- 著者
-
上野 祐可子
佐伯 和子
良村 貞子
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.3, pp.143-149, 2017 (Released:2017-03-30)
- 参考文献数
- 16
- 被引用文献数
-
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目的 幼児が咀嚼力を獲得するためには,児の口腔形態の変化や機能の発達に見合った硬さの食物を,適切な時期に摂取することが重要である。しかし,1 歳半児の養育者は,児に硬い物を与える必要があるという意識は高いが,児の発達段階より硬すぎるものを目安とする傾向にあった。そこで,1 歳半児の養育者が児の口腔発達に合った食物を与えているかを検討するため,日頃児に与えている食物の硬さの実態を把握し,歯の萌出状況との関連を明らかにすることを目的とした。方法 1 歳半健診を受診した 1 歳半児の養育者を対象に,児の口腔発達の指標として歯の萌出状況を,養育者が児に与える食物の硬さの指標として15品目の食物摂取状況を質問紙により調査した。調査票は無記名で,同意を得られた者のみに研究者もしくは保健師が直接配布し,郵送法により回収した。分析には χ2 検定,Fisher の直接確率検定を用いた。調査は,所属大学の倫理委員会の承認を得て実施した。結果 調査票配布501部,回収210部(回収率40.9%)中,有効回答は202部(有効回答率40.3%)であった。歯の萌出に関しては,切歯が 8 本未萌出である児が17人(8.4%),臼歯が 1 本も萌出していない児は30人(14.9%),上下同じ位置に萌出している臼歯の噛み合わせが2組未満の児が56人(27.7%)であった。歯の萌出と食物の硬さの関連は,「ステーキ・ソテー 1 切れ」を臼歯の噛み合わせが 2 組未満の児の方が,2 組以上ある児より有意に食べていた(P=0.001)。結論 1 割程度の児は,歯の萌出が一般的な発達の目安よりも遅かった。また,臼歯の萌出に適した硬さよりも硬い食事が提供され,十分な咀嚼ができないまま嚥下をしていることが示唆された。特に生野菜や肉類を児に与える時は,調理法にも注意を払うよう促し,乳臼歯の萌出状況に合わせた硬さの食物を提供する必要があると考える。