著者
清水 雅美 安斎 育郎 福士 政広 乳井 嘉之
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.272-280, 1997-05-15 (Released:2010-09-07)
参考文献数
29
被引用文献数
3 5 2

チェルノブイリ事故後, 多くの国々で, キノコ中に比較的高濃度の放射性セシウムが含まれていることが注目されるようになった。キノコは生息する木や土壌などからセシウムをよく吸収し, その移行係数が高い。本研究では, 日本各地で生産された干椎茸中に含まれる放射性セシウムの濃度を分析し, 核実験およびチェルノブイリ原発事故などに伴う全国の環境放射能汚染状況を把握することを試みた。原木栽培した干椎茸を全国の都道府県より集め, 137Csおよび134Csの放射能濃度を高純度Ge半導体検出器により分析した。その結果, 3.4-33.6Bq/kgの137Csが検出された。134Csはいずれも検出限界以下であった。137Csの濃度は各都道府県の雨水・落下塵中の137Cs濃度と危険率1%で有意な相関を示した。また, 137Csの濃度は年平均気温とも危険率10%で負の相関を示したが, 原木中の濃度が把握されていないため, 気温との逆相関は見かけ上の相関である可能性もある。ちなみに, 気温と雨水・落下塵中の137Cs濃度の2変数を説明変数とした重相関係数は0.54 (危険率2.5%で有意) であった。北海道・東北, 関東, 中部, 近畿, 中国, 四国, 九州の7地域にグルーピングして分散分析を試みた結果, グループ内のばらつきよりもグループ間のばらつきが有意に大きいことが示された。気温および降下量との相関性に関する先の考察とあわせて考えると, この事実は干椎茸中の137Cs濃度がそれらの因子と関連している可能性があることを示唆するものと考えられる。