著者
大平 辰朗
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.226-231, 2015-05-25 (Released:2015-06-01)
参考文献数
33
被引用文献数
2 4

我々の生活環境には多種類の環境汚染物質が存在しており,それらが原因で引き起こされる疾病が問題になっている。そのためそれらの除去法の開発が急務となっている。これらの対策として樹木の香り成分(精油)を空気中に放散する方法が期待されている。精油にはアンモニア等の悪臭物質の除去活性の高いヒノキ葉油,環境汚染物質の一種であるホルムアルデヒドの除去機能の高いスギの葉油などが見出されている。最近の研究では二酸化窒素を極めて効果的に除去するトドマツ葉油等が見いだされ,それらの除去活性物質としてmyrcene,β-phellandrene,γ-terpineneなどが特定され,さらにはその除去機構として,粒径1000 nm以上の粒子状物質を生成し,二酸化窒素を無害化していることがわかっている。香り成分にはリラックス効果等も見出されていることから,その利用により総合的な空気質の改善が期待できる。
著者
堀 千明 吉田 誠 五十嵐 圭日子 鮫島 正浩
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.173-188, 2019-10-25 (Released:2019-11-02)
参考文献数
83

木材腐朽菌は植物細胞壁の主要成分(セルロース・ヘミセルロース・リグニン)を効率的に分解する。この特徴的な分解能力やその機能を担う酵素について,これまで様々な応用を見据えて精力的に研究がなされてきた。最近では次世代シーケンサーの登場により,すでに250種以上の菌類のゲノム情報が取得され,それに基づく多様な腐朽菌が保有する木材分解メカニズムの解析について新しい知見が報告されている。本稿では,まず腐朽菌による木材分解現象に関するこれまでの研究の経緯を説明した上で,最近の比較オミックス解析で明らかにされた腐朽形態の違いの要因となる分子メカニズムについて紹介し,さらに分子時計解析から見えてきた木材腐朽菌の起源や進化について考察を行った。
著者
渡辺 憲 高麗 秀昭 小林 功 柳田 高志 鳥羽 景介 三井 幸成
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.63-72, 2017-03-25 (Released:2017-03-30)
参考文献数
21
被引用文献数
6 3

燃料用木質チップとしての使用を目的とした丸太の天然乾燥において,乾燥時間の推定法,および丸太の諸形質が乾燥性に及ぼす影響について検討した。2014年11月から2015年8月にかけて茨城県つくば市にてスギ丸太の天然乾燥試験を実施した。乾燥期間中の含水率を初期含水率,直径,長さ,心材率および乾燥時間の関数として表現し,階層ベイズモデルによって丸太の個体差を考慮した乾燥曲線モデルを構築した。このモデルを用いて丸太の平均含水率を推定した結果,実測値は乾燥曲線とほぼ一致し,任意の含水率に対して乾燥時間を推定できる可能性が示唆された。また,丸太の乾燥性に影響を及ぼす要因を総合的に評価したところ,初期含水率,直径および長さが丸太の乾燥性に影響を及ぼしていることが示された。
著者
橋田 光 田端 雅進 久保島 吉貴 牧野 礼 久保 智史 片岡 厚 外崎 真理雄 大原 誠資
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.48-54, 2014-01-25 (Released:2014-01-28)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

未利用なウルシ材を染色用途に利用するため,ウルシ材の織布への染色特性を検討した。ウルシ材フェノール成分の効率的な熱水抽出条件を検討した結果,炭酸ナトリウムの添加が有効なことを明らかにした。抽出液による染色特性を検討したところ,ナイロン,羊毛及び絹で良好な染色性を示した。また,炭酸ナトリウム添加抽出による染液に酢酸を添加することで,熱水抽出より効率的な濃染が可能であり,金属塩を用いた媒染においてもより濃色に発色することが示された。洗濯処理により,未媒染の染色布は大きく脱色したが,媒染や濃染により脱色の抑制が可能であり,特に酢酸鉄(II)を用いた媒染による抑制効果が高かった。また,ウルシ材による染色布は,黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対し,明確な抗菌性を有することを明らかにした。
著者
山本 健 片岡 厚 古山 安之 松浦 力 木口 実
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.320-326, 2007 (Released:2007-11-28)
参考文献数
7
被引用文献数
6 8

