著者
瀬戸山 雄介 福田 隆一 山下 真司 中畑 敏秀 宮崎 麻理子 福田 秀文 了徳寺 孝文 工藤 貴裕 永濱 智美
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.166, 2007 (Released:2008-02-01)

【はじめに】 大腿骨頚部骨折術後において、浮腫が関節拘縮、感覚障害など二次的に機能障害を起こす要因となり、理学療法を進める上で問題となることが多い。そのアプローチとしてパンピングを用いる事は多いが、良好な結果を得られないことも経験する。そこで今回大腿静脈に通過障害があることを仮定し、その阻害因子と成りうる筋に対してアプローチを行い、若干の知見を得たのでここに報告する。【対象】 大腿骨頸部骨折術後3週以上経過しており明らかな心疾患、腎疾患がなく下腿に浮腫がみられるとした。大腿静脈通過障害にアプローチを行った群(以下アプローチ群)に関しては6名10脚、内訳は男性1名、女性5名、平均年齢85.6±7.8歳。 コントロール群は4名7脚、内訳は女性4名、平均年齢89.5±4.4歳であった。【方法】 アプローチ内容に関して、アプローチ群は、腸腰筋、恥骨筋、内転筋を中心に内転筋管周囲筋及び鼠径部周囲筋に対してストレッチ、マッサージ、ストレッチ、筋収縮の順に行った後、足趾及び足部パンピングを実施した。コントロール群は足趾及び足部パンピングのみ実施した。浮腫の評価は下腿周径(最大、最小)、足部周径(第一中足骨骨底と舟状骨を結ぶ周径)を測定。測定時間はアプローチ前の午前9時とアプローチ後の翌日午前9時とし、アプローチ実施時間に関しては午後2時とした。データ処理に関しては、両群における改善脚数の割合及び周径の改善率を算出した。改善率に関しては、対応のないt検定を用いてデータ処理を行った。【結果】 前日と比較して改善がみられた脚数の割合は、下腿最大周径においてアプローチ群では70%(0.5センチ~1.5センチ改善)であり、コントロール群では14%(0.5センチ~0.8センチ改善)であった。下腿最小周径において、0.5センチ以上改善した脚数の割合はアプローチ群で50%、コントロール群で0%であった。足部周径において、0.5センチ以上改善した脚数の割合は、アプローチ群で30%、コントロール群で14%であった。また下腿最大部周径におけるアプローチ群とコントロール群の改善率の比較において、有意差が認められた。(P<0.05)【考察】 アプローチを行った方が下腿浮腫は改善する傾向にあった。これは大腿静脈が内転筋管、大腿三角、血管裂孔を通過しており、周囲の筋(内転筋管周囲筋、鼠径部周囲筋)から圧迫を受け、循環障害を起こす可能性が示唆された。また内転筋管・鼠径部周囲筋に関しては、術後の外転筋不全による内転筋の代償や、長時間の臥床・座位による適応性短縮などにより機能不全を生じやすい。これに対して内転筋管・鼠径部周囲筋にアプローチを行うことで大腿静脈通過障害が改善したことが、下腿浮腫の改善につながったと考えられる。