- 著者
-
中川 祐希
- 出版者
- 一般社団法人 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理 (ISSN:00187216)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.3, pp.373-394, 2017 (Released:2017-10-20)
- 参考文献数
- 42
本稿は,近代期における天皇の即位大礼を契機とした京都駅前の変容過程を,「景観形成」という分析視角から検討した。大正天皇の即位大礼(大正大礼)においては,京都駅前に恒久的な建造物は建設されなかった。大正大礼後には,商業的競争を通じて京都駅前に洋風建築が建設された。昭和天皇の即位大礼(昭和大礼)では,この洋風建築の建設が進展する一方で,これと対立する風致保全という景観認識が生まれた。こうして,駅前の景観をめぐる葛藤が顕在化した。昭和大礼後では,複数の主体がこの葛藤に対処する過程を通じて,駅前の景観が形成された。以上の過程から明らかになったのは次の2点である。第1に,国家儀礼を契機とした「観光都市京都」の形成過程は,調和的なものではなく,葛藤に満ちたものであった。この過程においては様々な利害が交錯し,様々な実践が空転した。第2に,このような葛藤を通じて「観光都市京都」の特異性が形成された点が明らかになった。諸主体は,この駅前の景観をめぐる葛藤に巻き込まれながら,駅前の景観形成を進展させた。その過程で,駅前には,京都という地域ゆえの特異性と評価できる景観が形成された。