紫外線から可視光線(278~496 nm)を波長幅約20 nmに分光して6樹種の木材に照射し,照射光の波長と材の変色との関係を調べた。照射前のCIELAB色空間におけるL* 値が70以上,a*値が8未満の淡色材には,紫外域での暗・濃色化と,可視域での明・淡色化が見られた。厳密には,暗・濃色化と明・淡色化の境界波長は樹種によって異なり,針葉樹では,境界波長が広葉樹よりもやや長波長側に見られる傾向があった。一方,照射前のL* 値が70未満,a* 値が8以上の濃色材の変色パターンは複雑であったが,抽出処理後の照射では,淡色材の変色傾向にやや近づく傾向が見られた。照射前の木材の色調と分光照射による変色の関係について,照射前のL* 値が小さい材ほど短波長の光でL* 値が減少から増加に転じ,照射前のa* 値が大きい材ほど短波長でa* 値が増加から減少に転じる傾向があった。しかし,b* 値にはこのような関係は見られなかった。
著者
片岡 厚
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.165-173, 2008-07-25 (Released:2008-07-28)
参考文献数
75
被引用文献数
9 12

光劣化は,木材が屋外で気象劣化する際のキープロセスである。また屋内でも変色などの問題を引き起こす。木材の光劣化は,基本的には表面反応であり,化学構造の変化は表層付近に留まるとされている。しかし,これまでに報告された木材の光劣化層の深さは,80μmから2540μmまで幅広い。木材が光劣化するメカニズムについて深さ分析による理解を深めることは,劣化しやすい木材の表層の部分を特定して,より効果的に耐光化処理する技術を開発するためにも重要である。本稿では,木材の光劣化に関わる基礎的な知見を概説するとともに,光劣化の深さ分析におけるこれまでの研究展開と理解の深まりを紹介する。
著者
近藤 哲男
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.107-115, 2008-05-25 (Released:2008-05-28)
参考文献数
41
被引用文献数
16 16

最近のナノテクノロジーの著しい進歩は,さまざまな材料創製の概念を変えてきた。天然素材においても,その影響は大きい。植物体の骨格を形成しているセルロースや昆虫や甲殻類の外皮の主成分であるキチンなどのいわゆるバイオマス資源は,もともとナノファイバーから高次の構造へと天然ビルドアッププロセスにより,その構造が構築されている。そのような構造ができあがっている天然素材を,有効に用い,しかも自然にやさしいプロセスでナノ機能素材へと変換する試みが21世紀に入って急速に展開してきた。本稿では,最近のセルロースナノファイバーの潮流について,その基礎から展開までの概略を述べる。また最近,著者らも,トップダウン的加工法として,天然セルロース繊維を表面から分子やナノレベルの分子集合体を引き剥がすことにより微細化し,最終的にナノ分散水化させる水中カウンターコリジョン法を開発した。この手法についても併せて紹介する。
著者
村田 功二 富田 夏生 仲村 匡司 秋津 裕志 大崎 久司 浦上 晃 池田 真一
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.44-49, 2021-01-25 (Released:2021-01-30)
参考文献数
10

