著者
大城 有騎 並里 留美子 仲西 孝之
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.70, 2007 (Released:2008-02-01)

【目的】 腰痛疾患に対する運動療法として腹筋運動が多く採り上げられているが、その方法は様々で、指導する際に目的とする効果が得られているのかと疑問に思うことが多い。腰痛などの体幹の痛みは、体幹の深層筋である多裂筋や腹横筋、横隔膜、骨盤底筋群の機能低下により引き起こされると言われている。その中でも腹横筋は、動作に先行して予測的に姿勢を制御するなど体幹の安定性に重要な筋肉である。また、腹部内臓を圧迫し、腹腔内圧を高め、横隔膜を押し上げることで強制呼気に作用している。本研究の目的は、腹筋運動時の呼吸方法の違いにより腹横筋の活動に変化があるのかを、非侵襲的に評価が可能な超音波診断装置を用いて検証することである。また、その結果から、腹横筋の活動に効果的な腹筋運動が示唆されたので報告する。【方法】 対象は、疾患を有しない健常者10名(男性5名、女性5名、平均年齢は25.3±3.3歳)とし、検査肢位は、ベッド上背臥位、胸上にて手を組んでもらい、両膝は屈曲位で本人が最も楽な角度とした。計測部位は、腋下線上の肋骨下端から2_cm_下方・臍方向へ2_cm_の部位にプローブ端を設置し、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の3層構造を超音波診断装置(TOSHIBA製 LOGIQ TM400 739Lプローブ)にてイメージングした。計測方法としては、モニタリングされた腹横筋筋厚を3箇所計測し、その最大値を採用した。そして、安静吸気時の腹横筋筋厚を基準とし、呼吸方法の異なる1)胸式呼吸最大吸気にて息を止め腹筋運動、2)腹式呼吸最大吸気にて息を止め腹筋運動、3)腹式呼吸最大呼気を行いながらの腹筋運動の3種類の腹筋運動課題を行い、腹横筋筋厚の変化率を算出した。また、それぞれの課題間に有意差があるかをWilcoxon signed-ranks testを用いて検定を行い、有意水準1%未満とした。【結果】 安静吸気時の腹横筋筋厚に対する、各課題の腹横筋筋厚の変化率平均は、1)104.4±13.9%、2)102.5±8.6%、3)170±25.9%で、3種類の課題の変化率群を比較すると1)と2)には有意差が認められず、1)と3)・2)と3)の課題間に有意差が認められた(P<0.01)。【考察】 今回、超音波診断装置を用いて、腹筋運動時の呼吸方法の違いにより腹横筋の活動に変化があるのかを比較・検討した。その結果、安静吸気時の腹横筋筋厚に比べ、1)・2)の変化率は乏しく、3)の変化率が著明に増加し、1)と3)・2)と3)の課題間に有意差が認められた。そのため、最大吸気にて呼吸を停止しての腹筋運動に比べ、最大呼気を行いながら腹筋運動を実施したほうがより腹横筋の活動を促進できることが示唆された。
著者
前田 伸也 吉田 勇一 窪田 秀明 桶谷 寛
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.25, 2007 (Released:2008-02-01)

【はじめに】 脚延長術後の理学療法は、相対的に短縮する軟部組織の柔軟性維持を目的とした可動域訓練を行なうが、下腿延長例の足関節背屈よりも大腿延長例の膝関節屈曲の可動域改善が乏しい様に思われる。そこで下腿延長と大腿延長の下肢可動域と骨延長量を調査し、これらを比較したので報告する。【対象】 軟骨無形成症で低身長を呈し、脚延長術を実施した下腿延長例7名14肢、大腿延長例5名10肢のうち、調査可能であったそれぞれ6名12肢、4名8肢を対象とした。手術時平均年齢は下腿延長例で14歳3ヶ月、大腿延長例で17歳3ヶ月であった。なお、全例でorthofix創外固定器を使用した。