著者
佐治 文隆 中室 嘉郎 小川 誠 若尾 豊一 根来 孝夫 都竹 理
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.p227-235, 1976-03

胎児ならびに胎盤には父親由来の移植抗原(paternal histocompatibility antigen)が存在することからこれらは母体にとつては同種移植片ということが出来る.それにもかかわらず胎児は拒絶されることなく妊娠が維持されるように思われる.この問題について我々はマウスを用いて実験的に解明することを試みた.すなわちC3H/Heマウスに発生したmyelomaはC3H/Heの移植抗原を多量に含んでいることに着目し,このmyelomaをC57BL/6Jメスマウスに移植することによつて強力かつ効果的に免疫した後C3H/Heオスマウスと交尾させた.そして妊娠,分娩,流早産率を調べると共に妊娠の進行状態を観察し,流早産発症の時期を検討した.更に妊娠によつて母体の免疫能がどの程度変化するか測定を行ない,以下の結果を得た. (1) paternal histocompatibility antigenで前以つて強力に免疫されたメスマウスでは胎仔の一部が流早産を起したが残りの胎仔はまつたく正常の妊娠経過をとつた. (2) 流早産は着床以後の段階で起つた. (3) paternal histocompatibility antigenに対する母体の免疫能は妊娠中多少の低下を示した. (4) 妊娠中の母体免疫能の低下の原因について母体血清が大きく関与しており,母体血清の影響を中心とする母体免疫能の低下が妊娠維持に重要であることが判明した. (5) しかしpaternal antigenに対して強力に免疫された同一母体において流早産を起した胎仔もあれば,まつたく正常の妊娠経過をたどつた胎仔もあることから母体免疫能の低下のみならず個々の胎盤のimmunologic barrierとしての働きが妊娠維持に大きく貢献しているものと思われる.