これまでの研究で国産材であるダケカンバ(Betula ermanii)が野球バットとして利用できることが分かった。ダケカンババットについて打音に関係するだろうと考えられる繊維傾斜角とバットの振動特性の関係を調べ,タモバットおよびメープルバットと比較した。また,反発性能としてボール・バット反発性能(BBCOR)を測定し,振動特性との関係を調べた。その結果,縦振動の固有振動数は繊維傾斜角と関係し,直交異方性弾性体として導かれた弾性率の換算式とよく適合した。打音は繊維傾斜角と関係し,バットの性能の指標となりうることが確認できた。各種バットに球速120km/hで衝突させたときのBBCORを測定した結果,ダケカンババットは最も優れた反発性能を示した。またBBCORはバットの内部摩擦と負の相関がみられ,衝撃によるエネルギー損失が反発性能と関与する可能性がある。
著者
喜多 祐介 田鶴 寿弥子 竹下 弘展 杉山 淳司
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.171-182, 2020-07-25 (Released:2020-07-30)
参考文献数
25

近赤外分光法は,樹種間におけるわずかな化学成分の違いを検出することにより,顕微鏡観察では不可能であった樹種の識別を可能とする。本研究では,近赤外分光と多変量解析ならびに特徴量選択法を用いることにより,日本の建築用材として重要かつ解剖学的に類似する樹種であるヒノキ・アスナロ属,ならびにツガとベイツガの識別について検討した。これに加えて,ヒノキ・アスナロ属の現生材で構築されたモデルを用いて伝統建築に使われたヒノキ・アスナロ属古材の識別も実施した。現生材の場合は,9割近い精度で識別が可能であることが示され,変数選択により識別に重要な波数域を定量的に示すことに成功した。古材においては,経年劣化による化学成分の変化により現生材に比べて識別率の低下がみられた。しかしながら,モデルが選択した重要変数領域が劣化に対して頑強であったために,既報に比べて高い識別率を維持したと考えられる。
著者
富田 夏生 村田 功二 仲村 匡司 秋津 裕志 大崎 久司
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.39-45, 2020-01-25 (Released:2020-02-01)
参考文献数
9

ダケカンバは北海道の先駆種でもあり蓄積量も多いが十分な活用がなされてこなかった。そこで価値の高い活用方法としてバット用材としての評価方法とその適正を検討した。バット用材に最も要求される物性を衝撃曲げ強度と考え,ダケカンバ材の繊維傾斜と衝撃曲げ強度および衝撃曲げ破壊エネルギーの関係を調べた。既存の報告に近い傾向が衝撃曲げ強度でも確認でき,ハンキンソン式の適用が可能であった。バット用材のグリップを模した試験体で衝撃曲げ試験を行い,既存のバット用材と比較した。密度および繊維傾斜を補正した結果,ダケカンバは既存のバット用材と破壊エネルギーと強度の両方で同等の性能を示した。実際に硬式野球バットを試作し,大学野球部で試打を行った。一週間の試打で破損は見られず実用に耐えうることが確認できた。アンケートの結果では打球感や飛距離などでも「良い」や「普通」の回答が大半をしめ,実用上問題がないことが確認できた。
著者
塔村 真一郎
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.27-41, 2016-03-25 (Released:2016-03-28)
参考文献数
118
被引用文献数
3

近年の大規模木造建築物には,大断面の構造用集成材やCross-Laminated Timber(CLT)のような構造用木質材料の使用が不可欠である。構造用木質材料の強度性能を設計通り発揮させるためには,接着が適正に行われていることが前提となり,使用する接着剤も耐久性への信頼が高いものに限られる。構造用木材接着剤としては,長い間レゾルシノール系樹脂接着剤などが使われてきたが,近年水性高分子-イソシアネート系接着剤や,最近欧米では1液ポリウレタン接着剤も使われ始めている。これらイソシアネート基の反応をベースとした接着剤は,レゾルシノール系接着剤とは化学構造や物性が異なる。したがって,構造用木材接着剤の要求性能や評価法について再検討する必要があり,規格も各国で整備されつつある。そこで本稿では,現行の構造用木材接着剤に要求される接着性能に関する規格とその評価法について概説する。
著者
斎藤 幸恵 信田 聡 太田 正光 山本 博一 多井 忠嗣 大村 和香子 槇原 寛 能城 修一 後藤 治
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.255-262, 2008-09-25 (Released:2008-09-28)
参考文献数
11
被引用文献数
4 11 4