【方法】 下腿延長例では膝伸展位での足関節背屈角度(DKE)、大腿延長例では膝関節屈曲角度(KF)をそれぞれ術前と延長後1ヶ月、その後1ヶ月毎に延長後7ヶ月まで調査し、各調査時の左右平均角度を求め、それぞれで術前との比較を実施した。骨延長量は、それぞれの平均延長量を求め比較した。【結果】 DKE、KFそれぞれにおいて分散分析を実施し、DKEは、術前と延長後1ヶ月、術前と延長後7ヶ月は有意差がなかったが、延長後2~6ヶ月までの5ヶ月間は術前と比較して可動域が減少した。(P<0.05)。KFでは延長後1~7ヶ月までの7ヶ月間は、術前と比較して可動域が減少した(P<0.05)。骨延長量は、下腿で平均74.7mm、大腿で平均66.9mmであり下腿が大きい結果となった。【考察】 結果より、DKEよりもKFの可動域改善が低いことが示唆された。理由として、下腿延長例は、斜面台での起立訓練や歩行時において、下腿三頭筋の持続したストレッチ効果が得られやすく、早期の可動域改善が可能ではないかと推察された。一方大腿延長例では、下腿よりも歩行時のストレッチ効果が得られず、また大腿部の筋自体も筋張力が大きいため、可動域改善が得られにくい。その他として、平岡らは、大腿延長はピン刺入により腸脛靭帯のスライドが不十分なために膝関節屈曲制限が起きると述べている。以上により大腿延長例では、軟部組織の柔軟性を獲得しにくいことが推察された。また骨延長量も大腿延長例が小さく、延長量を決定する因子として軟部組織の柔軟性が必要であるということが確認できた。これらを踏まえ、大腿延長例の理学療法は、術前に大腿四頭筋のストレッチを実施し、可動域制限を最小限に留めることが必要ではないかと考える。今後も症例数を増やしていき、更に検討したい。【結語】 下腿延長と大腿延長において、骨延長量と下肢可動域を比較した。結果、大腿延長例ではKFの改善が低く、骨延長量も小さい。大腿延長例に関して、術前に大腿四頭筋のストレッチを実施する必要があると考える。
著者
瀬戸山 雄介 福田 隆一 山下 真司 中畑 敏秀 宮崎 麻理子 福田 秀文 了徳寺 孝文 工藤 貴裕 永濱 智美
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.166, 2007 (Released:2008-02-01)

【はじめに】 大腿骨頚部骨折術後において、浮腫が関節拘縮、感覚障害など二次的に機能障害を起こす要因となり、理学療法を進める上で問題となることが多い。そのアプローチとしてパンピングを用いる事は多いが、良好な結果を得られないことも経験する。そこで今回大腿静脈に通過障害があることを仮定し、その阻害因子と成りうる筋に対してアプローチを行い、若干の知見を得たのでここに報告する。【対象】 大腿骨頸部骨折術後3週以上経過しており明らかな心疾患、腎疾患がなく下腿に浮腫がみられるとした。大腿静脈通過障害にアプローチを行った群(以下アプローチ群)に関しては6名10脚、内訳は男性1名、女性5名、平均年齢85.6±7.8歳。 コントロール群は4名7脚、内訳は女性4名、平均年齢89.5±4.4歳であった。【方法】 アプローチ内容に関して、アプローチ群は、腸腰筋、恥骨筋、内転筋を中心に内転筋管周囲筋及び鼠径部周囲筋に対してストレッチ、マッサージ、ストレッチ、筋収縮の順に行った後、足趾及び足部パンピングを実施した。コントロール群は足趾及び足部パンピングのみ実施した。浮腫の評価は下腿周径(最大、最小)、足部周径(第一中足骨骨底と舟状骨を結ぶ周径)を測定。測定時間はアプローチ前の午前9時とアプローチ後の翌日午前9時とし、アプローチ実施時間に関しては午後2時とした。データ処理に関しては、両群における改善脚数の割合及び周径の改善率を算出した。改善率に関しては、対応のないt検定を用いてデータ処理を行った。【結果】 前日と比較して改善がみられた脚数の割合は、下腿最大周径においてアプローチ群では70%(0.5センチ~1.5センチ改善)であり、コントロール群では14%(0.5センチ~0.8センチ改善)であった。下腿最小周径において、0.5センチ以上改善した脚数の割合はアプローチ群で50%、コントロール群で0%であった。