著者
下山 淳一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究課題は、従来に無い高い酸素分圧下での合成や後熱処理による新規酸化物高温超伝導体の開発を目的としたものである。特性としては臨界温度の最高記録を目指すもので、平成10年度、11年度の2年間にわたる課題であった。主要備品である高圧酸素雰囲気発生装置を平成11年度に購入し、装置の立ち上げと性能検査を兼ねた基礎的な研究によって、所期の目標とした合成環境(酸素分圧500気圧以上)が達成可能であることを確認した。様々な銅系複合酸化物超伝導体のなかで従来最高の臨界温度を持つ水銀系超伝導体にまず着目し、広い範囲での化学組成比制御、元素置換や酸素量制御を試みてきた。結果的に、この系では高圧酸素雰囲気発生装置を用いても臨界温度を更新することはできず、タイ記録にとどまった。平行して、新規酸化物高温超伝導体の探索研究を様々な元素の組合わせで実施したが、このなかで新たに鉄を基本構成元素とする新超伝導体を平成11年末に発見した。化学組成式はFeSr_2RECu_2O_y(REは3価希土類元素、酸素量yが7.66以上のとき超伝導を示す)である。この元素の組合わせで合成できる相は従来半導体と考えられていたが、還元前処理に加えて高酸素圧下熱処理によって酸素量yを7.66以上にしたことにより初めて超伝導を発現した。この物質は銅以外に第一遷移金属元素を主構成元素として含む初めての高温超伝導体であり、新しい超伝導物質の設計・探索の切り口を開いたものである。さらに遷移金属特有の磁性と超伝導を合わせた新しい機能が期待できる。以上の成果についてはこの2月の高温超伝導国際会議で発表し内外から広く注目を集めた。