著者
宍戸 宏造 鳥澤 保廣 久山 哲廣 新藤 充
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

2年間にわたり、細胞接着分子誘導阻害活性を持つ2種の海洋産天然物、ハリクロリンおよびラソノリドAの合成研究ならびにハリクロリン合成中間体の生物活性評価を行い以下1-3の成果を得た。1、ハリクロリンの合成研究:前年度に確立した三環性コア部分の合成法を基盤に、全合成に向けて研究を展開した。その結果、全合成には至らなかったものの、重要鍵中間体までの大量合成ルートを確立することができ、数種の化合物を3で述べる生物活性試験に供することができた。また、光学活性体の合成をめざして検討を行い、鍵となるアザスピロ環部のエナンチオ選択的合成を達成した。この方法も短工程で収率も高く効率的なものである。今後、光学活性体としての全合成に大きく寄与できる結果である。2、ラソノリドAの合成研究:全合成において鍵となる2種のヒドロピラン環部のうち、C1-C16セグメントの高立体選択的合成法を確立することができた。また、C18-C25セグメントの合成も行ったが、予期に反し、C21位でのエピ化が起こり、目的物のジアステレオマーが得られた。今後、この点の解決と全合成の完結に向けて検討を加えたい。3、ハリクロリン合成中間体の細胞接着・浸潤を制御する新規医薬品リード化合物の探索:ハリクロリンを範とし、動脈硬化や難治性炎症疾患治療に有効な薬物の開発につながるリード化合物の創製を目的に、今回合成した中間体を用いて、その生物活性評価を行った。正常およびガン由来細胞株を用いてスクリーニングを行った結果、一つの化合物にアポトーシス様の現象が観測された。このものは、最もハリクロリンに類似した骨格構造と官能基を有しており、天然物そのものもアポトーシスを誘導する可能性が期待され、全合成の意義がますます大きくなった。今後、本来のVCAM-1誘導阻害活性のみならず、アポトーシスの誘導に関する生物活性についても詳細な検討を加え、分子機構の解明と新規リード化合物の創製をめざしたい。