著者
野宮 治人 山川 博美 重永 英年 伊藤 哲 平田 令子 園田 清隆
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.101, no.4, pp.139-144, 2019-08-01 (Released:2019-10-24)
参考文献数
25
被引用文献数
4

シカ食害を潜在的に受けやすい高さの範囲と,それに与える斜面傾斜の影響を明らかにする目的で,苗高160 cmを超えるスギ大苗を植栽して1年間のシカによる枝葉採食の痕跡(食害痕)の高さを測定し,スギ植栽位置の斜面傾斜を5゜間隔で区分して比較した。斜面傾斜が急なほど食害率は低く食害痕数は少なくなる傾向がみられた。斜面傾斜が5゜以下の平坦地では高さ75~110 cmの範囲に食害痕の67.4%が集中し,食害高の中央値は96 cmであった。食害高は斜面傾斜が15゜を超えると高くなり始め,35゜を超えると食害高は平坦地に比べて40 cm以上高くなった。また,30゜を超える急傾斜地の食害痕は81~100%が樹冠の斜面上側に分布していた。以上の結果から,斜面傾斜の影響がない状態で食害痕が集中した1 m前後(75~110 cm)の高さは食害リスクが潜在的に高く,スギ樹高がこの高さより低い場合には主軸先端が最も食害を受けやすいと示唆された。スギ大苗の主軸先端への食害を回避するためには,緩傾斜地では110 cm以上の大苗,斜面傾斜が35゜を超えると少なくとも140 cm以上の大苗が必要だといえる。
著者
山川 博美 伊藤 哲 中尾 登志雄
出版者
日本生態学会暫定事務局
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.219-228, 2013
参考文献数
39
被引用文献数
3

伐採後の森林再生に及ぼす散布種子(伐採後に新たに散布される種子)の効果を明らかにするため、照葉樹二次林に隣接する伐採地において、伐採直後から6年間の種子の散布範囲および種子数をシードトラップによって調査した。伐採地へ散布された種子数は、隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林と比較して明らかに少なかった。種子散布様式で比較すると、風散布型種子は伐採地に限らず隣接する照葉樹二次林およびスギ人工林でも少なかった。伐採地において重力散布型種子は林縁でのみで散布され、林縁から10m以上離れた地点ではほとんど散布されていなかった。被食散布型の種子は伐採地での散布が確認されたが、照葉樹林の林冠を構成する高木性木本種は少なく、多くは低木性木本種で、その6割以上をヒサカキおよびイヌビワの2種で占めていた。しかしながら、伐採地において、被食散布型の種子は伐採からの時間経過に伴って、散布される種子数および種数が増加する傾向がみられた。さらに、種子の散布範囲も伐採から3年目程度までは林縁から15m付近までの木本種が多かったが、伐採5年目以降は林縁から35m地点まで種子が散布されるようになり、種子の散布範囲が広がっていた。以上の結果から、暖温帯における散布種子による更新は、風散布型木本種がほとんどなく、重力散布型および被食散布型の木本種が主となる。そのなかで、伐採後の森林の再生を短期的な視点で捉えると、重力散布種子の散布は林縁周辺に限定され、被食散布型種子も伐採直後に伐採地内に散布される種子数は少ないことから、散布種子による更新は非常に難しいと考えられる。しかしながら、長期的な視点で捉えると、伐採からの時間経過とともに伐採地への散布種子数および種数の増加していることから、被食散布型種子による更新が可能となるかもしれない。ただし、本研究は母樹源となる照葉樹林が隣接する伐採地であることを考慮すると、特に辺り一面に人工林が卓越するような森林景観では、過度な期待は避け方が無難であろう。また、伐採後の更新において萌芽などの前生樹のみの更新では更新する樹木が伐採前の前生樹の分布や萌芽力に依存し種組成が単純化する恐れがあるため、伐採後に散布される種子は、長い時間スケールのなかで多様性を高めるための材料として重要であると考えられる。