著者
東山 雅一 下田 勝久 池田 堅太郎
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.215-220, 2013-01-15

北上山地の高標高地域に位置し,利用休止後,再放牧されたスゲとシバが混在する半自然草地において,樹木の侵入と定着に対する放牧の抑制効果を明らかにするために,樹木の当年生実生の動態を2003-2010年に調査した。実生数の上位3樹種,ダケカンバ,ハウチワカエデおよびイタヤカエデを対象として,当年生実生数,生存率および樹高を放牧区と禁牧区とで比較した。放牧は,草地の立枯れと草本の草高を低くした。その結果,放牧は,ダケカンバの当年生実生数を増加させ,両カエデ種を減少させた。そして,放牧は3種の当年生実生の翌年以降の死亡率を高くし,生存個体の樹高を低くすることが明らかとなった。以上から,北上山地の高標高地域の半自然草地では,放牧は,樹木の個体数増加と生長を抑制し,植生遷移の進行を遅らせると考えられる。
著者
井出 保行 林 治雄 下田 勝久 坂上 清一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.157-162, 1999-07-31
被引用文献数
8

牛糞による種子散布がケンタッキーブルーグラスの繁殖に及ぼす影響を明らかにするため,牛に経口給与されたケンタッキーブルーグラス種子の回収率およびその発芽率を他のイネ料牧草との比較で検討した。さらに,ケンタッキーブルーグラスが優占する放牧草地(草地試験場山地支場)において,糞中種子の種類およびその粒数の季節的な変化を調査した。ケンタッキーブルーグラス,オーチャードグラス,ベレニアルライグラスの種子を体重260-273kgの黒毛和種育成牛に経口給与すると,草種に関係なく,種子は給与後24-48時間に最も多く排出され,72時間までに総排出量の80-90%が排出された。給与種子の回収率は,ケンタッキーブルーグラス>べレニアルライグラス>オーチャードグラスの順に高く,回収された種子の発芽率はケンタッキーブルーグラスが最も高かった。草地試験場山地支場内にあるケンタッキーブルーグラス便占放牧草地では,確認された19草種の内,7草種の種子が翼中から検出され,ケンタッキーブルーグラスの種子が最も多く含まれていた。ケンタッキーブルーグラスの翼中種子は7月上旬から8月中旬にかけて観察され,7月中旬に含有量が最も多かった。
著者
井出 保行 林 治雄 下田 勝久 坂上 清一
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.163-169, 1999-07-31
被引用文献数
4

ケンタッキーブルーグラスが優占する放牧草地(草地試験場山地支場)において,ケンタッキーブルーグラスの開花,結実および糞中種子の季節的な動態を調査した。また,菅平牧場では,ケンタッキーブルーグラスの糞中種子による既存群落(ササ型草地)内への侵入実態を調査した。草地試験場山地支場内の調査放牧草地では,ケンタッキーブルーグラスの開花は6月の中旬に始まり,6月下旬にはその大半が結実した。糞中種子は,7月上旬から8月中旬にかけて検出され,7月中句にはその数および発芽率がピークに達した。これらの結果より,牛糞による種子散布が可能な期間は,開花から4週目以降の約1ヶ月間と推察された。菅平牧場における調査牧区では糞塊中にシバ種子が最も多く含まれていたが,糞中種子によってササ型草地内に侵入した植物の中ではケンタッキ-ブルーグラスの平均被度および出現頻度が最も高かった。また,シバを除く侵入植物の被度と糞塊の被度との間には有意な正の相関関係が認められた。これらの結果より,糞中種子による植物の侵入および定着には,糞の分布や糞中種子数だけではなく,侵入後に起こる既存植生や他の侵入草種との競合過程が問題になると考えられた。