著者
中野 禎 村西 壽祥 新枦 剛也 片岡 紳一郎 阿曽 絵巳 森 耕平 中土 保 伊藤 陽一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100776-48100776, 2013

【目的】丸山らにより作成された患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver.1.3(Sh36)は、計量心理学的検証を経た肩関節疾患に対する包括的患者立脚評価とされており、36項目の質問により構成されている。Sh36による評価は患者の主観に基づく評価シートであり、EBM確立に大いに役立つ評価法として期待されているがSh36に関する報告は少ない。本研究の目的は、Sh36における機能領域の主観的評価と肩関節に障害をもつ術前患者の機能実測値評価と関連性について調査し、評価シートの妥当性について検証することである。【方法】対象は肩関節疾患を有する術前患者117名(男性62名、女性55名、平均年齢63.2歳)117肩で、その内訳は腱板断裂55名55肩(腱板断裂群)、インピンジメント症候群41名41肩(インピンジ群)および拘縮肩21名21肩(拘縮群)であった。術前機能評価として、visual analogue scale(VAS)を用いた痛みの評価、肩関節可動域測定、筋力評価ならびにSh36評価シートによる自己回答を実施した。VASは運動時痛を評価し、可動域測定は自動屈曲および自動外転とした。筋力評価はベッド上背臥位、肩関節外転0°、肘関節屈曲90°、前腕中間位を測定肢位とし、ハンドヘルドダイナモメーターを用い、外旋および外転筋力をそれぞれ3秒間の等尺性運動を3回行わせ、その平均値を測定値とし、患側/健側比を算出した。次にSh36で機能領域にあたる3項目「可動域」、「筋力」および「疼痛」の重症度得点有効回答の平均値を算出し、Spearmanの順位相関係数にてそれぞれの客観的実測値可動域(自動屈曲、自動外転)、筋力(外旋および外転筋力)及びVASの関連性を検証した。また疾患別で同様の検討を行った。【説明と同意】対象者には本研究の目的を文書と口頭にて説明し、同意書に自署を得た後に術前機能評価、評価シートへの回答を実施した。【結果】全疾患117肩を対象にした場合、可動域ではSh36と実測値の相関係数は自動屈曲、自動外転でそれぞれ0.59、0.61、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.47、0.45、疼痛は-0.42であり、有意な相関関係を認めた(p<0.01)。また疾患ごとの検討において、腱板断裂群は可動域が自動屈曲、自動外転ではそれぞれ0.63、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.55、0.44、疼痛は-0.45と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。インピンジ群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.53、0.60、筋力は外旋筋力、外転筋力で0.49、0.54、疼痛は-0.53と有意な相関関係を認めた(p<0.01)。拘縮群は可動域が自動屈曲、自動外転で0.49、0.57有意な相関関係が認められ、筋力や疼痛に有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究により、Sh36と客観的実測値には中等度の関連性がみられたが、疾患別では腱板断裂群が可動域において、インピンジ群では可動域および疼痛において、相関が高かった。これらは疾患の特徴を反映するものであり、腱板断裂群では自動屈曲、外転制限が日常生活上の困難性を示し、インピンジ群ではインピンジメントによる疼痛誘発を示す評価としてSh36の有用性を認めた。しかし、拘縮群は筋力と疼痛において客観的実測値とSh36は相関が弱かった。その理由として、Sh36の筋力領域は「患側の手で頭より上の棚に皿を置く」、「患側の手でバスや電車のつり革につかまる」など他4項目、疼痛領域は「患側の手でズボンの後ろポケットに手をのばす」、「テーブル上の調味料を患側の手を伸ばしてとる」など他4項目が質問項目として設定されている。拘縮群は自他動とも可動域制限をきたしているため、可動域制限が原因で質問項目の動作が行えないことが考えられ、必ずしも筋力や疼痛が影響しているとはいえない。また、拘縮肩患者は痛みが生じない代償動作を獲得している可能性も考えられ、領域別平均値と客観的実測値に乖離が認められたと考える。このことから、Sh36は肩関節疾患の一般的評価としてその有用性は認められるものの、疾患によっては客観的実測値を反映しない可能性について留意すべきである。Sh36は日常生活の実態を捉えたものであるため、日常生活における代償機能獲得による機能改善指標としての評価ツールとしても有効であると考える。【理学療法学研究としての意義】主観的評価と客観的評価の関連性を検証することにより、治療者側のみの判断を回避でき、患者満足度を考慮した評価、治療技術発展のために有意義と考える。
著者
今久保 伸二 中土 保 大橋 弘嗣
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.249-249, 2003

【はじめに】股関節外転筋力は歩容に大きく影響する。この度、人工股関節全置換術(THA)の前後において筋力が同等であるが、術後早期に歩容改善を認めた症例を経験した。そこで力学的な側面から検討を加え、歩容の安定化に影響した要因を調査した。【対象】57歳女性、身長148cm、体重50kgで左右とも進行期変形性股関節症であった。【経過】平成2年から左股関節の疼痛を自覚し、他院受診し変股症の診断を受け保存療法を継続していた。疼痛増悪にて平成13年2月当院整形外科を受診、当部において荷重下での運動療法を開始する。経過良好であったが、平成14年7月ごろより再度疼痛増悪し、平成14年10月に左THA施行にいたる。【方法】三次元動作解析装置(バイコン512)を使用し、術前と術後14日目の静止立位・片脚立位および歩行時における股関節内転角、モーメントおよび反対側骨盤挙上角度を求め、術前後の値を比較した。歩行速度は自由歩行とした。なおキンコム500Hを用い術前後に股外転筋力測定を行い、側臥位にて股関節中間位より最大等尺性収縮を5秒間記録し、その中の3秒間の値を平均し実測値とした。【結果】(1)実測値は術前67Nm、術後60Nm。(2)片脚立位時の最大内転角は、基準となる立位と比較して術前3.5度外転位、術後2.7度内転位で、その際反対側骨盤挙上は3.6度と1.1度であった。(3)片脚立位時の最大内転モーメントは術前15.3Nm、術後13.9Nmで、それぞれ最大内転後0.2秒後と0.17秒後であった。(4)歩行立脚期における股関節最大内転角は、術前13.5度、術後8.4度で、それぞれ踵接地から0.16秒後と0.19秒後であった。また同時期の反対側骨盤の下制は6.2度と2.8度であった。(5)歩行立脚期の股関節最大内転モーメントは術前23.8Nm、術後33.1Nmで、それぞれ最大内転後0.08秒後と0.07秒後であった。【考察】術前後ともに実測の股関節外転トルク値は、歩行および片脚立位時内転モーメントを大きく上回り、筋力的には十分と考えられる。その中で術前は股関節外転位・骨盤挙上にて片脚立位を安定化させる代償性の姿勢を取り、歩行立脚期には過度の骨盤下制を認めた。しかし術後は14日目という早期でありながら、股関節内転位で片脚立位が可能となり、より正常に近い姿勢が保てるようになった。その際モーメントの立ち上がり時間に遅延を認めたが、これは予測しにくい片足立ちという動作の特性が影響したと考える。また一般に変股症患者の歩行では、筋収縮タイミングの遅延が認められる。本症例においては術前において歩行中アライメントの崩れを認めたものの、モーメントの立ち上がりに関する遅延は認めなかった。荷重時のモーメントの立ち上がりが術前で失われなかったことが、早期の歩容改善をもたらした要因ではないかと考える。