- 著者
-
岸本 朗
井上 雄一
松永 慎次郎
中村 準一
- 出版者
- 鳥取大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1995
現在、精神科臨床においては、複数の抗うつ薬に抵抗してうつ状態が持続するいわゆる難治性うつ病者の存在が問題となっている。難治性うつ病者にみられる臨床的特徴は急性期にみられるような高コルチゾール(COR)血症がしばしば観察されるところにある。そこで本研究は平成7-8年にかけて、難治性うつ病者に対して、COR合成阻害薬であるmetyraponeを投与するとともに、corticotropin-releasing hormone(CRH)を健常者や通常(非難治性)のうつ病者を対照として、難治性うつ病者に対して負荷し、それに対するadrenocorticotropic hormone(ACTH)やcortisol(COR)の反応を観察したものである。その結果、計9名の難治性うつ病者に対して1日量2,000mgまでのmetyraponeを、計16回にわたって使用したところ、双極性障害のみにおいて寛解が観察されたが、大うつ病では寛解が観察されなかった。また高COR血症が消失してもうつ状態の持続をみるものがあった。次に合計68名の対象について、100μgのCRHを静脈内に注射投与して得られたACTHやCOR反応を健常者や各うつ病者群と比較すると、難治性うつ病者においてはCRHに対するACTH反応,COR反応が服薬治療を受けている非難治性うつ病者、あるいは未治療者などにおけるそれらより有意に不良となっていた。以上の研究結果から、難治性うつ病者にみられる高COR血症は状態依存性ではあるが、必ずしもうつ病の原因とはなりえないこと、CRHに対するACTH,COR反応の不良性は長期間続く高COR血症のために下垂体や副腎皮質の反応性が不良となったものと考えられた。またCRH負荷試験は真の難治性うつ病から、不十分な抗うつ薬療法が行われているために、臨床効果が得られないうつ病者(すなわち偽難治性うつ病者)を区別する極めて有用な指標となるものと考えられた。