著者
中 周子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要 (ISSN:21860459)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.3-12, 2013-01-31

田辺聖子が樟蔭女子専門学校時代に書いた「十七のころ」の自筆原稿が発見され全文が公開された。従来、自伝小説『しんこ細工の猿や雉』の中に紹介されて題名だけは知られていたが、所在も全文も不明であった作品である。本論文は「十七のころ」の本文を分析し、後の田辺文学に通じる手法や主題が見いだせることを指摘した。すなわち、田辺聖子の得意とするユーモアに満ちた軽妙洒脱な文体、大阪弁を駆使した巧みな会話による人物形象、田辺聖子が一貫して書き続けた戦後の女性の生き方という主題である。さらに、十七歳で終戦を迎えた体験から、十七歳が田辺聖子にとって特別な意味を持つこと、自伝小説『欲しがりません勝つまでは』の中に描かれた、自らの意思によって真の人生を歩み始める十七歳の少女の原型が、「十七のころ」の主人公であることを指摘した。「十七のころ」は田辺文学の原点と位置づけられる作品であることを論じた。