著者
中西 遼 小幡谷 英一
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.259-265, 2016
被引用文献数
2

<p>雅楽に用いられる篳篥のリード(蘆舌)には葦(<i>Phragmites australis</i>)が用いられる。蘆舌には淀川流域の鵜殿地区で採れる葦が最適とされているが,その理由は定かではない。本研究では,代替産地や合理的な選別法を検討する上で不可欠な良材の条件を明らかにするために,熟練者によって選別された葦材の組織構造,密度および横圧縮強度を他の葦のそれらと比較した。同一節間内で比較すると,上部ほど肉薄で密度が高かった。この違いは外皮の内側にある柔細胞層の厚さの違いによるものであった。良材と選別された葦材は,他の葦よりも肉厚でやや密度が高かったが,その差は僅少であった。一方,良材は他の葦よりも明らかに高い横圧縮強度を示した。葦の稈から蘆舌を作る際には,稈の一端をつぶさなければならない。そのため,薄くつぶしやすい節間内上部が使われ,かつ,横圧縮に対して壊れにくい葦材が選ばれるものと推察された。</p>
著者
小幡谷 英一 中西 遼
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.131-137, 2019
被引用文献数
3

<p>伝統的な篳篥の振動板 (蘆舌) に適した葦の特性を明らかにするために,蘆舌に用いられる葦(<i>Phragmites australis</i>) 材の寸法と繊維方向の振動特性を測定した。円筒状の葦材から板状の試料を作製するために,伝統的な熱圧加工である「ひしぎ」に倣い,中空の稈を分割して熱圧した。 奏者によって選別された葦材の振動特性は,選別されなかったもののそれと大差なかったが,選別された葦材の厚さと外径は狭い範囲 (それぞれ1.2~1.4mmおよび11.5~12.1mm) にあった。篳篥の蘆舌を作るためには,振動特性よりも,寸法が重要であることが示唆された。葦材の動的ヤング率と密度の関係は,維管束鞘と柔細胞からなる力学モデルで近似された。葦材の損失正接は西洋の木管楽器に用いられる葦 (<i>Arundo donax</i>) に比べて著しく低かった。これは水溶性抽出成分の含有量が少ないためと推察された。</p>
著者
中西 遼 小幡谷 英一
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.259-265, 2016-11-25 (Released:2016-11-29)
参考文献数
5
被引用文献数
2

雅楽に用いられる篳篥のリード(蘆舌)には葦(Phragmites australis)が用いられる。蘆舌には淀川流域の鵜殿地区で採れる葦が最適とされているが,その理由は定かではない。本研究では,代替産地や合理的な選別法を検討する上で不可欠な良材の条件を明らかにするために,熟練者によって選別された葦材の組織構造,密度および横圧縮強度を他の葦のそれらと比較した。同一節間内で比較すると,上部ほど肉薄で密度が高かった。この違いは外皮の内側にある柔細胞層の厚さの違いによるものであった。良材と選別された葦材は,他の葦よりも肉厚でやや密度が高かったが,その差は僅少であった。一方,良材は他の葦よりも明らかに高い横圧縮強度を示した。葦の稈から蘆舌を作る際には,稈の一端をつぶさなければならない。そのため,薄くつぶしやすい節間内上部が使われ,かつ,横圧縮に対して壊れにくい葦材が選ばれるものと推察された。