著者
中嶋 智子 中尾 史郎
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.95-105, 2022-09-25 (Released:2022-09-29)
参考文献数
29

南アジア,東南アジア,東アジア,オセアニア地域に広く生息する放浪種のミナミオオズアリPheidole fervens Smith, 1858は,日本国内では,南西諸島から九州南部に連続分布している.京都市で2020年にミナミオオズアリを採取したので,本州初記録として報告するとともに,本種の現在の生息状況と2016年以降の発見場所周辺の調査資料から本種の侵入定着の時期を推定し,同時に在来アリへの影響を明らかにした.2016年から2019年に実施した調査では26種のアリ類が採取されミナミオオズアリの採取はなかったこと,ミナミオオズアリは2020年9月に97個体,2021年10月に457個体とわずか30分間の砂糖水ベイト誘引でメジャーワーカーを含む多数のワーカーが採取されたことから,侵入定着時期は2019年から2020年初頭と推定した.2021年11月下旬と12月中旬に実施した調査では,陸続きである南北方向に約100 m拡がっていたことから本種の分布拡大速度は2年間で約50 mと予想した.この調査で15種2150個体のアリを採取し,ミナミオオズアリ侵入区とその周囲の非侵入区に分けアリ相を比較し,ミナミオオズアリ侵入の影響をみた.侵入区でミナミオオズアリは,他のアリ種に比べ62 %と最も高い採取率を示し,採取個体数も総採取アリ数の66 %と,すでに優占種であった.侵入区では,在来の普通種のトビイロシワアリTetramorium tsushimae Emery, 1925の平均採取個体数は非侵入区の1 %と少なく,クロヤマアリFormica japonica Motschoulsky, 1866は採取されず,ぞれぞれの採取率はミナミオオズアリの存否で差異が認められたことから,これらとミナミオオズアリが置き換わる可能性も示唆された.一方,オオズアリP. nodus Smith, 1874は,その生息適地に重なるミナミオオズアリの分布域では,ミナミオオズアリと同所的に生息し,オオズアリの存否では平均採取個体数と採取率には差異はみられず,本種の侵入による影響は小さいと考えられた.また,ミナミオオズアリに先んじて侵入定着しているケブカアメイロアリNylanderia amia(Forel, 1913)では,その平均採取個体数と採取率が侵入区で2.7個体と29%,非侵入区で2.1個体と29%と同程度の値を示し,侵入区と非侵入区で採取率に差異がなく,本種の侵入影響は明確ではなかった.