- 著者
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久米 順子
- 出版者
- 東京外国語大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
夏季にスペイン・イタリアへの出張を行った。スペインではマドリード国立図書館やスペイン高等学術研究院人文社会科学研究センターなどで、イスラーム支配下の社会で生きたキリスト教徒であるモサラベに関して文献を収集した。イタリアではフィレンツェおよびローマの国立図書館などで、ロマネスク導入期のイベリア半島におけるローマ教皇庁の存在とその影響力に関する資料調査を行った。投稿を予定していたレオン・カスティーリャ王アルフォンソ6世没後900年記念の国際会議には、日程の面で都合がつかず、参加することができなかった。しかしそのためにまとめていた成果は、日本の雑誌論文として出版された。アルフォンソ6世の姉ウラーカによる美術のパトロネージ活動を取り上げ、宮廷と修道院の狭間で生きたこの王女が、西ゴート王国に連なるレオン王国の伝統の存続に力を尽くす一方で、イスラーム、北方のバイキング、フランスの諸侯や神聖ローマ帝国など半島内外の多様な異文化との接触体験を持ち、外来様式であるロマネスク美術の導入にも積極的に関わっていたことを示した。他には、昨年行った国際シンポジウムでの発表のうち1件が刊行された(残り2件については印刷中)。また、ロマネスク美術への移行期におけるマージナルな挿絵の特質を論じた欧文論文が1本、マドリードで刊行された研究論文集に掲載された。これらの成果によって、スペイン・ロマネスク美術の生成における異文化受容の田一端を明らかにすることができた。