著者
亀田 勇一 福田 宏
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1-2, pp.15-40, 2015-01-15 (Released:2016-05-31)
参考文献数
60

シメクチマイマイSatsuma ferrugineaは「備前国岡山」をタイプ産地として記載され,鞭状器の形態に多型があることが知られている。このうちタイプ産地を含む岡山県,および対岸の香川県からは,鉤状と棒状の2型が記録されている。この2型を分子系統解析と形態解析によって比較した結果,本来のS. ferrugineaは鉤状の個体群に相当し,先端の丸い棒状の鞭状器を持つグループは,シメクチマイマイとは遺伝的交流のほとんどない姉妹種かつ新種であると判断された。この新種は備讃瀬戸周辺の島々と荘内半島,浅口市~岡山市南部に分布している。倉敷市や岡山市南部の丘陵地は土砂の堆積や干拓によって有史以降に陸続きとなった島であり,本新種の分布はこれらの丘陵地に限定されていることから,本来は本州や四国本土にはほとんど分布せず,瀬戸内海中部の島嶼部に固有であった可能性が高い。生息地はいずれも他の陸貝の種がわずかしか生息しない乾いた林内であることから,本新種は瀬戸内海島嶼部の乾燥した気候に適応した種であると考えられる。Satsuma ferruginea(Pilsbry, 1900)シメクチマイマイ殻は低い円錐形で,殻径12.7~22.2 mm,殻長 9.8~16.9 mm 程度,4.0~6.3層。殻表は時に鱗片状の殻皮毛を持ち,光沢は弱く,淡黄白色~赤褐色を呈する。周縁は丸く,褐色の色帯を有する。胎殻表面には鱗片状ないしは皺状の殻皮を持つ。殻口は丸みを帯びた菱形で1個の底唇突起を持つ。臍孔は開く。生殖器では陰茎・膣ともに後端に向けてやや肥厚する。陰茎本体はほぼ一様の太さで,多くは陰茎より長い。鞭状器は中ほどでやや肥厚し,先端は細くすぼまり,曲がって鉤状となる。兵庫県以西の本州と四国,九州の一部に分布する。紀伊半島や京都府以東での分布記録は他種の誤同定で,本種の確実な記録はない。高知県中部をタイプ産地とするオビシメクチマイマイSatsuma zonata(Pilsbry & Hirase, 1904)は殻の形態に差異が見られるものの,生殖器雄性部の形態や分子情報からは本種と区別できないため,異名とする。本種に対してシメクチマイマイという和名を対応させることの妥当性については亀田(2014)を参照されたい。Satsuma akiratadai n. sp. アキラマイマイ(新種・新称)殻は殻径14.2~18.8 mm,殻長 9.9~13.9 mm 程度,4.4~6.0層。前種に酷似し,統計的解析を行っても区別はつけづらい。生殖器では陰茎・膣ともに後端に向けてやや肥厚する。陰茎本体はほぼ一様の太さで陰茎より長い。鞭状器は一様の太さで,やや長く,先端は丸い。タイプ産地は岡山県倉敷市鶴形山。岡山県南部(岡山市南区・早島町・玉野市・倉敷市・浅口市)及び香川県島嶼部と荘内半島北端にのみ分布し,備讃地方の固有種と考えられる。本種の和名および学名は,永年シメクチマイマイ類の研究を続けており,本種個体群の存在を最初に見出した多田 昭氏に献名するものである。