著者
牛垣 雄矢
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.383-396, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
26

本研究では,同業種型商業集積地の形成と変容について,東京都秋葉原地区を対象に考察した.秋葉原地区は,第二次世界大戦後,周辺地域に比べ相対的に地価が安いことで電気関係の店舗が集積した.その後,取扱商品の中心がパソコンからアニメ関係商品へと変化する際は,老舗電気店の果たす役割が大きかった.両業種ともさらに集積が進む段階になると,多くの新規店が出店し,駅前や表通りに進出する商店も現れた.主にパソコン関係店の場合は初期に開業した商店が,アニメ関係店の場合は近年に開業した商店が駅前へ立地した.アニメ関係の新規店は駅前や表通りへの進出が早く,地域にもたらした変化も大きい.また,アクセスが不便な雑居ビルの上層階にもアニメ関係店やメイド喫茶などが入居し,地価が安い裏通りの雑居ビルにも多くの店舗が入居している.これらにより,秋葉原地区は小規模な店舗が集積する商業集積地としての性格を維持している.
著者
遠藤 匡俊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.236-258, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
55

幕府は二度にわたり蝦夷地を直轄地として,アイヌの人々の文化を和人風に変えようとした.この同化政策によるアイヌ文化の変容過程については,あまり知られていない.本研究では1799~1801(寛政11~享和元)年のエトロフ島におけるアイヌの和名化と風俗改変の空間的・社会的拡散過程を復元した.1799年にシャナ集落で始まった文化変容の中で,和名化は1800年に,風俗改変は1801年にほぼエトロフ島全体に広がった.1801年に会所や番小屋が設置された集落とその周辺地域では和名化率と風俗改変率はより高く,ロシアとの境界に接するエトロフ島北部では低かった.1800年に和名化したのは主に10歳以下の子供であり,1801年に和名化・風俗改変したのは主に16歳以上の青壮年であった.和名化と風俗改変が生じるかどうかにおいては有力者の動向が下男・下女に影響力をもっていた.
著者
森川 洋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.167-187, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
20
被引用文献数
2 or 0

本稿では,DIDの分布とその人口増減(1980~2005年)および中心地の圏域(通勤圏)とその変化(1985~2000年)の分析に基づいて,都市成長の規模的差異や中核地域とその他の地域との間の地域的差異の存在を明らかにした.今日国土の過半は過疎地域に指定されており,過疎地域の人口減少は中心地の衰退と深く関係するので,都市システムの整備が過疎対策の重要部分を占めるものと考えられる.定住自立圏構想研究会は人口5~10万人の中心都市の振興を提案しているが,これらの都市(中心地)の多くは過疎地域に圏域を伸ばしていない.過疎地域に1万人以上の圏域を持つより小規模な中心地を振興する方が,より効果を発揮することができるであろう.
著者
中澤 高志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.80-103, 2010-01-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
119
被引用文献数
1 or 0

「労働の地理学」は,従来の経済地理学が企業や資本の視座に立脚していたことへの反省から,労働者の行為主体性を正当に評価するべきことを主張し,企業や資本の視座から労働者の視座へと,経済地理学のポジショナリティを転換することを目指している.資本によるフレキシブルな労働力の活用は,労働者にとってはリスクとみなされる.エンプロイアビリティは個人に帰すことのできない地理的多様性を持った状況依存的な概念として再認識され,失業や不安定雇用の原因を労働者のスキル不足に求め,労働市場への参入を動機づけようとするワークフェアの概念は,その妥当性を問われることになる.「労働の地理学」において,労働市場は本質的に地理的多様性を持ち,社会的に調整されたアリーナであると認識される.「労働の地理学」は空間スケールを所与のものとみなさず,労働者を含めた諸主体の相互作用によって空間スケールが生み出され,それがより上位/下位の空間スケールと接合している態様を分析するのである.
著者
髙根 雄也 日下 博幸 髙木 美彩 岡田 牧 阿部 紫織 永井 徹 冨士 友紀乃 飯塚 悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.14-37, 2013-01-01 (Released:2017-12-02)
参考文献数
52
被引用文献数
1 or 0

これまで調査されてこなかった岐阜県多治見市と愛知県春日井市の暑熱環境の実態を明らかにするため,2010年8月の晴天日に,両市の15地点に気温計を,2地点にアスマン通風乾湿計と黒球温度計をそれぞれ設置し,両市の気温と湿球黒球温度WBGTの実態を調査した.次に,領域気象モデルWRFを用いて気温とWBGTの予測実験を行い,これらの予測に対するWRFモデルの有用性を確認した.最後に,WRFモデルの物理モデルと水平解像度の選択に伴うWBGT予測結果の不確実性の大きさを相互比較するために,物理モデルと水平解像度の感度実験を行った.その結果,選択した物理モデルによって予測値が日中平均で最大8.4°C異なること,特に地表面モデルSLABは観測値の過大評価(6.8°C)をもたらすことが確認された.一方,水平解像度が3 km以下の場合,WBGTの予測値の解像度依存性は日中平均で最大0.5°Cと非常に小さいことが確認された.
著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.138-156, 2012-03-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
34
被引用文献数
1 or 0

