著者
上間 清司
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.237-244, 2018 (Released:2018-09-15)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

音韻処理の障害がある音韻失読1例の漢字非同音非語の音読障害の障害構造を検討した.漢字の文字頻度に加えて,文字から音韻への対応がどの程度一貫しているかを示す読みの一貫性に基づき,漢字非同音非語の音読成績を比較した.本例は,低頻度漢字で構成された非同音非語の音読において,読みの一貫性が低い非同音非語の音読成績が最も低かった.また,高頻度漢字で構成された非同音非語の音読では,非同音非語と形態的に類似する語彙化錯読が多く出現した.これらの結果から,本例の漢字非同音非語の音読障害の障害構造には,文字(列)から音韻(列)への変換障害が存在すると考えられた.さらに,本例では漢字の読みの一貫性や文字頻度が漢字非同音非語の音読成績に影響していることが示唆された.以上から,日本語話者の音韻失読例では,仮名のみならず文字属性を統制した漢字非同音非語の音読を用いた評価も必要であると考えられた.
著者
橋本 幸成 三盃 亜美 上間 清司 宇野 彰
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.356-364, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
24

左被殻出血によって軽度の表層失読を呈したと考えられた失名辞失語例を報告する。本例の障害機序を検討するため, 漢字刺激を用いた実在語と非語の音読課題, 同音擬似語を含む語彙性判断課題, 読解課題, 呼称課題を実施した。その結果, 漢字の非同音非語の音読成績は正常範囲内であり, 漢字から音韻へ変換する機能は保存されていると思われた。一方, 実在語の音読課題では低頻度かつ非典型読みの実在語の音読において基準値以下の成績を示した。誤反応はすべて LARC (legitimate alternative reading of components) エラーであり, 表層失読の特徴を認めた。また, 同音擬似語を用いた語彙性判断課題の成績が低いことから, 文字単語の同定過程に障害があると考えられた。二重経路モデルを用いた分析では, 意味システムの障害では本例の障害機序を説明できず, 文字列レキシコンや音韻列レキシコンの障害によって軽度の表層失読を呈したのではないかと考えられた。