著者
久米 裕昭 冨田 ひかる 福原 敦朗
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.321-327, 2022 (Released:2022-06-11)
参考文献数
27

55歳男.28歳から日本酒の醸造元に勤務.42歳時から麹菌(Aspergillus oryzae)を扱う作業を開始すると呼吸困難感,咳,喘鳴が出現し,作業から離れると症状は消失した.症状は次第に増強し,防塵マスクを着用しても作業を中断するようになり,2019年6月に当科外来を受診.血清学的検査では,アスペルギルス特異的IgE抗体陽性,アスペルギルス沈降抗体陰性,Asp f 1(Aspergillus fumigatusの主要抗原)特異的IgE抗体陰性.肺機能検査は正常で可逆性陰性であったが,経過中にFEV1は400mL,15.9%変動した.PEFの測定では,麹菌の作業直後に20.8%低下した.吸入ステロイド薬(Budesonide),吸入長時間作用性β2刺激薬(Formoterol)の配合剤を用いたSMART療法で症状は軽減した.これらの症状,肺機能から,麹菌によるアトピー性気管支喘息で,III型アレルギーの関与は証明されなかった.これまでに,日本酒醸造の従事者に発症した報告は無く,新たな職業性喘息と考えられる.