著者
中谷 いずみ
出版者
日本近代文学会
雑誌
日本近代文学 (ISSN:05493749)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.132-145, 2018-05-15 (Released:2019-05-15)

本論は、「文学史」を構成する解釈のフレームを問題化するために、階級闘争に関わった女性たちの動向や書きものについて、『女人芸術』という雑誌を軸に検討を行った。一九三〇年前後に政治的理想のために闘う主体として「ハウス・キーパー」を担った女性たちは、労働者階級の優位と前衛における性役割の自明化というフレームの重なりから生じた〈運動主体〉をめぐる解釈の空所に陥り、結果、同時代批評からも歴史記述からもその存在を見落とされることとなった。本論では、彼女たちの作品を読むことがそれらの女性たちの声に耳を澄ますことであると同時に、「文学史」を構成する諸解釈のフレームを問い直すことでもあると論じた。
著者
中谷 いずみ
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.36-46, 2004-09-10 (Released:2017-08-01)

従来、大正自由主義的な運動として、あるいは「児童中心主義」と評されてきた『赤い鳥』の綴方教育は、文学者による文章教育と学校教育現場における文章教育という二つの流れが合流した地点でもあった。本稿は、文章教育であったはずの綴方を創作的、文学的活動の成果と見なす言説空間の成立を追うと共に、『赤い鳥』に集った教師たちにとっても、綴方教育が創作的、文学的活動として存在していた点に注目し、考察したものである。
著者
中谷 いずみ
出版者
奈良教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、1950年代から現代までを分析対象として、反戦平和言説とジェンダー、階級の関わりについて分析を試みた。日本のような政治的イデオロギーを厭う社会では、労働者階級の女性や子どもによる反戦平和の訴えが党派性のない純粋な声と見なされ、メディアの注目を集めることがある。それが政治的な効果を持ち、平和運動を活発化すること場合も多いのだが、そこには問題も潜んでいるのではないか。本研究は女性による反戦平和言説の称揚が既存のジェンダー観に基づくものであり、特に女性らしさを温存させてしまうこと、政治色の排除を正当化してしまうことから、結果的に保守的な社会の温存に寄与する側面があるという結論に至った。