重要文化財福勝寺本堂に用いられていた垂木で,施工年代が異なり(1500,1662,1836年頃),品等・使用環境が似通ったものの劣化調査を実施した。供試試料は全てアカマツである。ケブカシバンムシによる食害が,古い材ほど著しく進んでいた。食害部分を除いた,木材実質の経年変化を検討するために,未被食部のみを取り出して供試した。古材未被食部の酸化開始温度,および微小試験片の縦方向引張ヤング率は,現代材より低い傾向にあったものの,経年によって低下の程度が増すとは断定できなかった。未被食部のX線回折から求めたセルロース相対結晶化度には経年による増大の傾向が見られ,縦方向引張ヤング率との間に,弱い負の相関が見られた。また古い材ほどホロセルロース率が低下する傾向があり,経年による未被食部の成分変性を示唆していた。木材実質そのものの変性よりはどちらかといえば虫害の方が,実用上の性能低下に大きく影響すると考えられた。
著者
小埜 栄一郎
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.232-237, 2015-05-25 (Released:2015-06-01)
参考文献数
26

植物は有機化合物の宝庫であり,人類は経験的にそれらの効能に基づいて食品(色素,香辛料,甘味料)や薬として利用してきた。今日では科学技術の進展により化合物の構造,生合成経路,および生理活性(機能性)の理解が進んでいる。植物由来の有用物質の多くは二次代謝物または特化代謝物(Secondary metabolitesまたはSpecialized metabolites)と称され,具体的にはタバコのニコチン,コーヒーのカフェイン,チャのカテキン,ゴマのセサミン,ウコンのクルクミンなど私たちの生活に関係が深いものが多い。これまで人類は様々な手法で植物を改良してきたが,新しい技術開発に伴って交配育種から,形質転換に寄る機能改変,ゲノム情報に基づくゲノミックセレクションへと大きく変容してきている。ここでは次世代シークエンサーによるゲノム時代の有用遺伝子の探索事例を紹介すると共に,先駆的な代謝工学による酵母に寄る植物二次代謝物の生産事例を紹介する。
著者
信田 聡 前田 啓 浪岡 真太郎
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.301-310, 2016-11-25 (Released:2016-11-29)
参考文献数
14

日本産木材50種の視覚的好ましさを評価する目的で,一対比較法を用いて19歳~30歳までの被験者により視覚的好ましさの間隔尺度値を求めた。好ましさの間隔尺度値と各木材画像の色属性間の相関分析から,好ましさは「RGBの中のR値の変動係数」や「R値の最小値」と正の強い相関を示し,さらに「R値の変動係数」とは負の強い相関を示したことから,赤味が強く,暖色系の色で,木目がはっきりしない木材が,視覚的に好まれることが示唆された。
著者
斎藤 幸恵 山本 篤志 太田 正光 有馬 孝禮 内海 泰弘 古賀 信也 門松 昌彦 坂野上 なお 山本 博一
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-32, 2015-01-25 (Released:2015-01-29)
参考文献数
15
被引用文献数
1

伝統技術による檜皮採取が剥皮木の木部性質を変化させるか否か明らかにすることを目的として,檜皮採取前後のヒノキ木部ヤング率,セルロースミクロフィブリル傾角(MFA)について検討した。同一林分のほぼ等しい環境に生育する>69年生ヒノキペア5組を選定し一方から檜皮を一度採取し他方を対照木とした。採取年およびその前後に形成された計<18年輪について放射方向に連続的に試料採取し,同一の母細胞から形成された試験体を作製,ヤング率とMFAの変化を年輪毎に平均し時系列で比較した。剥皮・対照木の個体差を除くため,ある年に形成された年輪の測定値と前年輪の測定値の差を,その絶対値の総和で割り標準化した「変化率」で比較した。その結果,檜皮採取に起因した明瞭な変化は認められなかった。熟練原皮師による形成層を傷つけない方法による檜皮採取は少なくとも,環境や遺伝的要因による変動を上回る木部性質の変化は及さないと結論づけられた。
著者
河本 晴雄
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.1-24, 2015-01-25 (Released:2015-01-29)
参考文献数
211
被引用文献数
29 17

