著者
山川 博美 伊藤 哲 中尾 登志雄
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.219-228, 2013
参考文献数
39
被引用文献数
3

伐採後の森林再生に及ぼす散布種子(伐採後に新たに散布される種子)の効果を明らかにするため、照葉樹二次林に隣接する伐採地において、伐採直後から6年間の種子の散布範囲および種子数をシードトラップによって調査した。伐採地へ散布された種子数は、隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林と比較して明らかに少なかった。種子散布様式で比較すると、風散布型種子は伐採地に限らず隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林でも少なかった。伐採地において重力散布型種子は林縁でのみで散布され、林縁から10m以上離れた地点ではほとんど散布されていなかった。被食散布型の種子は伐採地での散布が確認されたが、照葉樹林の林冠を構成する高木性木本種は少なく、多くは低木性木本種で、その6割以上をヒサカキおよびイヌビワの2種で占めていた。しかしながら、伐採地において、被食散布型の種子は伐採からの時間経過に伴って、散布される種子数および種数が増加する傾向がみられた。さらに、種子の散布範囲も伐採から3年目程度までは林縁から15m付近までの木本種が多かったが、伐採5年目以降は林縁から35m地点まで種子が散布されるようになり、種子の散布範囲が広がっていた。以上の結果から、暖温帯における散布種子による更新は、風散布型木本種がほとんどなく、重力散布型および被食散布型の木本種が主となる。そのなかで、伐採後の森林の再生を短期的な視点で捉えると、重力散布種子の散布は林縁周辺に限定され、被食散布型種子も伐採直後に伐採地内に散布される種子数は少ないことから、散布種子による更新は非常に難しいと考えられる。しかしながら、長期的な視点で捉えると、伐採からの時間経過とともに伐採地への散布種子数および種数の増加していることから、被食散布型種子による更新が可能となるかもしれない。ただし、本研究は母樹源となる照葉樹林が隣接する伐採地であることを考慮すると、特に辺り一面に人工林が卓越するような森林景観では、過度な期待は避け方が無難であろう。また、伐採後の更新において萌芽などの前生樹のみの更新では更新する樹木が伐採前の前生樹の分布や萌芽力に依存し種組成が単純化する恐れがあるため、伐採後に散布される種子は、長い時間スケールのなかで多様性を高めるための材料として重要であると考えられる。
著者
井藤 宏香 伊藤 哲 塚本 麻衣子 中尾 登志雄
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.46-54, 2008-02-01
被引用文献数
3 11

二次林の遷移に伴う株構造の変化が林分構造の変化に及ぼす影響を明らかにするために,林齢の異なる照葉樹二次林で調査を行った結果,二次林の発達過程には次の三つの段階が検出された。1)伐採後18年を経た段階では,萌芽由来の照葉樹林型高木種が林冠を優占し,伐採直後に優占していた先駆種は,林冠に到達した萌芽個体の被圧によって消失したと考えられた。2)伐採後23〜46年では,林冠個体の多幹率(全個体に対する多幹個体の割合)と平均幹本数,そして実生由来の下層個体の数が減少しており,林冠が閉鎖したために,劣勢な幹の自然間引や実生の定着阻害が起きたと考えられた。3)伐採後60年を経過する段階から萌芽由来の林冠個体が減少しており,株内での幹の競争により単幹化した個体で枯死が発生していることが示唆された。同時に林床の実生も増加しており,林冠個体の枯死に伴う林冠ギャップの形成と林冠構造の複雑化により林床の光環境が好転し,再び実生が侵入したと考えられた。