著者
中島 ひかる
出版者
国立大学法人 東京医科歯科大学教養部
雑誌
東京医科歯科大学教養部研究紀要 (ISSN:03863492)
巻号頁・発行日
vol.2021, no.51, pp.1-22, 2021 (Released:2021-03-19)

この論考では、フランスのマクロン政権の現在について、失敗と成功の 2 つの側面からその共通項を考察する。現在のマクロン政権に関しては批判も多く、最近では党員の離反による求心力の低下も言われているが、その一方で、コロナ禍からのヨーロッパ復興予算の成立によって、彼の当初からの主張である EU の更なる連帯と強化は現実化されつつあるように見える。これらを個別の政策や彼自身の政治手法に対する評価という観点ではなく、社会や世界に対応した政治構造の変化に対する人々の欲求という観点から考察する時、このプラス、マイナスの 2 面には共通性があるように思われる。それは、環境問題への関心の高まりである。
著者
中島 ひかる
出版者
国立大学法人 東京医科歯科大学教養部
雑誌
東京医科歯科大学教養部研究紀要 (ISSN:03863492)
巻号頁・発行日
vol.2019, no.49, pp.1-23, 2019 (Released:2019-06-28)

現代において、 フランスはどのように自らの共同体のアイデンティティを作ろうとしているのか、またそれを可視化するためにどのようにシンボルが使おうとしているのかを、歴史学者ノラの「記憶の場」の概念も援用しながら分析する。マ クロンは、EU の一体化を訴えることでヨーロッパのアイデンティティを再建し、その中でこそフランスのアイデンティティを示そうとするが、それはヨーロッパが自由、デモクラシー、人権といった世界のモデルになりえる普遍的な価値を体 現しているという啓蒙以来の観念と結びついている。しかしながら、難民受け入れ問題がヨーロッパ各国で、極右によるナショナリズムの擡頭を招いている今、この様な普遍理念によるヨーロッパのアイデンティティは既に自明なものではなくなっている。その中で、敢えてヨーロッパ再建を主張するとき、マクロンは民主主義発祥の地アテネやソルボンヌ大学といった、人々の共通の「記憶の場」である、文化遺産の力の助けを借りる。「記憶の場」は、ルソーの言う「祝祭空間」とも共通し、人々の一体感を高め、アイデンティティを確証するために役立つと考えられるからではないだろうか。