著者
中井 信介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.38-50, 2013-01-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
43

本稿では東南アジア大陸部の山村で広く行われている豚の小規模飼育について,タイ北部ナーン県におけるモンの山村の事例に基づいて,その実態を明らかにした.特に,1)豚の形質,2)豚への給餌,3)豚の利用形態,の3点を明らかにすることから,山村における現在の豚の小規模飼育の継続要因を考察した.その結果,タイ北部の山村において豚が継続して飼育される要因として,年に一度行われる祖先祭祀での供犠利用に基づく宗教的要請と,正月祝いなどの慶事の宴会利用に基づく他家との関係を確認するための社会的要請が定期的にあることが示された.さらに,小規模な飼育が成立している要因として,豚の餌についての技術的・労働力的要請が示された.すなわち,豚の餌はバナナの葉と茎など山村周辺の自然に由来するものであり,これらは潤沢に存在するが長期貯蔵が不可能であり,毎日自力で採取する必要があるために,各戸の飼育規模が規定されていることが明らかとなった.