足部周径において、0.5センチ以上改善した脚数の割合は、アプローチ群で30%、コントロール群で14%であった。また下腿最大部周径におけるアプローチ群とコントロール群の改善率の比較において、有意差が認められた。(P<0.05)【考察】 アプローチを行った方が下腿浮腫は改善する傾向にあった。これは大腿静脈が内転筋管、大腿三角、血管裂孔を通過しており、周囲の筋(内転筋管周囲筋、鼠径部周囲筋)から圧迫を受け、循環障害を起こす可能性が示唆された。また内転筋管・鼠径部周囲筋に関しては、術後の外転筋不全による内転筋の代償や、長時間の臥床・座位による適応性短縮などにより機能不全を生じやすい。これに対して内転筋管・鼠径部周囲筋にアプローチを行うことで大腿静脈通過障害が改善したことが、下腿浮腫の改善につながったと考えられる。
著者
平野 高志
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第29回九州理学療法士・作業療法士合同学会 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.64, 2007 (Released:2008-02-01)

【はじめに】 平成18年に医療・介護保険の改定が実施され、リハビリテーション(以下リハ)では算定日数の制限が、入院療養では医療区分などが大きな問題となった。医療120床、介護293床全て療養病床の当院では、病院全体が大きく変わる事を余儀なくされた。そこで改定前後における当院の動向について調査し、私見を含めここに報告する。【対象・方法】 平成18年1月から12月の1年間における、病床稼働率、待機者数、入退院数、入退院者動向、医療区分、平均介護度、日常生活自立度、リハ延単位数について調査し、保険制度改定前後の動向と患者像を比較、検討した。【結果】 病床稼働率は、3月99.7%が12月には97.4%に低下し、待機者は3月に61名であったのが、6月には待機者なしとなる。入・退院数は順に1月は15名・11名、5月は22名・20名、10月27名・35名と最も多く、12月は18名・20名と低下傾向である。入院経路としては、病院からの紹介が多数を占め、自宅、近隣施設からの入院が続く。退院経路としては、転院、自宅、死亡退院が多数を占めている。4月以降介護系施設への退院も少数ではあるが増加している。医療区分の推移は、重症化が進んでおり、区分2以上の割合は、7月時点で71.3%、9月で80%を超え、12月には87.0%まで増加している。平均介護度は、全体で1月では4.18だったのが、6月に3.88、11月には3.67へと変化している。日常生活自立度は、病院全体でC2、B2、B1の順で多く、年間を通して変化はない。介護病棟ではB2、B1の増加C2の減少、医療病棟ではB2、B1の減少C2の増加となっている。リハ月別延単位数は、医療は3月に最も多く12月には47%減少し、介護では31%増加している。全体は、療法士の増減により多少変化はあるが大きな変化はない。【考察】 この改定で、リハにおける日数制限と医療区分が設けられ、療養病床のみである当院は、その対応に追われる1年となった。慢性期入院医療に関わる見直しで、区分の低い患者の療養が厳しくなり、介護保険の申請を勧め介護度を取得すると同時に、医療区分を確認した。医療と介護の適応判断を全患者で行い、必要時には退院指導も行った。在宅復帰・生活重視への移行で退院指導重視と種々の施設開設で、待機者なしとなったと考える。7月に向け、院内で医療と介護間で患者の移動があり、患者像が逆転したことが日常生活自立度、介護度から伺える。リハにおいてもリセット後180日で、医療の適応患者が減少し、療法士の配置を介護で増員し、リハ継続を進める事となった。医療と介護の機能分担と連携の明確化を痛感した。本年の例外的な医療保険の改定と2年後の介護の改定、また介護療養病床の廃止と情勢は変化する。医療と介護の連携に当院の方針を見出す必要がある。