を対象とした。年齢は19~52歳であり,矯正視力は良好であった。通常の白文字のなかに色文字を混在させ,濃緑の黒板に書いた5×5cmのローマ字列から指定する色の位置を抽出させ,色名を答えさせた。色文字には,色覚異常対応,蛍光,通常の色チョークを用いた。結果:正常色覚者はすべて正答した。2色覚者は白文字と色文字との判別が困難であった。色名呼称では,色覚異常対応と蛍光チョークは黄以外では従来型のチョークよりも誤答率が高かった。色覚異常対応チョークの赤は色覚異常者すべてが色名を誤答した。結論:先天色覚異常者にとって,色覚異常対応チョークと蛍光チョークの有用性はない。色チョークは白と黄に限定すべきである。
著者
三島 済一
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.47, no.11, pp.197, 1993-10-30

姫路の眼科医,高橋江春が明治18年,国産最初の義眼を作り,『義眼要弁』という本を著した。曾孫の高橋先生,京都の奥沢先生からその実物を送って頂いて,見ると素晴らしい出来ばえで,お椀のような形をし,眼球の上にかぶせるようになっている。当時は風眼,旬行性角膜潰瘍が非常に多く,角膜ぶどう腫や眼球萎縮などになったので,前者では眼球縮小術をしてこの義眼をかぶせると,よく動き,容貌が改善し,喜ばれたことはまちがいない。 明治28年,日清戦争で負傷した元兵士に対し,恩賜の義手,義足,義眼が下賜されている。当時の義眼には輸入されたものもあったが,この恩賜の義眼は高橋義眼であろうと思っている。当時の陸軍軍医学校の図書室には眼科の本として,保利真直著3冊,伊東元春訳1冊と『義眼要弁』があった。したがって陸軍は高橋義眼をよく知っており,これを用いたに違いない。
著者
中島 實 安間 哲文 石島 亨
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.97-101, 1949-03-15

緒言 1916年Smithが腦下垂體を摘出すると蛙の體色が白變することを發見し,Alten,Swingle等によつて腦下垂體に色素細胞を擴張させる物質即ちメラノフオーレンホルモン(以下MHと略す)の存在が確認された。1933年JoresはBi-rch-Hirschfeld光神計を用い,MH點眼後12〜15分で暗順應時間が著しく短縮され且疲勞が少く明瞭に見える樣になると報告し,その追試によりScardacioneは賛成し,Bugchkeは反對した。其後Joresは40回の點眼で34回の陽性成績を得て再び自説を強調している。尚彼が自説の裏付けに舉げている諸點は:1)夜間活動する動物例えば猫では腦下垂體アセトン乾燥末1mg中にMH3.0單位を含むのに,鶏では僅かに0.05,人間では0.2,モルモットでは0.8である。2)同じ動物でも明所よりも暗所に置いた方がMH含量が増加する,即ち家兎の血液1立中に含まれるMHの單位は明0.075,暗0.32,眼では明0.028,暗0,065,房水では明0,暗0.0013である。3)MH注射,浸漬等により蛙網膜色素の暗位移行を人爲的に起すことが出來る等である。 私共は昭和18年6月から19年末に亘り,夜間視力増強の試みとして,青山科學研究所伊藤正雄博士指導により作製されたMHを使用して次の樣な成績を得た。
著者
田島 亜紀 玉井 一司 山田 麻里
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.525-529, 2004-04-15

後天性梅毒により急性視力障害が起こった2例を経験した。1例は85歳女性で,1週間前からの両眼霧視で受診した。1年前に白内障手術を受け,矯正視力が右0.6,左0.8であったが,受診時には右0.1,左0.2に低下していた。両眼に虹彩炎,網脈絡膜萎縮,黄斑浮腫があった。梅毒血清反応が陽性であり,梅毒性網脈絡膜炎と診断した。駆梅療法を行い,2か月後に視力が右0.7,左1.0に改善した。他の1例は36歳男性で,1週間前からの左眼霧視で受診した。3週間前から両側の手足に皮疹があった。矯正視力は右1.5,左0.5であった。左眼の視神経乳頭が発赤,腫脹し,視神経乳頭炎と診断した。血清と髄液の梅毒反応が陽性であり,皮疹は梅毒2期疹であると診断された。駆梅療法と副腎皮質ステロイド薬の全身投与を行った。1週間後に左眼視力は1.0に回復し,3週間後に眼底所見はほぼ正常化した。
著者
南 熊太
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.802-803, 1959-04-15