セルロースは木質バイオマスの主要な構成成分であることから,その熱分解の化学についての深い理解は,急速熱分解,ガス化,炭化,半炭化などの熱分解をベースとした木質バイオマスの変換技術を高度化する上で重要である。また,このような知見は,木材乾燥やセルロースとプラスチックとの複合化など,木材およびセルロースの高温処理技術においても重要となる。セルロースは,300℃以上の高温度域において急速に熱分解されるが,200℃以下の比較的低温度域においても,ある種の熱分解反応は進行する。本総説では,化学反応とその分子機構に着目して,セルロースの熱分解について概説する。
著者
桝田 信彌 福田 香織 矢口 行雄 本間 環
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.298-305, 2007 (Released:2007-11-28)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

マングローブ林を構成する木本植物の効率の良い造林を行うための苗木の大量生産を目的とした基礎的研究として,メヒルギ胎生種子の植え付け深さの違いによる発根現象を調査した。その結果,胎生種子のシュート伸長成長は深く植え付けるほど促進効果がみられ,サンゴジュやモモなどの他の樹種のさし木の発根におけるこれまでの報告と同様の結果が得られた。植え付け前に根源体の形成がみられた下部発根は,植え付け深さの違いによって下部根の発根部位や発根本数には違いがみられなかった。しかし,植え付け後に根源体の形成された上部発根は,深く植え付けたものほど発根部位が拡大し発根本数も増加した。これらのことから,メヒルギ胎生種子の上部発根は,植え付けたことによる培地との接触が刺激となって根源体が形成されたと考えられる。また,上部発根と下部発根との間には約 2 cmの無発根の部位がみられた。
著者
吉村 剛
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.329-339, 2011-11-25 (Released:2011-11-28)
参考文献数
74
被引用文献数
9 9

外来木材害虫であるアメリカカンザイシロアリは,1976年に東京の住宅で初めてその被害が報告されて以来,現在では日本全土に広くその分布を拡げつつある。アメリカカンザイシロアリの総合的防除には,個々の要素技術の集積である住宅レベルの総合的防除と,地域からの根絶を目指した地域レベルにおける総合的防除の2つのレベルがある。最近の研究成果によって住宅レベルにおける個々の技術的課題は克服されつつあり,今後は根絶に向けた地域レベルでのシステムづくりが鍵となる。予防および駆除における新しいアメリカカンザイシロアリ対策を一つの突破口として,日本における木材保存産業の発展を期待したい。
著者
永井 拓生
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.66-78, 2023-04-25 (Released:2023-04-29)
参考文献数
28

ヨシ群落の適切な管理保全を達成するために,ヨシ(Phragmites australis)の活用法の確立は重要な課題である。本研究では,将来的なヨシ活用の実現を目標とし,ヨシ稈の形状と力学的特性について基礎的な調査を行った。ヨシ稈の比重・曲げ強度・曲げヤング係数には互いに強い正の相関が確認された。これらの特性値はいずれも根際と穂先あたりでは相対的に小さく,中腹の胸高さあたりで最大となる。また,この付近では節同士の間隔が他部位よりも相対的に大きく,節の数が少ない。つまり,材質の強化による補強が行われている。一方,根際付近では稈断面寸法が他部位より大きいことに加え,節同士の間隔が詰まっており,形状操作による補強が行われている。このように,ヨシ稈においては草丈に亘る質量の増加を防ぎつつ各部の補強がなされており,構造力学的に非常に効率的な材料配置となっていることが確認できた。