著者
青木 康容 中道 実
出版者
同志社大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

以下のような点を明らかにした。1.初期の帝国議会において多数を占めたと言われる地主階層はさまざまな産業、すなわち農業、林業、牧畜業、養蚕業、酒造業などを営み、さらに他のビジネスにおいても投資し、活発なビジネス活動をしていた。かれらの企業経営は実に多様であるが、特に銀行業を営むことが注目される。2.戦前政党と戦後政党との間には、政党内職階制に極端に大きな相違が見られる。戦前政党組織が極めて単純であるのに対し、戦後政党は複雑な役職構成をなしている。これは戦後の政党が政治制度の変化の下に果たすべき大きな役割を担ったことを示し、本格的な政党政治の現われと見ることが出来る。3.戦前議員たちの利益団体との帰属関係を見ると、特に産業団体との関わりが深く、自らがそうした団体の出身者であること、すなわち出身職業がそのような産業であり、その意味で団体利益を挺した議員であること、しかしそれが次第に出身の職業とは関係なくそうした団体の役員を引き受ける議員が1936年の第19回総選挙あたりから出でくる。これは職業政治家の本格的な現われであろうと考えられる。4.戦前議員と地方団体との関わりを分析すると、かれらが如何に地域社会と深い繋がりがあったかが判明した。地方団体とは、地域社会固有の団体で、おそらくは地方名望家が担うことが期待された団体である。衛生委員、地方衛生会、学区取締、学務委員、教育会、連合町村会、町村組合会、林業組合、森林組合、山林会、水利組合、水利土功会、耕地整理組合、勧業委員、所得税調査委員、鉄道会議、調停委員、徴兵参事委員、徴兵議員などがこうした団体と役員である。全体として、職業的背景を見ると、戦前から戦後にかけて実に大きな相違を見ることが出来る。「政治によって生きる」職業としての政治家の本格的な出現はやはり戦後に求められる。