著者
中岡 裕章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.146-161, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本稿は,埼玉県飯能市を事例に,エコツアー実施者の参画意識の差異を,その属性や地域特性の観点から分析し,地域づくりを目的としたエコツーリズムの意義と問題点を明らかにした.東京大都市圏郊外に位置するベッドタウンとしての性格が強い市の東部に居住する実施者は,参画理由に生きがいや楽しみを挙げる者が多く,ツアーに経済的利益を求めない傾向がある.一方,人口減少と高齢化が急速に進行する市の中・西部に居住する実施者は,ツアーの経済的な利益によって若者の定着などを期待する傾向がある.このように,実施者の参画意識には地域差が認められる.特筆すべき観光資源のない里地里山地域において,生きがいや楽しみを求める実施者の意向が大きく反映されたツアーが多く行われ,地域内外の交流が促進されたことは意義が大きいと考えられるが,他方でツアーに経済的利益を期待する実施者の意向にはそぐわないものとなっていることも明らかとなった.