著者
中山 毅 西原 富次郎 深田 せり乃
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.105-110, 2017 (Released:2017-10-20)
参考文献数
13
被引用文献数
1

食欲不振や嘔吐の症状を伴った妊娠悪阻の患者を対象とし,六君子湯による悪阻への治療の可能性についての後方視的検討を行った。方法は,北川らの提唱するEmesis index(EI)を用い,小半夏加茯苓湯内服,メトクロプラミドを投与した群を比較対照とした。すべての群において,内服後のEI 合計値の低下を認めたが,特に六君子湯群7日後のEI 合計値が,他群より有意に低下していた。また項目別の検討では,六君子湯群における悪心,嘔吐,食欲低下のスコア値が,小半夏加茯苓湯,メトクロプラミド投与群と比較し有意に低値であった。六君子湯が妊娠悪阻に対して,小半夏加茯苓湯やメトクロプラミド投与と同等に効果があり,特に悪心嘔吐や食欲低下といった症状の強い妊娠悪阻を軽快させる可能性が示唆された。また奏功しない症例の多くは気滞スコアが高い傾向にあり,随証療法の必要性,ならびに理気剤への変方を考慮することが必要であろう。
著者
中山 毅 田中 一範
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.647-651, 2009 (Released:2010-03-03)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

妊娠中および帝王切開術直後に発生した癒着性イレウスに対して,大建中湯エキスを服用することにより,保存的に加療できた症例を経験した。症例は29歳女性。15歳の時に小腸軸捻転にて開腹歴あり。妊娠11週に癒着性イレウスを発症したため,大建中湯を投与したところ,大量の下痢便を認め症状は軽快。その後,胎児ジストレスにて36週に緊急帝王切開を施行。腹壁前面に小腸の強固な癒着を認めた。術後4日目に術後癒着性イレウスの診断にて,大建中湯を経口投与した。6日目に,軟状便および排ガスを認め,9日目には経口摂取を開始。その後は異常なく25日目に退院した。妊婦の高齢化に伴い,イレウス合併妊娠の報告が数多く認められる。妊娠中は母子ともに,重篤化しやすく外科的処置が必要となることが多いが,妊娠中や出産時に発生した癒着性イレウスに対して,大建中湯を用いることにより,保存的に改善する症例もあると考えられる。
著者
中山 毅
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.83-88, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
18
被引用文献数
2

多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は生殖年齢女性の5-8%に発症し,月経異常や不妊症などの主要な原因の一つである。PCOS の治療は受診年齢や背景,特に挙児希望の有無により異なる。挙児希望のある女性のPCOS に対する治療の第一選択はクロミフェン療法である。ただし抗エストロゲン作用に伴う,子宮内膜の菲薄化や頸管粘液の減少も伴うことや,クロミフェン療法が無効な患者もいる。そこでクロミフェン療法が無効なPCOS 患者に柴苓湯を併用し,排卵周期が回復した6症例を経験した。柴苓湯が有効であった症例の多くは,東洋医学的に瘀血や水滞スコア値が高く,また投与後の血中LH 値,LH/FSH 比が無効群よりも低下した。さらに柴苓湯有効群はテストストロン値もより低下していた。ゴナドトロピン療法や腹腔鏡手術などの第2選択が行われる前に,証に応じて試みる価値があると推察した。
著者
中山 毅
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.250-256, 2014-05-30 (Released:2014-10-01)
参考文献数
20

入浴習慣は国や文化により大きく異なるが、一方で時代による変遷もあり、近年ではシャワー浴が普及する等の変化が現れている。そこで、現代の妊婦の入浴習慣について調査すると同時に、妊娠経過に及ぼす影響につき検討した。  2011年4月1日より2012年2月29日までに当院で出産をし、1ヶ月健診をおこなった褥婦204名を対象とし、無記名アンケートを実施した。アンケートは、入浴習慣、温泉浴に関する多肢選択法および自由記入法からなる。これらの結果と、妊娠経過中に起こったイベントにつき、後方視的に関連性を検討した。  204名の妊婦の内訳は、初産婦が99名、1経産が76名、2経産以上が29名であった。産科合併症としては、切迫流産が12名、切迫早産が35名、早産が15例、妊娠高血圧症候群が7名、微弱陣痛が10名、前期破水が26名に認めた。一方で妊娠中の入浴習慣については、全例毎日入浴習慣があったが、内訳として、毎日シャワー浴を行う妊婦(シャワー浴群)が38名(19%)、週に1~3回の湯浴が45名(22%)、週4日以上の湯浴を行う妊婦(湯浴群)が121名(59%)であった。産科合併症を比較したところ、湯浴群において、妊娠高血圧症候群の頻度が高く、一方で微弱陣痛に関しては、シャワー浴群の方が多い傾向にあった。  さらに、入浴習慣が外陰部の保清に影響するか、また細菌性腟症の原因や助長因子となるかについては、科学的根拠が乏しいが、本検討より湯浴を日常とする生活習慣が、腟内細菌叢やpHに影響を及ぼす可能性が示唆された。