本稿の目的は,首都圏近郊の東海道線沿線における大規模工場用地の利用変化と存続工場における研究開発機能の新展開を分析することである.首都圏に古くから立地してきた大規模工場は,特に都心に近接している場合,その多くがすでに閉鎖し,オフィスビルやマンション,商業施設に変化していた.しかしながら,マザー工場として生産機能を維持することで,あるいはまた研究開発機能を強化することで,存続している拠点も存在している.特に2000年代以降の研究開発機能の変化としては,1)製造機能と研究開発機能との近接性を重視した研究開発機能の強化,2)顧客志向の研究開発拠点の増設,3)シナジー効果の創出を目的とした集約型研究開発拠点の新設といった点があげられる.
著者
上杉 昌也 浅見 泰司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.345-357, 2011-07-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
25
被引用文献数
1 or 0

本稿では, 所得格差が広がったとされる1990年代後半以降, 小地域レベルにおいて世帯収入階層による居住分化が進んだかどうかを検証し, その要因や背景について考察した.初めに町丁目単位での所得分布を推定する方法を提示し, 1998年と2003年の東京都大田区を事例にその空間分布を比較した.その結果, 5年間における世帯収入水準は全体的に低下する中で空間的にも居住分化の進展の兆しが見られた.これは持家世帯や単身世帯の居住分化が高まったことに付随するものと考えられるが, 貧困層の空間的隔離が問題視される北米の諸都市と比べればいまだ低い水準である.大田区で居住分化が進んだ要因を居住地移動から分析した結果, 近隣移動が居住分化の進展に寄与している可能性が大きいといえる.他方で大田区では脱工業化を背景として, 地区によっては区外からの流入も含めた短期間で大量の人口流入が居住分化を抑制していることも予想される.
著者
森嶋 俊行
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.305-323, 2011-07-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
39

本稿の目的は,近代化産業遺産保存活用の動きが広まる過程を分析することにより,鉱工業都市の脱工業化段階での都市構造や産業構造の再編に対し,中核企業と地域各主体の関係がどう投影されるかを論じることである.具体的な事例として大牟田・荒尾地域における石炭産業関連近代化産業遺産の保存活用運動を挙げ,これを検討した.当該地域における近代化産業遺産保存活用の実践は,産業特性や立地の条件によってもたらされる地域産業構造変化に加え,中核企業の歴史的な起源と地域政策に左右され,中核企業による遊休不動産処分施策に対応するかたちで進行した.保存活用運動に関連する主体は,当初は企業や自治体であったが,後にNPOや地域住民も参加するようになった.これらの主体は,「国家」「地域」「経済」「文化」といった観点から価値を主張するようになった.近代化産業遺産に対するまなざしの変化と多元化は,地域経済の変化とあいまって,保存活用の実践形態の多様化に作用した.
著者
髙橋 品子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.5, pp.442-464, 2009-09-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
62

近代八重山の廃村は,そのほとんどがマラリアによる人口減少が原因とされてきた.しかし一方で,マラリア禍の激しかった西表島において500年以上も存続してきた祖納のような集落も存在する.本稿では,近代廃村期(1900年から1938年)を生き延びたマラリア有病地集落共通の特徴を分析し,その集落存続要因を探った.その結果,不明な点の多い伊原間集落を除き,八重山のマラリア有病地存続集落はすべて蔡温施政期以前からの古集落であった.古集落は,良港や湧き水の存在など立地条件がもともと良く,生活基盤がすでに整備されていたため,近世の地元役人による不正な課税に苦しみながらも人口を維持し得たと考えられる.また,近代廃村期における石垣島と西表島の廃村状況およびマラリア罹患率の違いから,マラリア予防対策は西表島の方がより効果があがったことが明らかになった.資料の多く残る西表島の古集落祖納を事例として検討したところ,住民による自発的集落移動や予防事業への全面的協力があった.祖納のような古集落には,人口減少を回避する強い集落内結束があり,こうした人間関係を基にした社会構造が,マラリア禍を緩和し,集落存続のための生存戦略を生む背景となっていたのである.
著者
寺床 幸雄
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.588-603, 2009-11-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
17
被引用文献数
1 or 0