鹿児島茂先生は,俳号も茂として,即ち鹿児島茂(漢詩とか,書等の時は『寿峰』の号をよく用いられていしまたが,俳号は『茂』でした)として,俳句をよく発表されていました。俳句としては,熊本市内にて,眼科開業の伊藤忠(田々子)氏(熊本医大眼科にて研究,昭和18年,66歳にて,学位受領の篤学の方)及び当時熊本県立第一高等女学校高等科,浜田佐賀衛(坂牛)教授(後の東京学芸大学教授)の指導を受けられていまして俳句雑誌としては『ホトトギス』にも投句されていましたが,多くは,熊本市にて発行されています『阿蘇』に投句されていました。『阿蘇』では,長い間,鹿児島茂,鹿児島田鶴子,南フミ(俳号史子)の3人が揃つて5句投句,5句入選にて揃つて上位を占め,特に,或る時は,此の3人の中の1人が,巻頭になり,或は,他の時は,他の1人が巻頭を占めると言う如き状態が長くつづいたのであつたが,茂先生はじめ,此の3人も,又伊藤忠博士も今は早や故人となつていられるのであります。俳句を通じて,その当時その当時の鹿児島茂先生を憶い出してみたいと思うのであります。 ○熊本医大では,昭和5年頃即ち私がまだ学生の頃から毎年秋に教授以下全教職員,事務職員,学生,看護婦等,全員の阿蘇登山が行われていて,学生の時も,鹿児島先生のお伴をして,中嶽に登つたことを覚えているが,昭和9年秋の阿蘇登山は,外輪山の大観峰に登つているがその時の先生の句に次の如きものがあります。
著者
深瀬 明子 寺崎 浩子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.629, 2014-05-15

症例は24歳,男性。右眼変視症を主訴に近医受診し,網膜前出血の診断,精査・加療目的に当院を受診した。初診時視力は右0.2(0.7×-1.75D),左0.4(1.5×-1.25D),眼圧は圧平眼圧計にて両眼とも14mmHg,眼底所見は右眼視神経乳頭上方に網膜前出血がニボーを形成しており,黄斑部にも網膜前出血を認めた。9か月前までボクシングをやっていたが最近の外傷や既往歴はなく,症状出現前に筋力トレーニングなどでいきんだというエピソードからValsalva網膜症と考えられた。撮影は初診時に行った。 内服加療を行い,2週間後に黄斑部の網膜前出血は消失,2か月後には視神経乳頭上方の出血も吸収され硝子体混濁をわずかに残すのみとなり,右視力(1.5)まで改善した。
著者
簗 麻理子 岩崎 優子 篠原 宏成 大野 京子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.509-514, 2019-04-15

要約 目的:正常眼圧緑内障の片眼に網膜分離と黄斑部の網膜剝離が併発した症例の報告。 症例:71歳の女性が右眼の視力低下で紹介され受診した。15年前から両眼の緑内障として他医で加療中であり,当初の矯正視力は左右とも1.2であったという。 所見と経過:矯正視力は右0.3,左0.7であった。光干渉断層計で右眼の黄斑部に網膜剝離と,乳頭周囲に網膜分離があった。網膜の内層分離は,視神経線維層欠損部位から鼻側に広がり,網膜外層分離の範囲は乳頭の下方を中心に鼻側と耳側に均等に広がっていた。Optic disc pit maculopathyに類似する疾患と考え,硝子体手術を実施した。術後に黄斑円孔が生じたが,内境界膜の自家移植とガスタンポナーデにより円孔は閉鎖し,右眼視力は0.5に改善した。 結論:乳頭にpitがなくても,正常眼圧緑内障では,経過中にoptic disc pit maculopathy様の網膜分離や網膜剝離が生じうることを本症例は示している。
著者
岸 茂 政岡 則夫 森 貴久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1319-1323, 1998-07-15

頸動脈海綿静脈洞瘻が30か月前に発症した68歳の女性が,同側の視野異常で受診した。患側に浅前房と脈絡膜剥離が発見された。インドシアニングリーン赤外螢光造影で,後極部から上方の中間周辺部に脈絡膜循環障害による低螢光斑と,後極部から鼻側にかけて脈絡膜静脈の拡大があった。このような所見は,海綿静脈洞瘻で好発するものであり,脈絡膜剥離に特異な変化であるとは考えにくい。赤外螢光造影で検出できない脈絡膜血管の透過性亢進が持続しているためと推定された。浅前房と脈絡膜剥離は1か月後に自然寛解した。
著者
小林 博
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.917-922, 2016-06-15

要約 目的:緑内障患者において,2年間にわたる点眼補助具の使用によるアドヒアランスの変化を検討した。 対象と方法:対象は,少なくとも6か月にわたり,ラタノプロスト点眼液0.04%またはラタノプロスト・マレイン酸チモロール配合点眼液を単独に点眼しており,点眼方法に問題があると申告した緑内障患者112名(73.8±11.6歳,男性34名,女性78名)である。点眼補助具(ザルイーズ®)を渡し,2年間にわたり,2か月ごとにその使用状況と点眼のアドヒアランスの変化を調査した。 結果:調査は108名(96.4%)が完了した。調査開始から6か月後,12か月後,24か月後の使用率は,68.5%,74.1%,75.0%であった。最終調査の時点で点眼補助具を使用している患者では,点眼のアドヒアランス良好患者が使用前では55名(67.9%),使用後では71名(87.7%)であり,有意に増加した(p=0.003)。使用していない患者では調査開始前18名(66.7%),調査終了時21名(74.1%)であり,変化はなかった(p=0.3)。 結語:緑内障薬の点眼補助具は,2年間においても,75%が使用されており,使用の容易さと忍容性の高さを示していた。点眼補助具を使用することで,点眼が容易になり,点眼のアドヒアランスが改善したと考えられた。
著者
河崎 一夫 奥村 忠 田辺 譲二 米村 大蔵 西沢 千恵子 山之内 博 中林 肇 東福 要平 遠山 竜彦 村上 誠一 小林 勉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.137-140, 1973-02-15

