著者
中野 貴瑛 瀧本 岳
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-20, 2011-01-05

ヒロヘリアオイラガParasa lepidは庭木や街路樹にしばしば大量に発生する外来生物で,幼虫が毒棘を有することからも日本の侵略的外来種ワースト100に記載されている.ヨコヅナサシガメAgriosphodrus dohrniも外来生物であり,ヒロヘリアオイラガを捕食することが知られている.しかし,両者の関係は詳しく調べられていない.本研究では,ヨコヅナサシガメの存在がヒロヘリアオイラガの営繭数に与える影響を明らかにすることを目的とした.2009年の8月と10月に,千葉県内の4ヶ所の桜並木において,計355本のサクラを対象に,ヒロヘリアオイラガの当期繭数,ヒロヘリアオイラガの世代,ヨコヅナサシガメの有無を記録した.ヒロヘリアオイラガの当期繭数を応答変数として一般化線形混合モデルの当てはめを行った.赤池情報量基準に基づくモデル選択の結果,ヒロヘリアオイラガの世代とヨコヅナサシガメの有無,およびそれらの交互作用項を説明変数に含むモデルが,最適なモデルとして選ばれた.この結果から,ヨコヅナサシガメが木にいることは,その木のヒロヘリアオイラガの当期繭数を減らす効果があり,その効果は第2世代で特に強いことが分かった.ヒロヘリアオイラガの個体群動態に関する先行研究からは,第2世代成虫期から翌年第1世代繭期への個体群増加率が,成虫密度の増加に伴って上昇することが示唆されている.このことから,ヨコヅナサシガメの捕食によってヒロヘリアオイラガの第2世代の繭数が減少することは,翌年第1世代の発生量を抑制している可能性があると推測できる.また本研究が明らかにしたヒロヘリアオイラガとヨコヅナサシガメの外来生物間相互作用は,これらの外来生物対策には群集生態学的な視点が重要であることを示唆している.