本研究では,中山間地域の限界集落における耕作放棄地の拡大とその要因について,各農家の農業経営における意思決定に注目し,背景となる社会変化を踏まえて明らかにした.さらに,中山間地域等直接支払制度の有効性についても検討した.農業経営と土地利用の変化に注目すると,対象地域の農業は二つの時期に区分できた.第1期の1980年代までは,生産調整や機械化にともない,耕地跡への植林が進行した.第2期の1990年代以降においては,主たる農業従事者の引退が発生し,それにともなって耕作放棄地が急速に拡大した.耕地の貸借が行われるようになったものの,耕作放棄を十分に抑制するまでには至っていない.中山間地域等直接支払制度は,農業の持続にある程度の役割を果たしていたが,指定基準の問題など,改善すべき課題も明らかとなった.
著者
水谷 知生
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.300-322, 2009-07-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
90

現在,九州と台湾の間の島々を示す地域名称として「南西諸島」,「琉球諸島」,「薩南諸島」などが重層的に用いられている.本稿ではこの地域の地域名称の使用,浸透の経過を政治的な背景とともに明らかにした.「南西諸島」をはじめこの地域の島々の地域名称の多くは,明治期に海軍省水路部により付与されたが,「薩南諸島」は民間で用いられ,広く使われるようになった.地域名称は教科書類によって一般に浸透し,名称の整理には教科書検定制度が役割を果たした.奄美諸島は,江戸期には,薩摩藩の直轄領でありながら対外的には琉球領として扱われたが,明治初期の日清間での琉球領有を巡る論争の際,日本政府は「琉球諸島」を沖縄諸島以南と整理し,奄美諸島を含めないこととした.一方,第二次世界大戦後,米国は軍事上の必要性から奄美諸島以南を日本本土と切り離す意図を持ってこの地域をRyukyu Islandsとした.「琉球諸島」の名称の使用には特に政治的な意図が多く働いた.
著者
中川 恵理子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.397-409, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
28

本稿では,独占的大規模産地による全国的な広域流通システムが生鮮野菜価格の空間分布をどのように規定しているのかを,長野県産の夏ハクサイを事例に,輸送費と市場規模に焦点を当てて検討する.まず,統計データの分析によって,(1)長野県からの輸送費と卸売価格の間には正の相関関係がみられること,(2)同一輸送費圏内では大規模市場の価格は平均値に近く,中小規模市場の価格は取扱量と負の相関関係にあること,の2点が示された.次に,聞取り調査より,JA全農長野の一元的出荷体制が輸送費と卸売価格との相関関係を生んでいることが確認された.そして,同一輸送費圏内での価格の分布を規定している要因は大規模市場の建値形成機能であり,中小規模市場の価格が取扱量と負の相関関係にある要因は,JA全農長野との直接取引の有無および主要な取扱品の規格の差であることが明らかになった.
著者
佐藤 善輝 藤原 治 小野 映介 海津 正倫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.258-273, 2011-05-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
29
被引用文献数
6 or 0

浜名湖沿岸の六間川低地および都田川低地で掘削調査と既存ボーリングデータの収集を行い,沖積層の層相・貝化石・珪藻化石分析・電気伝導度測定の結果や14C年代測定値に基づいて,完新世中期から後期にかけての堆積環境の変遷を明らかにした.その結果,両低地に共通した環境変化が認められた.すなわち,6,000~7,000 calBP以降は低地の発達に伴って海水の影響が減少する傾向が見られるが,3,500~3,800 calBP頃に汽水~海水環境の再形成や内湾での水位上昇が認められた.このことは,一時的に浜名湖内へ海水が流入しやすくなったことを示す.その後,3,400~3,500 calBP頃に淡水池沼へと急速に変化した.この時期には浜名湖の湖心部でも急速な淡水化が知られており,浜名湖全体で淡水化が進んだことが示唆される.この環境変化は,浜名湖の湖口部を塞ぐように砂州が形成されたために引き起こされた可能性が高い.
著者
福本 拓
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.288-313, 2010-05-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
45

