著者
久田 健吉
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.83-97, 2004-01-10

ヘーゲルの国家論の特徴は、国家は人倫を大切にする国家でなければならないとした点にある。人倫を大切にする国家、つまり人倫の国家とは絶対的人倫の理念の認識に基づく諸個人の共存の国家であって、個人が己の個別的意志を普遍的意志へと陶冶していくことにおいて成り立つ国家である。しかし、同時にその国家はその個人を陶冶させる国家でもなければならない。それゆえ国家はこの人倫を発展させる知恵を、制度の知恵としてもつのでなければならない。そうしなければ国家は真の国家とはならない。ヘーゲルはこう考えていたのである。人倫の心とは信頼と尊敬の心。私の終生のテーマとの関連で言えば、隣人愛や慈悲や恕の心となろう。この心の源は市民生活の中にある。法的権利は守られてはいるが、ある意味で弱肉強食の世界になっている市民社会。この市民社会の中にあって、共生の生活をし、互助組織をつくってこの心を育んでいる市民たち。ヘーゲルはこの心ほど大切なものはなく、この心を育てる国家こそ真の国家、こういう国家になってはじめて市民が思いを寄せる国家になることができる。バラバラな「ドイツ的自由」の国家でなく、強固な国家権力をもつ国家を実現することができる。宥和の国家を実現することができる。ヘーゲルはこう考えていたのである。
著者
久田 健吉
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.61-75, 2003-01-10

この研究は、ヘーゲル研究にとって画期をなすものと自負する。本論末尾の「緒論攷」でまとめたように、『人倫の体系』は難解な書、挫折の書、シェリング哲学残滓の書とされ、イエナ実在哲学との関連で、そういうものだろう程度の研究しかなされていない。しかし人倫の体系は、挫折どころか、ヘーゲル哲学の根幹をなす研究をなしている。ヘーゲルはこの書物で問題にしたのは、人間による「絶対的人倫の理念の認識」だった。この認識に至る道は概念の絶対認識を通してであって、この認識を通して民族(国家)を自覚し、人間は民族(国家)を形成するとする。そしてこれを可能にするものこそは「直観と概念の相互包摂」である。直観とは人間の主観性、概念とは客観世界。人間は己を貫こうとして、客観世界に己を対置する。 しかしこの時、真に己を貫こうとしたら、客観世界に即して己を貫くのでなければならないことを知る。これが「直観による概念の包摂」から「概念による直観の包摂」への逆転であって、こうあることが直観による概念の真の包摂だと人間は自覚する。これが人倫の体系で問題にされたことであった。ヘーゲル哲学は精神の哲学と言われる。この研究の上に立つなら、精神が実現してきた世界理性をわがものとしてこそ真の実存、真の哲学と説いていることがよく分かる。私はヘーゲル研究において、新たな地平を提起したと自負する。