著者
渡辺 学 久ヶ枝 隆子
出版者
熊本大学
雑誌
教育工学センター紀要
巻号頁・発行日
vol.5, pp.139-161, 1988-02-29

カール・オルフのシュールベルクの再認識を,ザルツブルクにあるオルフ・インスティテュートに求め,そこで現在展開されている新しいオルフの方法を目の当りにした.すなわち,音楽教育の最も基本をなす聴覚を,「遊び」を通して洗練するとともに,さらに触覚,そしてお互いに手と手,腕,その他によって感じ合える身体相互の圧力など,現代人が忘れつつある身体各部の機能を確かめ,呼び覚ますことにはじまり,身体の動きと音楽のリズムを一致させようと先ず試みる.次に,音や身体による表現の原泉として自然にある動物や植物や鉱物に至るまでに確かなまなざしを向け,そこに生命を見出だし,それから得たアイデアやファンタジーによって即興的音楽を創る.言葉や詩によって浮かぶイメージを身体を動かし,即興的に歌い,身体によってドラマを作る.また,従来からあるオルフ=シュールベルクの伝統的方法を生かし,さらに発展させ,現代音楽や民俗音楽の手法をもとり入れたりして,オルフ楽器の用法をひろげ,いっそう集団による創作そのものの体をなして来ている,-このようにして,オルフ・インスティテュートでは40年になろうとするシュールペルクの歴史をふまえ,それを現代になお新しく活性化しつつ,子供達の音楽による人間的成長の援けとなるべく努力し続けている.それらの感化に基づき,日本の(熊本の)小学校の普通学校(担任と42人の3年生)において約22分の音楽によるドラマをどのように形成し得るかという実験を試み,今後の教材作成への試金石とした.
著者
渡辺 学 久ヶ枝 隆子
出版者
熊本大学
雑誌
熊本大学教育実践研究
巻号頁・発行日
vol.6, pp.137-148, 1989-02-28

歌唱・器楽・創作といった各領域がそれぞれ系統化されてはじめて音楽科という教科が成り立っているという,他教科のそれにならってする理論立て-リズム・メロディ・ハーモニーという音楽の3要素を,それぞれ低・中・高学年のグレードとし,発達段階をふまえてする系統に見倣すような錯覚も含めて-をすることへの反省として,また,すべての子供に同一の課題を出し,一線にならべて競わせ,優劣を問うような音楽科でなく,それぞれが異る活動をしながら,全体が統一されていく集団的パフォーマンスとしてのミュージカル学習を想定し教材づくりをまとめた.実践を通して,稚拙で荒けずりではあっても,より自由にして自発的な表現そのものをまず認めるべきであるということを知ったことを特記したい.いうなれば,言語・音楽リズム・身体運動・造型性・社会性などのいわゆる保育目標を向上させると同時に,それぞれの領域に分離しない綜合的な表現をということになるのであるが,幼稚園・保育園のみならず,小学校もその延長線上にあることを認識したい.