本稿の目的は,東京および大阪における在日外国人のセグリゲーションを国勢調査小地域統計を用いて明らかにし,植民地期の移民とその子孫で構成される「オールドカマー」と,1980年代以降に急増した「ニューカマー」という,渡来時期の違いに着目して分析することにある.本稿ではグローバル指標とローカル指標とを併用することでセグリゲーションの変化を把握する.「ニューカマー」の割合が大きい東京では,セグリゲーションの変化に一貫した傾向は見出せない.一方「オールドカマー」の多い大阪では,「オールドカマー」の社会減を反映しセグリゲーションは低下傾向にあるといえる.東京と大阪を比較すると,特定の町丁字における外国人の増加が新規入国の「ニューカマー」の流入に起因するという点で共通している.外国人の増加は,「ニューカマー」でも入居が容易な民間賃貸マンションの存在とも関連していると推測できる.総じて,両都市におけるセグリゲーションの変動には,「オールドカマー」の存在という歴史的要因および新規入国の「ニューカマー」の流入が大きく寄与している.特に新規入国の「ニューカマー」の動向については,外国人の長期滞在を想定していない日本の出入国管理政策の影響が一定程度あるといえる.
著者
桐村 喬
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.151-175, 2010-03-01 (Released:2012-01-31)
参考文献数
37

本稿は,都市内部の居住者特性に関する入力変数の情報を最大限に活用した類型化および可視化手法としての自己組織化マップ(Self-Organizing Map: SOM)の有効性や網羅性を示すことを目的としている.SOMでは「マップ」と呼ばれる2次元空間を利用して,居住者特性の時空間的な変化を示すこともできる.そこで本稿では,SOMを用いて,阪神・淡路大震災前後の神戸市の既成市街地における時空間的な居住者特性の変化を明らかにする.SOMおよび「マップ」による分析の結果,被害が大きく,利便性の高い地域における若年層の増加や,製造業中心の地域における失業率の悪化や高齢化といった,従来の個別の事例研究において得られた成果と同様の結果が確認された.また,「マップ」によって,震災直後の居住者特性が従前よりも多様化したことが示された.こうしたことから,SOMは,都市内部における居住者特性の分析に対して非常に有効であり,網羅的に検討できる手法であることが示された.
著者
矢部 直人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.301-323, 2012-07-01 (Released:2017-11-03)
参考文献数
27

本研究は,裏原宿における小売店集積が形成された要因を検討した上で,集積内部の小売店におけるアパレル生産体制の特徴を明らかにすることを目的とする.裏原宿に小売店の集積が形成された要因は,店舗の供給側から見ると,1980年代後半のバブル経済期に,不動産開発が住宅地の内部まで進んだことが大きい.一方,店舗に出店するテナント側では,友人の紹介など人脈に頼った出店が小売店集積のきっかけとなっていた.小売店のアパレル生産体制の特徴は二つあった.一つは,消費者の情報を商品企画に生かす姿勢が強まったことであった.もう一つは,小売店が企画機能のウェートを高め,生産を海外に依存するようになったことである.小売店が生産機能を海外に外注するにあたっては,原宿の近隣に立地する商社が果たす,海外企業との仲介機能の役割が大きいことが明らかになった.
著者
瀬戸 寿一 矢野 桂司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.259-274, 2012-05-01 (Released:2017-10-07)
参考文献数
47

本稿は京都の景観計画への活用を目的とした調査において,市民調査員に良好と判断された通り景観の特徴を考察するものである.その際に(1)京町家GISデータを用いて「良好な通り景観」の選定に関わる景観要素を定量分析した.また(2)市民調査員や居住者が「良好な通り景観」をどのような意識に基づき選定したかについて,発話などの資料を用いて定性的に検討した.その結果,(1)定量分析では,「良好な通り景観」が既存の景観保全地区以外にも,日常生活を印象づける長屋建ての多い通りなどで選定された.(2)定性分析では,当該地域の居住者にとって,伝統的な外観意匠を残す京町家を中心とする,過去と現在とであまり変化の見られない景観に高い関心を持つことが明らかとなった.以上の結果から,市民参加型調査で選定された「良好な通り景観」の情報を景観計画に活用するには,定量分析のみならず,市民の景観に対する意識に関する定性分析も必要であることが示唆された.
著者
今里 悟之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.106-126, 2012-03-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
21

本研究は,耕地一枚ごとの通称地名である「筆名」について,命名原理と空間単位に関する従来の知見を再検証した.棚田と散村が卓越する,長崎県平戸市宝亀町および木場町の8世帯・計139枚の耕地を事例に,筆名とその由来,筆名が指示する空間単位,土地利用,面積と斜度,周囲の景観要素などについて調査した.その結果,従来の研究で提示された四つの命名原理の出現頻度が平地農村とは異なる点,同一の集落内でも命名原理に大きな世帯差が見られる点,時に複数の命名原理による筆名が存在する点,小字名の転用以外の方法でも情報量が節減されている点,などが明らかになった.さらに,認知言語学におけるアフォーダンス,プロトタイプ,ランドマークとトラジェクター,ベースとプロファイルの諸概念が,命名原理の一部を理論的に説明し得ることが見出された.空間単位に関しては,従来の仮説の部分的な修正が必要である.