緒言 高濃度酸素吸入によつて不可逆的眼障害をきたしうる疾患として,未熟児網膜症が知られている1)。本症では網膜血管が著しく狭細化する。成人においても高濃度酸素吸入によつて脳および網膜の血管が狭細になると報告された2)。この狭細化は,高濃度酸素吸入を止めた後には消失した(可逆的)2)。成人で高濃度酸素吸入によつて網膜血管の不可逆的狭細化をきたしたという報告はまだないようである。本報では,生命維持のため止むをえず高濃度酸素を長期にわたり吸入した重症筋無力症成人患者で起こつた網膜中心動脈(central retinal artery,CRAと便宜上記す)の白線化などの著しい眼底異常を記し,成人においても長期にわたる高濃度酸素療法は不可逆的眼障害をきたすおそれがあることを指摘したい。
著者
川崎 厚史 橋田 徳康 金山 慎太郎 小川 憲治
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.732-736, 2003-05-15

要約 鉄欠乏性貧血の3症例に網膜中心動静脈閉塞症が併発した。いずれも女性で,年齢は29歳,44歳,51歳,すべて片眼発症である。受診の動機は急性の視力低下または霧視であり,初診時の患眼の矯正視力は,0.02,1.0,0.8であった。眼底所見として桜実紅斑,動脈周囲の糸状網膜浮腫または限局性浮腫があり,蛍光眼底造影で網膜内の循環遅延があり,一過性の網膜中心動脈閉塞症と診断した。その後,視神経乳頭の発赤浮腫,網膜静脈の拡張蛇行,火炎状の網膜出血が生じ,網膜中心静脈閉塞症の所見を呈した。全例に血清鉄,フェリチン,ヘモグロビン,ヘマトクリット値の低下があった。鉄欠乏性貧血の原因である拒食症,胃潰瘍,不正性器出血がそれぞれにあった。鉄剤などの投与で貧血は軽快した。これに続いて視力と眼底所見は速やかに改善し,最終視力として0.3,1.5,1.2を得た。初診時視力が良好なほど視力転帰がよかった。
著者
中泉 行正
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.19, no.8, pp.1057-1063, 1965-08-15

世にシーボルト事件として医師土生玄碩及天文方高橋作左衛門両氏に関する事件は有名なものである。たまたま医史学会長小川鼎三博士が見えられ、談シーボルト事件の二三の事に及び、呉秀三先生の名著「シーボルト先生其生涯及功業」という大冊を見ていた処、当所所蔵の前記土生、高橋両氏等の裁判の判決即当時の申渡書の記載が異なる点があり、又必ずしも全文をつたえていないという事に気付き、当所所蔵の天保元年(一八三〇)庚寅六月に下山要人氏により書かれた実秘録と題する申渡書文書と相違がある為にこれを充分に解読せんとしたが、仲々難解な為、医史学会同人中最も故実に通ずる羽倉敬尚翁をわずらわす事となり同氏の研究解読により次にかかぐる様になつた。これが本文の成立で呉先生の御本との比較等は末尾に付記しておいた。研学の方は本書を通読されると共に必ず呉先生の本をも併読される事をお願いする。
著者
中谷 雄介
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.239-244, 2018-02-15

要約 目的:スプレーガンは圧縮空気を噴射する携帯型の装置で,動力源にエアコンプレッサーを用い,トリガーの操作により空気を噴射して,塵やゴミ,水滴などの付着物を吹き飛ばすものである。今回,スプレーガンによる眼窩内気腫を経験したので報告する。 症例:60歳,男性。仕事中,作業着の上からスプレーガンで埃をとるために噴射していたところ,誤って右眼球の中央から耳側にかけて空気をあてた。その直後,右眼瞼,顔面が腫れたため当院を受診した。 所見と経過:右眼球結膜下の多量の気泡,耳側結膜の裂傷を認め,右上眼瞼,下眼瞼,側頭部,頰部にかけて気腫を認めた。眼瞼,頰部などを触れると捻髪音を認めた。CTで眼窩内側壁骨折を認めた。受傷翌日に結膜裂傷を縫合し,受傷3日目には合併症なく気腫はほぼ消失した。 結論:スプレーガンによる眼窩内気腫の報告では予後はおおむね良好と報告されており,本症例も同様であった。受傷直後は眼瞼が開きにくく,明確に空気迷入口である結膜裂傷を確認できた症例は少ない。圧縮空気使用者と医療従事者はスプレーガンによる眼合併症が起こりうることを認識する必要がある。