- 著者
-
中村 和久
河内 香織
- 出版者
- 応用生態工学会
- 雑誌
- 応用生態工学 (ISSN:13443755)
- 巻号頁・発行日
- pp.21-00001, (Released:2021-07-10)
- 参考文献数
- 27
日本において里地里山は独特の二次的自然環境を形成することにより,固有種や希少種を含んだ多くの生物の生息地となり,生物多様性に大きく貢献してきた.しかしながら近年はその里地里山環境が減少および劣化し,その中でも重要な構成要素の一つであるため池は防災対策の影響もあり著しく減少しており,その保全には限界があるのが現状である.そこで本研究では,ため池の保全だけに頼るのではなく,ため池の代替となる水環境の模索も必要と考えてゴルフ場の池に注目した.そして,近畿圏の 6 つのゴルフ場の調整池を対象として,水生植物の種類と種数を調査した.また,池の構造や周囲の環境,管理方法によって出現した水生植物種数の説明を試みた.ヒアリングの結果から,人為的な動植物の持ち込みは確認されなかった.調整池で観察された水生植物の種数は平均 2.5 種であり,先行研究においてため池で観察された種数(2.35 種)に劣らなかった.水深が浅いほど抽水植物の出現種数は多かった.これは抽水植物の出現に適した水深が保たれているためであると考えられた.DO が低いほど抽水植物の出現種数は多かったことに関しては,植物プランクトンの過剰繁殖との関係が考えられた.ゴルフ場の調整池で水生植物が生育できた要因として,一般のため池では管理放棄による遷移で消滅しやすい浅くて小さな池が存続していたこと,アメリカザリガニが侵入していなかったことが考えられる.特に抽水植物については適切な浅場と基質が存在したことが好ましい条件であったと推察された.今後は,里地里山の代替地としての可能性を高められるようなゴルフ場の管理を進めていくことが必要だと考える.